蜜雨

其之三十一

 超神水のおかげで秘めていた力が引き出された悟空は、ピッコロ大魔王の部下を一撃で倒し、神龍に望んで若返ったピッコロ大魔王と対峙していた。
 悟空は筋斗雲で移動中、ピッコロ大魔王とは一対一でやらせてくれとに頼んだ。もちろん今の悟空の強さならば必ずやピッコロ大魔王を倒せるだろうと信用していたので了承したが、悟空が万が一死にそうにでもなったら手を出すと釘は刺しておいた。

「……俺たちは死ぬ思いで今の力を手に入れたんだ」

 今までとは比べものにならないほど急成長を遂げた悟空の圧倒的な力に驚いている天津飯に話しながら肩を貸し、悟空とピッコロ大魔王から距離をとった。気を完全に絶っていたが突然現れて天津派は面食らったが、自分の存在が邪魔になると気づいて大人しくと共に移動する。

「一体どんな修行すればあれほどの力を……!!」
「あとで詳しく説明する。とりあえず今はその身体を治療しよう」

 は適当な場所に天津飯を横たわらせると、天津飯の体に手をかざし、気を送り込んだ。どん、と一気に天津飯の身体に気が入り込むと、痛みはなくなって体が軽くなった。

「……すまない……助かった」
「いや……よくおまえはひとりで戦った……武天老師さまも、餃子もいないのに……」
「! 知っていたのか……」

 は静かに頷き、お喋りは終わりだと視線を悟空とピッコロ大魔王に向ける。

「この勝負は、どっちかがバラバラにならなきゃ終わらねえよ……」

 悟空がピッコロを睨みつけ、再び死闘が始まった。
 悟空をバラバラになんかさせるか――固い決意を胸に、は拳を握りしめながら見守っていた。



 悟空の片足がやられたが、当然ピッコロ大魔王は治す暇を与えてはくれない。
 どうしたものかとが思案していると、一台の飛行機がこの近くの様子を見ていることに気がついた。は舌打ちをしながら舞空術で飛び上がって飛行機の近くまで行けば、なんと乗っているのは国王だった。

「間もなくすごい爆発が起きます! 早く逃げて!!」
「しかしまだ若い君たちが戦っているというのに、国王が見捨てるなんて……!!」
「国王のあなたが死っうあ゛!!??」

 逃げ惑う国王たちを説得していると、一筋の光線がの脳天をぶち抜く。の血が飛行機の窓に飛び散ると、恐れ慄いた操縦者はスピードを上げて離れていき、それを見届けたはふっと笑って目を閉じて下降していった。

「あ……あ……っ!!」
「あれの治癒能力は厄介だ……」
「っく! 見ていたのか……?!」

 ピッコロ大魔王は天津飯の気が完全に戻っていることも、そしてそれがの能力であることも気がついていた。だから時機を見て厄介なを殺そうとしていたが、まさかあんな奴らに構って隙を見せるとは嬉しい誤算であった。
 ピッコロ大魔王はが殺された動揺を隠せない悟空の如意棒を嘲笑うかのように光線で弾き飛ばす。

「終わりだーっ!!!!」

 ピッコロ大魔王は一気に力を放出すると、地面を削りながら爆風が舞い上がって辺りを一掃していく。
 終わった――そう思ったが、まだしぶとくも悟空の気を感じる。ピッコロ大魔王は入念に周囲を見回すと、上空から声が聞こえた。

「なるほど……!! あいつの舞空術があったか……!」
「助かった……サンキュー」
「これものおかげだ……!」

 だが天津飯は爆発から悟空を守りながら飛び上がったために傷を負っていた。悟空を下ろすと同時に地面に伏せってしまう。

「やはりあれを消しておいて正解だったな……もうきさまが助かる術はない」

 を殺して天津飯も動けないとなれば勝利を掴んだも同然だ。
 ピッコロ大魔王は再び爆力魔波を放つ気を溜めるが、悟空はその技が気を溜めている間は隙が大きいことを見破っていた。今がチャンスと渾身の力で地を蹴り、ピッコロ大魔王のガラ空きの腹を突き抜けてやろうとしたが、片足が万全でなかったためにそれは叶わなかった。ピッコロ大魔王はダメージを負いながらも、気を放つ準備が出来たようだ。

「おのれ消えてなくなれいっ!!!!」

 地面は抉れ、ぽっかりと大穴があいた。今度こそ終わりだ――そう思ったが、悟空は直撃こそしたものの咄嗟にガードをして堪えていた。やはり先程と比べてピッコロ大魔王も力が落ちているようだ。

「こ……このピッコロ大魔王さまにたちうちできる人間などおるわけないのだ……」
「へへへ……オラ、シッポはえてるから人間じゃないかもな……」

 お互い力はほとんど残っていない。次の攻防で決着なるか。
 だが、ピッコロ大魔王は悟空よりも早く手を考えた。

「よーしうごいてみろ!! こいつの頭がくだけちるぞっ!!!」

 ピッコロ大魔王は最後の足掻きで、動けない天津飯の頭を掴んで人質にした。構わずやれと呻く天津飯の頭がみしみしと悲鳴をあげ、悟空の動きが完全に止まった。それをいいことにピッコロ大魔王は吹き飛ばした石を当てて天津飯を見捨てられない悟空を嘲弄する。しかし悟空は必ずドラゴンボールで天津飯も、そしても生き返らせると誓って覚悟を決めた。だがピッコロ大魔王はやはり悟空を一笑に付すばかりであった。そう、神龍はピッコロ大魔王が殺したのだ。

