悟空がへの恋心を自覚して暴走しかけたが、そこは見事が強めの一発を入れてくれたおかげで、なんとか恋心を落とし込むことに成功したようだ。たまに修行の合間にを見ると抑えきれない恋心が顔を出して雑念が入ることもあるが、大きく支障が出ることはなかった。なにしろお互い容赦なくそれこそ顔面や関節を狙った攻撃を仕掛けたりするのだ――本当に彼らの間に恋愛感情があるのかと神とポポが心配するくらい修行には本気である。
しかしひとたび修行が終わると、この天然コンビは無意識にイチャコラしだすのだ。
其之三十五
今日も午前中のメニューを淡々とこなし、昼食を摂っている時だった。
「、おめえそんなんで足りんのか?」
相変わらず物凄い量をおそろしいスピードで平らげる悟空が、目の前でちまちまと食事をしているを心配していた。
「むしろ悟空より食べる人がいたら見てみたいよ……」
「ほれ、もっと食え」
「んぐっ?!」
の呟きが聞こえなかったのか、悟空は構わずの口に炒飯を突っ込んできた。
「うめえだろ?」
美味しいけども――悪びれもなくにこっり笑う悟空を前にしてしまえば、怒るに怒れなかった。
後日、自分が与えると一生懸命口を動かしてもぐもぐと食べるの姿が気に入ったのか、悟空に食べ物を突っ込まれるの姿を頻繁に見掛けるようになった。他所でやれ。
またある時のことである。
はお世話になっている身として手伝えることはなるべく手伝おうと、悟空の食べる量に比例して増える食器を洗うと申し出るようにしていた。本当は悟空にも手伝ってもらおうとしていただが、一度手伝ってもらったら何枚も食器を割るものだから諦めた。
「ポポさん、食器洗うの手伝いますね」
「休まなくていいのか」
「洗いながら食休みします」
ポポとが時々雑談しながら黙々と食器を洗っていると、必ずやってくるのが悟空であった。どうやら悟空は修行中以外はがとなりにいないと落ち着かないらしい。しかもへの恋心を自覚する前から悟空はこんな調子だ。そりゃ神やポポは早いとこくっついてくれと思うわけである。
「、オラ熱い茶がのみてえ」
「もーっそのくらい自分で……入れられなかったわね……」
悟空はなんやかんや言いながらも自分のわがままをきいてくれる時の、少し困った顔のが何気に好きだった。
ちなみにこの時のポポはひたすら心を無にし、なるべくと悟空を視界に入れないようにして食器を洗うのであった。
またまたある時の修行の合間の出来事であった。
「わっ本当ですか! やった! 約束ですからね!!」
は神の手を握って満面の笑みで珍しく無邪気にはしゃいでいた。
「、神様となに話してんだ?」
悟空はと神を引き剥がすように、ごく自然にの肩を掴んで自分の方へと引き寄せた。神に向けた顔は笑ってこそいるが、どこか威圧感があり、神は背筋を凍らせる。
幾度となく死線をくぐり抜けてきた悟空も、が絡むとただの男だ。そんな悟空と常に一緒にいたはずのは、どうしてここまでわかりやすい態度の悟空になにも察せないのだろう。
「えへへ、内緒!」
「オラに話せないことなんか? 神様には話したのに……」
悟空の顔つきがだんだんと険を帯びていく。
「そっ孫! 落ち着け! はただここの図書室に興味があって、今度案内するという約束をしただけだ!!」
「あっ! なんですぐばらしちゃうんですか!」
テンションが上がって浮き足立っているのはわかるが、のんきに笑っている場合ではない。
の横にいる男が人が殺せそうなほどの気を放っているのにそろそろ気づいてくれと神は切に願っていた。
「が行くならオラも行く」
「ええっ? 悟空が行っても多分つまんないよ? それよりもほら、さっさと組手やろ!」
おおよそ神に向けるには些か冗談では済まされないほどの殺気を放っていた悟空だが、が笑顔で悟空の手を引けばスッといつもの悟空に戻っていた。
まったくもって恋とは厄介なものである。