作品ID:951
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生死の交わる学校で
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
「心拍数が跳ね上がってます」
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「ここが私とあなたの部屋になります」
「……」
霞夜と名乗った少女は天を一室に連れて行った。
無音でスライドするとびらをあけた。確かに広い。10畳というのは嘘ではなかったようである。真中にカーテンの仕切りがついていた。
「カーテンの奥が私のスペース。手前が貴方です」
「……なぁ、天戸」
「霞夜」
「は?」
「霞夜。と読んでください。天戸という言われ方は嫌いですので」
「……いや、いきなり名前とかあれなんですけど」
「同居人に何を言いますか。そもそも、どうせ貴方と私、同じような時期に死ぬんですからそんな些末事気にする必要ありませんよ」
「……だけど」
「これ以上何か反論したら今ここで着衣を乱して悲鳴を上げます」
「何する気だよ!?」
「貴方の社会的抹殺です」
「分かった、霞夜頼むからそれだけはやめてくれ!!」
なんか見た目以上に言葉がきつい。というかなんか会話がするすると出来る。本来天は女の子との会話を嫌っていたが。それでも霞夜とはなぜかうまくいっている。
「……そうそう。今のセリフはラノベのセリフを流用しました。本当に男子に聞くんですね。意外です」
「お前普段何してんだよ……」
「治療という名前の放置ですかね。私、あまりに重度なので付属にも行ってないんですよ」
「……そうか。俺、一応付属に今日から通っている」
「うらやましい限りですね。殺したいです」
「放置しててもどうせ死ぬんだろ俺たち。時間の無駄だ」
「そうですね。そういえば私も少し前から新薬に切り替えましたが、意外に効き目強いんですよ。その割に副作用ないのが不気味です」
「科学の進歩だろ」
「だといいんですけどね。あ、貴方の荷物はそこにあります」
軽く部屋の説明を受けて。ひとつ、勝手に仕切りを動かさない。ふたつ。よばいなんぞしたら社会的に殺す。みっつ。互いを名前で呼ぶこと。それが二人の中の決まりごとになった。元々研究施設のおまけで作られた様な場所だ。男女混合の部屋割でもぶっちゃけどうでもいいと天は思考放棄した。
「なぁ、霞夜」
「なんですかあまつ」
部屋の電気を消し、真っ暗やみの中、天は霞夜に聞いた。
「お前、いつ発覚した?」
「去年です。その時にはもう手遅れでしたけど」
「俺と同じか」
「そうなんですか?」
「いや、時期は俺のほうが遅いよ。だけど、手遅れだってこと」
「そうですか……お互い、いつまで生きられるんでしょうね」
「さぁな……別に、俺は」
そこで彼は言葉を切った。見えるのは仰向けで寝ているので無機質な天井だけ。――死んでもいいし。その言葉は呑み込んだ。ぜったい他者には言っちゃいけない言葉だ。
霞夜は言葉の続きを待っていたが、いう気配がないので自分の言葉を言った。
「『死ぬことが出来ないのは生きる目的があるやつだけ。死にたくないと思えるのは生きる希望があるやつだけ。死ぬことが出来るのは死ぬ目的があるやつだけ。死にたいと思えるのは死ぬ希望があるやつだけ』」
「?」
霞夜が何か言った。
「これ、私の好きなラノベの主人公の言葉です。素敵だと思いませんか?」
「……深い言葉だな、意味が」
「そうですよね。だって……私みたいに、生きる目的もない、死ぬ理由もないような人間には、まぶしいだけの言葉ですよ。羨望を抱いても仕方ないです」
「俺だって、生きる理由なんてもうなくしたし、死ぬ理由だってない」
「だったらどうします?」
「適当に死ぬまで待つ。俺にはもう、な」
「そうですか」
それだけで霞夜は悟った。もう、後悔も何もかも枯れ果てた、と。霞夜と同じ場所にいる。そして霞夜は知らない。彼が健忘症を患っていることに。
椎名とこなゆきはがんであることを知らず、霞夜は健忘症のことを知らない。
なんていう皮肉な組み合わせだろう。だれも一歩先には、まだ進めないのだから。
後書き
作者:orchestra army |
投稿日:2012/01/18 16:28 更新日:2012/01/18 16:28 『生死の交わる学校で』の著作権は、すべて作者 orchestra army様に属します。 |
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