其之二十三
※悟空名前のみの登場
占いババによってドラゴンボールが見つかり、無事ウパの願いはかなえられた。
みな三年後の天下一武道会でまた会おうと別れ、は互いの師匠に言われた弱点克服のため、悟空とは尻尾が生えてから会うことを約束した。それまではしばしの別れだ。
ここはずっとずっと西に在る、聖地カリン。もまた亀仙人の言いつけにより、自分の足でこの地にやってきた。以前のならばどう足掻いても辿り着けなかったが、地図や自分の方向感覚ではなく、カリンの気をさがしながら道無き道を歩むことで目的地に到着できた。
「っあ! さん!?」
「ウパ、久しぶりだな。ボラさんもお元気そうでなによりです」
カリン塔前まで来ると、テントからウパが顔を出した。はウパの頭を撫でながら、ウパの声に気づいてこちらにやって来たボラに挨拶をした。
「今日はゆっくりいれるのか? あの時礼しか言えなかったから、大歓迎したい」
「そんな……俺はたいしたことしてませんよ。今度悟空にでも――」
やんわりとお断りしようとした言葉の途中で、ちょうど盛大にの腹の虫が鳴った。そうだった、カリン塔にのぼったら仙豆をもらおうと朝からなにも食べていなかったのだ。
無言でを見つめるボラとウパ親子の視線に耐えきれず、頬を赤らめて俯く。
「……お言葉に甘えようと思います」
の歓迎の準備をしてくれている間、ウパに水浴びがしたいと案内を頼んで水辺まできていた。生憎大きな気や知っている気がない場所へ行くときは相変わらず迷ってしまうのだ。
「わっ! すごいご馳走!」
水浴びを終えてさっぱりしたを待っていたのは、山盛りのご馳走だった。こんなことなら悟空も連れてくればよかった。
「さんと悟空さんは、いつも一緒じゃないんだね」
「ああ、今は別々に修行して、あとから合流してお互いの弱点を克服しようってことになったんだ」
「そうなんだ! ボク、夫婦はいつも一緒にいるもんだと思ってた!」
「っんぐ?! ふうっうぅ?!!」
ウパの爆弾発言により口の中の食べ物が気管に入ったに、ボラが心配そうに背中をさすりながら飲み物を渡してくれた。有り難くもらった飲み物を一気に飲み干して喉の詰まりを流す。
また死ぬかと思った――もしや聖地カリンはの死にスポットなのだろうか。
「ウパ、彼らはたとえ離れていても見えない絆で結ばれているのだ。それに、夫婦以外にも恋仲のかたちはある。婚姻を結ぶ前に、まずは恋人という関係を経ていることも多い。きっと彼らの年齢的に恋人どうしという方が妥当だ。夫婦とは少し飛躍し過ぎているぞ」
いや、違う。そうじゃない。
恋人だの夫婦以前に悟空とはただの兄弟弟子だ。真剣に息子を諭すのは構わないが、内容が自分に関連している内容なだけに口を挟まずにはいられない。
「あの……俺と悟空はただの仲間ですし……そもそも俺たち男どうしですし……」
「「え?」」
「え……?」
ボラとウパは顔を見合わせた。
何か変なことを言っただろうか。
「わたしたち一族には心眼の力が備わっている。その者の本質を見抜くことは容易い。さんが男のフリをしていることはわたしも、そして息子のウパも気づいている」
「な、え……う、うそ……!」
そんな漫画みたいな設定はいくらなんでも卑怯だ。それではいくらうまく自分が男装していても無意味ではないか。
がくりと肩を落として見るからに落ち込んでいるを、悟空は気づいていないからとボラがフォローを入れてくれたが、悟空はそもそも男も女もよくわかっていないから嬉しくはない。
「さんがなんで男のフリしてるのかボクにはわからないけど……でも、悟空さんはさんのことがだいすきだと思うな! だってあの悪いやつにさんがやられたとき、すっごい怒ってたもん! それに、さんが生きてたとき泣くほど喜んでたし!」
なぜこんな幼い子供に、いかに悟空が自分を好いてくれているかプレゼンをされているのだろうか。
「愛に男も女も関係ない。さんだからこそ孫悟空はそこまで感情を露わにしたのだろう。わたしを命懸けで救ってくれたふたりが一緒になったらうれしく思う。きっとよい夫婦になる」
いやさっきからボラさんのキャラ崩壊激しいな。そんなこと言うキャラじゃないでしょう。
はカリン塔にのぼる前に変な体力を消費したのであった。
なんだか心に深いダメージを負ったような気がする歓迎会を終え、いよいよ自分と同じ重さの重りを四肢と背中にくっつけて、カリン塔にのぼる準備がととのった。ボラとウパに挨拶し、猛スピードでのぼっていく。だんだんと小さくなっていく人影は、ものの数秒ではるか遠くへ雲散してしまった。
「ウパも将来強い嫁をもらうんだぞ」
「はい! でも、さん以上に強い女の人は見つからないと思います……」
ウパはまた少しのおかげで大人になっていた。
「きたか」
「カリン様、お久しぶりです」
前回のぼった時よりもだいぶ早く辿り着いたに、カリンは特段驚きはしなかった。と悟空の成長ぶりはカリンも認めており、もはや数々の敵と戦ったと悟空は、あの亀仙人をも超える実力を身につけたと言っても過言ではない。彼らはいったいどれほどまでに強くなるのだろうか。
「おぬし、落ち込んでおるのか?」
「っへ?! いや、その……自分の男装に自信がなくなってきて……」
「それでも武天老師に勝つまで男装をやめないなどと意地を張りおって……」
「自分なりのケジメです」
本当に真面目な意地っ張りだ。
早く素直に女になってさっさと悟空とくっついてしまえばいいものを――これだから最近の若いモンはとカリンはため息を吐くのだった。
しばらくカリンと修行しつつ、仙豆や薬草について勉強させてもらった。仙豆は神力を持つものしか栽培出来ないらしいので諦めたが、その他の薬草の栽培の仕方や効能、煎じ方などの薬に関する知識はどの本を読むよりも勉強になった。はカリンからありとあらゆるものを吸収しようと、なんでも貪欲に追い求めた。
「……おぬしはどこまでいくのじゃろうな……」
カリンの言葉を背に受け、はカリン塔から見える空を眺めながら口を開いた。
「カリン様は見抜いていると思いますが、俺はとても弱いんです」
だからこそ、強く在りたくて師匠から武道を学んだ。その師匠が病気で亡くなったとき、自分の知識や薬がいかに未熟で無力だったと痛感した。師匠はこれもまた天命だと病気を諦めていたが、自分が救える命があるのであれば救いたい。
「力以外で救える道があるのなら、俺はその道も歩みたいと思うのです」
それはとても強欲なことかもしれない。
なにもすべてを救えるとは思っていない――ただ、自分が二度と失いたくないだけなのだ。
※ボラたち一族の心眼や仙豆云々は適当設定です。