蜜雨

 一緒の部屋で寝ると駄々を捏ねた悟空をなんとか(神とポポに協力してもらいつつ)説得し、個室の獲得に成功したはひとりベッドに寝そべって考えあぐねていた。
 亀仙人との戦いに勝利したら男装はやめ、ありのままの自分で生きると決めていた。それこそ天下一武道会が終わったら、心機一転して女に戻る気持ちでいたのだ。しかしクリリンの死、ピッコロ大魔王の復活でそれどころではなく、先延ばしになってしまった。
 みんなには次の天下一武道会で打ち明けるとして、問題は悟空だった。男女の区別もいまだにたいしてわかっていない悟空に話をして、果たして理解してもらえるのだろうか――そもそも理解してもらおうと思う方がおこがましいのだろうか。あの悟空のことだから、男装をしていなくてもまったく気づかない可能性すらある。いっそ明日はなにも言わずに素の状態で生活してみるのが一番なのかもしれない。

「寝よ……」

 もうサラシ生活とはおさらばだ。



其之三十三




 神殿の朝は早い。
 まずは身支度を整えたら神殿の外周から始まり、肉体強化という名の地獄の筋トレ、精神統一、それから朝食である。

「あ、悟空おはよう」

 神殿の廊下を歩く悟空を見つけ、ごく自然に隣を歩いて一緒に広場へと向かう。今のところ平常心を保てている。よし、いつも通りだ。いつも通り笑顔で挨拶を――

「いっ!? おめえ、胸腫れてるぞ!?」

 いつも通り笑顔で挨拶をしてきたに、悟空も挨拶をしようと口を開くが、その前に今までなかった(何回か悟空はばっちりの生乳を見ているが、もれなくすべて忘れている)の明らかな胸の膨らみが目に入り、声を荒げてあろうことか触ってきた。ひとつ、悟空の名誉のために言い訳をするとすれば、本当に病気かと思って確認しただけである。

「オラ、神様に言ってくるからすぐになおしてもらえ!!」
「……っな!? ちょ、まって!! それだけはやめてーーーっっ!!」

 あまりにも自然に胸を触られて反応が遅れてしまったの叫びも虚しく、本当にが心配なだけの悟空は必死に神のところまで走っていってしまった。これでは恥さらしにもほどがある。サラシは昨日捨てたのに――なんて寒いことは言ってられない。全力で悟空を止めに朝からハードな全力ダッシュが始まった。



「神様ーっ!! はあっが! の胸がっ、ものすごく腫れてんだ!! みてやっ「や、めろばかっ!! はあっ、は……!」

 広場でふたりを待ち受けていた神とポポは、走り込みをする前に息が切れるほどの勢いで走ってきたふたりに目を見開いた。少しだけ引いている神とポポに、必死なふたりはもちろん気づいていない。
 惜しくも悟空が先に神の元に辿り着いてしまって肝心な部分は隠せなかったが、一発入れなければの気が済まなかった。顔を真っ赤にしたの渾身の拳骨は、悟空の頭にギャグ漫画みたいなたんこぶをつくり、床はギャグ漫画みたいに人型にめり込んでいた。

「……朝から元気じゃな、おまえら」
「いっ、つつ……なんで病気のこと隠すんだよ! オラ、またが死ぬのやだぞ!!」

 頭をおさえながら起き上がる悟空を見つめ、は覚悟を決めた。本当はこんな展開望んでいなかったのだが(できればもう少し落ち着いて話したかった)、致し方ない。

「あのね、悟空……今まで黙っててごめん。私本当は女なんだ……」
「………………女?」
「うん。ブルマと一緒の女」
「おめえ女だったんか……!!?」
「だましててごめんね……これには……っ」
「でも、女だからってのままなんだろ?」
「え……? あ、うん」
「じゃあいいや! が変わらねえんだったら!」

 あっけらかんと笑い、頭にできた特大たんこぶのことなど忘れて悟空は走りに行ってしまった。

「すべておぬしの杞憂だったようだな」
「ふふ、そうですね……悟空は、悟空ですもんね……」
、さっさと走りいく」
「はいっ! 精一杯頑張らせていただきます!!」

 はすっきりとした笑顔で悟空の後を追いかけていったのだった。






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