「ふっふっふ……ざんねんだったな。死んだあいつも、そしてこいつも殺してしまえば二度と生きかえ「まだ死んでねえよ!!!!」

 ピッコロ大魔王の天津飯を持つ腕が斬り落とされた。こんな真似出来る者なんてひとりしかいない。

!!?」
「なにいっっ!!?」

 ピッコロ大魔王は思わず上空に飛び上がった。斬り落とされた腕は再生できるが、その前に今度こそまとめて消し飛ばしてやると気を溜める。

「っあいつ! また気を溜めて……!!」
「大丈夫……少しは俺にも守らせてくれ」

 悟空が好きないつもの笑顔を浮かべては言葉通り悟空を守るように立ち、片手をピッコロ大魔王に向けて翳した。まさかあれでこの衝撃波を受け止めるつもりだろうかとピッコロ大魔王はせせら笑った。

「死ねえーーーっ!!!!」

 凄まじい衝撃が大地に響き渡った。地面は割れ、直撃を受けたと悟空は消し炭と化しただろう。自分だけが助かった天津飯はあまりの不甲斐なさに奥歯を噛む。

「死んでたまるかよ」

 爆煙が霧消していくと、砂埃にまみれて放胆に笑うが悠然と立っていた。さすがのピッコロ大魔王も傷ひとつなく、気が減るどころか途方もない気の大きさを保つを見て少しばかり及び腰になる。

「悟空!! 今だっっ!!」

 負傷していた手足をに治してもらった悟空はピッコロ大魔王に向かって飛び上がった。しかし舞空術が使えない悟空では、ピッコロ大魔王に辿り着く前に勢いは消えて失速するだろう。ピッコロ大魔王はそれを読んで、空中で自由のきかない悟空の心臓を鷲掴んでやろうと迎えうつ。

「受け取れ悟空ーーーっっ!!!」

 の治癒能力と力が気弾にのって、傷つき消耗した悟空の身体を回復させながら勢いよくピッコロ大魔王の元へと連れて行く。

「つらぬけーーーっ!!!!」

 ピッコロ大魔王の体に風穴があいた。
 一瞬悟空から大猿の幻を見た気がするが、気がついたのはと、そして倒されたピッコロ大魔王だけであった。

「勝った……か、勝ったぞーーーっ!!!」
「やった! やったな悟空!!」

 雄叫びをあげながら急降下していく悟空を、が迎えにいってそのままふたりで抱き合った。

「結局の助けを借りちまったな……!」
「言っただろ、誰も死なせないって」
「でもオラ、はピッコロに殺されたと思ってたぞ」
「ああ、俺も死んだと思ったよ……もしかしたら俺は「! 孫悟空!」
「あっ天津飯だ! ……、なんか言ったか?」

 なにか言いかけて天津飯に遮られてしまったに悟空は聞き返したが、今は話すべきではないとは首を振ってそのまま悟空を抱えながら地上に降り立った。

「あれ? ヤジロベー?」
「せっかくオレがピッコロをやっつけてやろうとしたのによう……もうおめえらがやっちまったあとだったんだな!」
「はあ……今更来やがって……昔からそういう奴だよ、おまえは……」

 相変わらずの兄弟弟子に、深く大きなため息を吐くしか出来なかった。さすがの悟空も乾いた笑いしか出てこない。

「孫悟空、……おまえらには助けてもらってばかりだった……礼を言う」
「一緒に戦った仲間を助けるのは当たり前だろ! さ、天津飯も悟空も並んだ並んだ!」

 は両手をふたりに翳して一気に気を送り込んだ。ぶわりと全身に気が巡ってあたたかくなった身体はみるみる傷が治っていき、絶好調となった悟空は喜び勇んでに抱きつくが、勢い余って倒れたはヤジロベーに助けを求めてもがき苦しんでいた。そんな様子を天津飯は神妙な面持ちで見つめる。
 確かにはピッコロ大魔王に殺されたはずだった。その時の気が消えたのを天津飯は確認している。だがはあの通り傷ひとつなく生きて天津飯や悟空を助けた。それに加えてこの底が見えぬほどの莫大な気の量に天津飯は驚いていた。あの悟空や天津飯の気を充実させるほどの量を与えても、気は減るどころか溢れ出している――はっきり言って化け物だ。悟空もだが、あのも一体何者なのだろうか。

! 孫くん! 生きてたのね……!!」
「天津飯も無事かっ……!!」

 恐る恐るこちらにやってきたのはブルマとヤムチャ、ランチであった。みんなにピッコロ大魔王を倒したと報告すれば涙を浮かべて喜んだ。ブルマに抱きつかれたはちょうど首をいい感じに締め上げられたらしく、苦しさのあまり別の涙も流していたが。

「なあ、天津飯……神龍は死んだってほんとか……?」

 天津飯は悟空の問いかけに無言で頷く。それはもう二度と誰も生き返れなくなったという意味でもあった。
 がその言葉に俯くと悟空の如意棒が目に入り、そこで急激にカリンと修行中に話していたこの如意棒の真の意味と希望を思い出した。

「もしかしたら、なんとかなるかもしれない……!!」

 は手に取った如意棒を握り締めて声をあげた。珍しく興奮気味に話すにみんなは目を丸くしている。

「悟空! 急いでカリン様のとこに行くぞ! ヤジロベー、早くクルマ出してくれ!!」
「ちょ、ちょっと! それっどういう……!!」
「ブルマ! とりあえずみんなの死体は燃やさず大切に保存しておいてくれ!!」

 意味深な言葉ばかり残していったは、ちゃっちゃと悟空とヤジロベーを連れてカリン塔へ向かって行ってしまった。ブルマは相変わらず忙しないたちに怒っていいのか呆れていいのかわからず、最後はため息を吐きながらも苦笑をもらすしかないのだった。






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