其之二十
驚異的な速さでカリン塔をのぼったと悟空だが、超聖水を飲むにはカリンという仙猫から超聖水の入ったつぼを奪って飲まなければならなかった。
「カリン様、ひとつお尋ねしたいことがあるんですが……」
深夜――さすがのと悟空でもつぼを奪う試練を一日では達成できず、明日に備えて寝静まった頃。一緒に寝ると言って聞かなかった悟空に抱きしめられながら、起きているであろうカリンに小さく声を掛けた。もちろん悟空は爆睡中だ。
「おぬしの言いたいことはわかっておる。自分が本当に人間かどうか知りたいのじゃろう?」
人の心が読める仙猫様はなんでもお見通しらしい。
「残念ながら、このわしにもわからん。じゃが、おぬしの持っている気はただの人間の気でないことは確かじゃ。もしかしたら、地球人ではないかもしれないのう……」
「そ、……ですか……」
薄々わかっていたことだが、改めて言われると複雑だ。
「なあに、おぬしが地球人であろうとなかろうとよいではないか。師匠に恵まれ、仲間に愛されておる。それのなにが不満なのじゃ」
「! そうですね……これ以上望んだらバチが当たるかもしれません」
「それに、その小僧はたとえおぬしが何者であろうと変わらぬよ。おぬしのために怒り、命を張り、焦るあまり殺されかけた。じゃが、間一髪でおまえたちは生き延び、小僧はおぬしが生きていたことに喜んで、そして涙した」
「悟空が俺のために……?」
卑怯な手で人を傷つける敵を許さず、弱き人々を救い続ける悟空なら、きっとボラやウパのために戦ったはずだ。もちろんあのやさしい悟空のことだ、大切な仲間であるの仇討ちもあっただろうが、決してだけのために動いたわけではないだろう。
「愛されておる証拠じゃ。本人に自覚はまったくないがな」
「あっ愛……?! 悟空が愛?? ……スキとかアイとか食べ物だと思ってそうですけど……」
「にゃはははは! そう言ってやるな。現におぬしと一緒に寝ると散々駄々を捏ねていたではないか! 他の者には言わんのに! 特別に好いておるんじゃろうよ」
「こっこれは俺を安眠枕だと思っているだけです!!」
カリン様がおかしなことを言うから、へんに意識してしまうではないか。
人の気も知らずに安らかに眠る悟空を見たら急に腹が立ってきたので、背中を向けて寝てやろうと寝返りをうとうとすれば、がっちりとホールドされて動けない。
そんなの一連の情動の変化がカリンに伝わったのか、身体を震わせて笑いを堪えていた。そのカリンの様子がまたさらにをイラつかせるのだった。
三日目にしてやっと手にした超聖水はただの水であった。
しかしそれまでの修行で得た力こそ、超聖水の正体だった。と悟空がカリン塔でカリンからつぼを奪おうとした結果、自然となん倍もの力を手にしていたのだ。
「ありがとうカリン様!! ばいばい!!」
善は急げと悟空がカリンに挨拶して、カリン塔から飛び降りた。もそれに続こうとするが、軽い悟空とは違い、深々と頭を下げて礼をする。
「カリン様、本当にありがとうございました。また、来てもいいですか? 今度はカリン様の作る仙豆や薬草についても学ばせて下さい」
「いつでも来るがよい。わしはいつもここにおる」
はもう一度深く頭を垂れ、悟空の後を追った。
カリンはそんなふたりの様子を見て、これからの行く末に笑みをこぼしたのだった。
悟空には桃白白は自分の手で倒すと釘を刺され、黙って筋斗雲に乗ってウパのそばで戦いを見守っていた。しかし桃白白がホイポイカプセルで中国刀を取り出すと、の顔色が変わった。いつも悟空の背中にあった如意棒がない。
は筋斗雲から飛び降り、悟空を斬りつける桃白白の中国刀を天叢雲でいとも簡単に折ってみせた。仕上げに前腕から手掌にかけて走る正中神経を柄の頭で突いて麻痺させ、刀を握れなくしてやる。先に武器を取り出したのは桃白白の方だ、このくらいの助太刀は許してほしい。こっちも死ぬ思いしたわけだし。
「悟空! あとは任せた!」
その後桃白白は反撃開始した悟空にコテンパンにやられ、最終的に命乞いをしてきた。心優しくて人を疑うことを知らない素直な悟空は、ついついとウパを見つめて判断を仰ごうと桃白白から目を離してしまう。その隙に桃白白は爆弾を悟空に投げつけ、自分は上空へと逃げた。
「こんな見え見えの手に引っかかるかっっ!!」
桃白白の三文芝居に気づいていたは、すかさず天叢雲で爆弾を上空へ打ち返すと桃白白は爆発した。これで二度と姿を現さないだろう。
ホッとする前に、悟空には少し世の厳しさを教えてやろうと口を開こうとするが、ウパとふたりで無邪気に喜ぶ悟空を見たらそんな気は消えてしまった。そこが悟空の良いところでもあると考えたら、怒るに怒れなかったのだ。