蜜雨

其之四十七

「夫婦になったら一緒に風呂入っていいんじゃねえんか?」

 そう発言する悟空は決して間違ってはいないのかもしれないが、は何度か裸を見られてはいるものの、まだ素直に悟空にすべてをさらけ出す勇気はなかった。だが一緒にくっついて寝ることに関してはも異論がなかったので、狭くても悟空と同じ布団で寝ていた。ちなみにがあっさりと一緒に寝ることを許した時の悟空の喜びようといったらなかった。やむを得ない状況以外では抵抗に抵抗を重ね、拒否をし続けてきたのだから無理もないだろう。しあわせを噛み締めるようにを抱く悟空を見ていたら、少しだけ気の毒に思ってしまったのは内緒だ。



「……ん、まぶし……」

 ふと意識が浮上したと思ったら、降り注ぐ朝日に起こされた。もぞもぞと朝日を避けるように動いて瞼をゆっくりと持ち上げると、の気配で起きたのか、まだ夢現の悟空と目が合った。

「おはよ、悟空」

 へにゃりと無防備に笑うに、またも胸が締めつけられる。悟空は吸い寄せられるようにの唇にキスを落とす。何度重ねても足りない。

「へへっオラすげえしあわせだ」
「ふふっ私も」

 ふたりで笑い合う朝が、これからもずっと続きますように。そう願わずにいられない。



 夫婦になったといっても、今までもだいたいふたり一緒にいたので、あまり生活に代わり映えはしない。の家の方が広くて設備が整っているということと、と一緒ならばどこでもいいと豪語する悟空に甘えて、現在ふたりはの家に住んでいた。

 すでに日課となってしまった朝の修行を早めに切り上げ、ご飯を作りには先に家へ帰った。悟空も帰りに適当に魚を獲ってくると言っていたから、外で丸焼きにしてもらうとしよう。は献立を考えつつもお鍋に火をかけながら食材を素早く切っていく。刀を武器にしているの包丁捌きはなかなかのものであった。
 料理の合間にこれまた日課としている仕事のメールチェックをしようとパソコンを開く。はブルマはもとより、ブリーフにも気に入られ、カプセルコーポレーションで新事業の立ち上げを数年前から行なっていた。といっても今までは修行中の身であったので、まだまだ本格始動には至っていなかったが、今後は修行よりもこちらの仕事をメインに動くつもりだ。悟空と結婚したとなればお金も稼がなくてはならないし、これから忙しくなる。

「ふふふふふ……真面目なあんたならすぐにパソコン開くと思ってたわよ……」
「ひっ!?」

 メールチェックしていると、急に画面が切り替わり、あやしく笑うブルマが映った。ははじめこそ驚いていたが、あの天才ブルマがのパソコンをジャックするなんてわけないとへんに納得してしまった。

「昨日はよくも逃げてくれたわね……!」
「だからそれはごめんって……!」
「あんな熱烈な公開プロポーズとキスシーン見せつけといて……昨日どんな初夜を迎えたのかくらいこのブルマさんに教えなさいよ!!」
「ちょっ! 朝からそんな話題やめてよね!!」
「なあ、しょやってなんだ?」

 最高に最悪なタイミングで旦那様がご帰宅したようです。

「ご、く……んっ!」

 が慌てて振り返ると同時に唇にあたたかい感触が。

「まさかあの孫くんがこんななるなんてねえ……まあ昨日あんたたちがなにもなかったのはとりあえずわかったわ」
「ブルマ! 冷静に分析しないでよ!」
「なあ、しょやってなんだ?」

 しみじみと息子の成長ぶりに感心するかのようなため息を吐いたブルマと、いまだ初夜の話題を引きずっている悟空に囲まれては眩暈を起こしそうである。

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。表彰式も賞金もぜんぶわたしたちに投げだした困ったさんたち」

 にっこりと笑っているはずなのに、ものすごい圧力が画面越しから伝わってくるのは気のせいではない。今この世で最も強い夫婦であろう悟空ともたじたじである。さすがふたりと長い付き合いがあるブルマだ。

「今日の夜わたしの家でパーティするから必ず参加すること! その時にあんたたちの結婚式について話し合うわよ!」
「結婚式?!」
「ケッコンシキ?」

 またも悟空は謎の言葉がでてきてチンプンカンプンである。

「別に結婚式挙げなくても……私は悟空がいればそれ以上望まないんだけどな……」
「オラもがそばにいればいいぞ?」
「ほんっとこの色ボケ夫婦は自分のことに無頓着なんだから! 私たちが結婚式挙げさせたいの! 仮にも世を救ってくれた夫婦なんだし、ド派手にバーンと! それに! 気づいてないかもしれないけど、みんなあんたたちが結婚してほんっとうれしかったのよ! ……もちろんわたしもねっ!!」

 ブルマがはちゃめちゃに強いこのふたりと、ドラゴンボールをさがす旅に出たのはもうずいぶんも前のこと。そこでに憧れにも近い一目惚れをして、悟空との取り合いもしたことがあったが、その実は女の子だった。けれどもが女の子と知らないはずなのに、悟空はずっと一途にだけを見つめていた。男女の区別がつかなかった悟空らしいが、本当に悟空は女の子であるではなく、自身をすきになったのだ。そんな悟空の想いにが応え、晴れて相思相愛となり、なにもかもすっ飛ばして夫婦となった。試合中、武舞台上でプロポーズして、そのあとガチンコでやりあう夫婦なんて、世界中どこをさがしてもいないのではなかろうか。悟空とらしいといえばふたりらしい。そんなふたりをみんな心から祝福したいのだ。

「ブルマ……ありがとう、すごくうれしい……っ!」
「ふふ……わたしも孫くんもこの笑顔にやられたのよね……」

 やはり女の子になってもの顔がどタイプなブルマであった。






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