作品ID:946
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生死の交わる学校で
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
「蘇る記憶の欠片」
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「……捲いたわね」
「……らしいな」
二人は夕暮れ時の屋上に来ていた。
ここは病院と学校の間にある、主に洗濯物などが干される場所であり、今の時間帯はだれも近づかないところだ。
「それで、話の続きだけど」
「久しぶりだな、椎名。元気、してたか?」
椎名が切り出す前に彼は切り出した。彼女に視線を合わせず、落下防止のフェンスに向かって歩き出す。フェンスの向こう側、水平線に沈む太陽がまぶしい。
「全部は思い出せてないけど、何となくわかったよ。久しぶりだな。
あれからもう7年か。どんな事故だったか、今でも思い出せねえし、わかんねえ。でもいいや。俺がここを離れてそんなに経過してたんだもんな」
「……天、あんた」
「ああ。少しだけ、消えていたものが蘇ったみたいだ。お前の姿、こなゆきの姿。俺は大切なもんを無くしてたんだな」
「……馬鹿」
振り返る中、肩を震わせて小柄な少女が泣いていた。強気な瞳に涙を溜めて、それでも笑おうとしていた。
「何なのよ、再会そうそう。あんた、忘れてんの、覚えてるの、どっちなのよ」
「さっきまで忘れてた。で、引っ張られる時にいきなり思い出した。っつーか、お前もここに来てるのはなんでだ?」
「……あたしも、それなりのものを抱えてるの」
「分かった。それだけでいい。それ以上は野暮ってもんだろ」
椎名が隣に来てから、天はいろいろ話した。先ほどまでの敵意はない。全部話したわけでもないし、全部思い出したわけじゃない。まだ霞んでいる部分が大半。でも必要なことは全部思い出した。
彼女が幼馴染で、親友だったことを。不思議と初対面の感じがしない。今の自分とは初対面のはず。だが記憶の奥底に眠る何かが、その違和感を消していた。
「そう……。やっぱり、ね」
改めて、椎名は重いため息を吐いた。
「事故のこと、おばさんは黙ってるのね。じゃああたしも言わないし、こなゆきも言わせないよう言っとく」
「……俺が苦しむから?」
「そう。ぶっちゃけ、あたしとあんたとこなゆきが巻き込まれて、いろいろあった。それだけにしておきましょう」
「……助かる」
「何いってんの、親友でしょ?」
「……親友だと、いいんだけどな」
「なに? あんたあたしたちを疑ってるの?」
「そうだな、疑ってるていうより、俺はお前らのことを正確にいえば「わからない」。
だって俺はお前らの知ってる俺じゃない。
そして俺も正確にいえば俺はお前らを知らない。他者の記憶を覗いて知り合いのように接してるだけの部分もある」
怒った顔で睨む椎名に、自嘲を込めた笑みでこたえる。椎名のハッとした顔はすぐさま悔しそうな顔になった。
「そんな寂しいこと言わないでよ。あたしたちは、何が何でも親友。絶対この絆は途切れやしないわ」
「……悪い。もう少し言葉選ぶべきだった」
「まぁいいや。初日に天に会えただけ、よしとするわ。どうせ、明日は治療なんでしょ?」
「……ご名答」
その通りだ。実際明日は新薬の投与を試みている。天に使われる抗がん剤は副作用を抑えつつ、効果を従来の4倍近く跳ね上げたすぐれものだという。
しかし欠点は全ての人に使えるわけでなく、適性検査を合格した人のみ。それ以外の人に投入すると拒絶反応が出て必ず絶命する。天はそんな危険な薬の適性を、一番の好成績でパスした。そしてその時に大量の資金をうけとり、義母に全て渡した。ささやかな彼からの恩返し。どうせいなくなると思ってても、何か恩返しだけはしたかった。
「……まぁ、俺の命なんて精々数か月だけどな」
小さく、椎名にも聞こえないほどの小声で自嘲した。
後書き
作者:orchestra army |
投稿日:2012/01/15 15:01 更新日:2012/01/15 15:01 『生死の交わる学校で』の著作権は、すべて作者 orchestra army様に属します。 |
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