作品ID:954
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生死の交わる学校で
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
「治療中」
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「この点滴が終わったら部屋に戻って適当に時間を過ごしていてください。3時間したら採血しますので」
「了解です」
次の日、化学治療室で新薬の抗がん剤を点滴で受けていた天のもとに一人の少女が訪れた。
「天、どうですか新薬の効果は?」
「霞夜」
霞夜である。定期的に抗がん剤を投与するため、違う部屋で点滴を受けていたらしい。点滴の台ごと移動して天の部屋を訪れたのだ。
「確かに、ちょっと効き目が強いように感じるな。少し頭痛がする」
「偏頭痛ですか?」
「そうそう。普段とは違う感じの」
普段と、というのは癌による痛みのことだ。その場合、最悪意識が吹っ飛ぶくらいの頭痛に襲われるが今は右こめかみが少し痛い程度。痛みに慣れている天にはどうということのない痛みだ。
「そうですか。ところで、医者に聞いたんですけど」
「何?」
「貴方が椎名と知り合いだというのは本当ですか?」
「……椎名? 誰だっけ?」
「……昨日、貴方に喧嘩を吹っ掛けた女生徒ですよ。忘れましたか?」
「あ?……ごめん。覚えてない」
実を言うと天は物覚えが極端に悪く、昨日のことを2、3日しないと思いだせないという状況になっている。それに加えて、椎名の名前を思い出せるほどの強い思い出もないので、今は記憶の彼方である。霞夜は昨晩から一緒にいたのと、同室ということが相まって彼の記憶の中から消え去るということはなかった。だから覚えていた。
「……天、どうしましたか? 副作用が出たなら、即刻報告すべきかと思いますが」
「え? いや、俺普段からこんなんだけど」
「なら脳外科に見てもらったほうがいいですよ。脳に異常がある可能性があると思いますが」
霞夜の指摘はもっともで、これが普通の老人だったらボケたか、ですむが彼はまだ10代後半、ボケるには早すぎる。
「いや、言ってなかったっけ? 俺さ、健忘症ってやつ患ってるんだ。だから物覚え悪くてさ」
「……健忘症? 記憶喪失のことですか?」
「簡単にいえばね」
ちなみに、記憶と現実の矛盾はどうしてるか、という問題だが。それは天の頭が勝手に都合のいいようにどんどん解釈していくので、特別心配はいらないらしい。というのが医者の見立てだった。
「……すみません、失礼なことを言ってしまいました」
ぺこっと素直に霞夜は頭を下げて謝罪した。病気は必ずというほどデリケートなものであり、軽々しく発言していいものではないことを霞夜は痛いほど知っていた。なのに言ってしまった。謝罪のしようがなかったが、それでも。
「いいよ。別に。俺だって気にしてるわけじゃないし」
と天は軽く流してしまった。
「え?」
「昔のことを覚えていないことも全部がマイナスってわけじゃないんだよ。だから気にするな、霞夜」
呆ける霞夜を見ながら天はそういった。
後書き
作者:orchestra army |
投稿日:2012/01/21 11:51 更新日:2012/01/21 11:51 『生死の交わる学校で』の著作権は、すべて作者 orchestra army様に属します。 |
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