蜜雨

其之四十八

※最後微エロ気味



「それじゃ、孫くんの優勝と、孫くんとの結婚を祝して……かんぱーい!!」

 ブルマの鶴の一声で再びカプセルコーポレーションの庭へと集まった仲間たちはみな笑顔だった。も自分たちのために会を開いてくれたブルマと、駆けつけてくれた仲間に感謝の気持ちでいっぱいだ――この服を除けば。

「この服スースーして落ち着かないんだけど……!」
「こんな時ぐらいおしゃれしなさいよ! あんた立派なもん持ってんだから!」

 はブルマの家に着いた途端部屋に隔離されて完全なブルマの趣味により、少し屈めば胸の谷間がチラリと見え、鎖骨と肩が剥き出しのドレスを強制的に着させられた。おまけにものすごくタイトなつくりのドレスは体の線がはっきりと出て、スカートの丈自体は長いが、深めのスリットが入っていて太腿までがっつり見える仕様になっている。しかし武道の達人なだけあって、引き締まった体と程よい筋肉がセンシュアルさを醸し出していた。

「ナイスじゃブルマ! さて、師匠として弟子の成長を確かめんとな……!!」
「人妻とはまたいい響きじゃのお……どれちゃん、あっちでわしとふたりだけでお話しようか」
「えっと……」

 普段ならば絶対に見られないの姿に大興奮する亀仙人とブリーフは、そんなエロオヤジでも尊敬するふたりに強く出れないのをいいことにに迫ってくる。

「おめえなあ……オラのことはすぐ殴ってたくせにじいちゃんたちはいいんか?」

 御馳走を食べながらも、しっかりとから目を離さなかった悟空がを抱き寄せた。いつもの悟空の体温に包まれてホッとする。助かった。

「うふふっよかったわねえ、頼れる旦那様が登場してくれて」
「ブルマも見てたんなら助けてよ……!」
「それよりも! 孫くん、どう? のドレス姿!」

 が恨めしそうにブルマを睨みつけるが、こわくもなんともないブルマはどこ吹く風で、にやにやと悟空にのドレスの感想を訊いていた。

「どうって……」

 しかしもそれは気になるところであった。ブルマにはいろんなことに無頓着と言われるが、も一応女の子である。無理矢理とはいえせっかくいつもと違う格好をしているのだから、もしかしたら悟空の口から思いもよらない感想が飛び出てくるかもしれない。

だろ? ならなんでもかわいいぞ?」
「そんなこと聞いてんじゃないわよ! もっと他に言うことないの?!」
「あり? どうしちまったんだ、耳まで真っ赤だぞ? もしかしてキレイって言ったほうがよかったんか?!」
「っっ!!!」
「おっおいブルマ! なんかの体まで赤くなってきたぞ! 病気なんか?!」
「ある意味ね……この色ボケ夫婦が……」

 がどんな格好をしてようが、かわいいと悟空がはっきり言ってくれた。それだけでには充分だった。ブルマにしたらそんな月並みな感想を求めていなかったのだが、本人がいたく喜んでいるようだったからよしとする。



「にしてもまさかオレたちの中で最初に悟空が結婚するとは思わなかったなあ……」

 ブルマと一緒に雑談を交えながら料理を楽しんでいるを遠目に眺めつつ、クリリンは料理を皿に取り分けながら複雑な思いを打ち明けた。

「しかも相手はついこの間まで男だと思ってただもんなあ……おまえ、いつからが女だって気づいたんだよ」

 ヤムチャもうんうんと頷きながら悟空を小突く。ご馳走を口いっぱいに頬張っていた悟空は口の中の食べ物を飲み込んでから口を開いた。

「オラ天界で修行するまでが女なんて知んなかったぞ?」
「じゃあ天界の修行中に女だってバレたのか?」
が自分から女だって言ったんだ。別にオラは男でも女でもだったらなんでもいいんだけどよ」
「いや、男だと思ってた奴が女で、しかもあんなかわいくて美人だったら普通気になるよな……?」

 ヤムチャの問いかけにクリリンは深く何度も頷いた。そんなと一緒に修行とは羨ましい奴め。しかしそんな悟空だからこそは好きになったのだろう。見た目や性別に囚われることなく、自身が好きだと豪語する悟空にどうしようもなく惹かれてしまったのであろう。

「じゃあ悟空はのどこが好きで結婚までしたいって思ったんだ?」

 クリリンの言葉に悟空は首を捻った。どこが好きだとか、いつから好きだとか、考えたこともなかった。ただ気がついたらとずっとともに在りたいと思っていたのだ。

「オラむずかしいことはわかんねえけどよ……ただずっとの笑顔をまもりてえなって思ったんだ」

 が笑って隣にいてくれさえすれば、それだけでよかった。
 無邪気に笑った悟空は再び口の中にどえらい量の料理を入れては飲み込み、入れては飲み込みを繰り返していた。ほとんど噛んでないのではないだろうか。大口を開けて次々と料理を突っ込んでいく様子はいつもの悟空なはずなのに、彼とそれなりに長い付き合いのあるクリリンとヤムチャは、身長だけでなく男としても成長したのだと変化を感じていた。

「……で、悟空。昨日とはどうだったんだ?」
「ヤ、ヤムチャさん! 悟空がせっかくいい話ししてくれたのにそれ訊いちゃうんですか?!」
「なんだよクリリンも気になるだろ? 天津飯も知らん顔してないで混ざればいいじゃないか」
「オ、オレはあちらの料理を取ってくる……!」

 天津飯はそそくさと逃げてしまったが、やはり男が集まってすることといえば下ネタ話である。色恋沙汰には無縁だった悟空があれほど入れ込んでいるのだから、昨日のうちにやることやってるだろうと踏んでいた。ブルマといいヤムチャといい、ふたりして聞くことはそれしかないのだろうか。

「昨日? がどうしたんだ?」
「だっだから! を抱いたんだろ?!」

 まったく話が読めていない悟空に、ついにヤムチャは具体的な単語で話を進めはじめた。

「ああ! 夫婦になったからってやっとが一緒に寝ていいって言ってくれたんだ!」

 ようやくヤムチャの言いたいことがわかった悟空がうれしそうに笑っていたが、ヤムチャはがっくりと項垂れていた。そうだ、やはり悟空はこういう奴だった。あのヤジロベーとの試合の時も斜め上をいく返答に戸惑ったものだ。

、いろんな意味で苦労するでしょうね……」
「そうだな……でもあのに一から教えてもらいながらってのも羨ましいな……」
「ヤムチャさん! ブルマさんに怒られますよ!!」

 そうは言いつつも、クリリン自身も想像してしまって赤面していた。よりにもよって今日はいつも隠れているの素肌が結構な範囲露出させており、当然武道家である前にひとりの男としては、その服の下や肌の感触はどうなっているのか妄想を膨らませてしまうのはもはや本能だ。悟空だけは例外らしいが。

「よし、悟空。オレがひとつ技を伝授してやろう!」

 昔馴染みである悟空との為、漢ヤムチャ一肌脱ぎます。



 やけに熱く盛り上がっている男性陣から離れて食事していた天津飯の元に(まさか自分が話題にされてるとはまったく思っていない)がやってきた。

「今日は来てくれてありがとう。天津飯とゆっくり話すなんてはじめてだね」

 にこりと笑うは、やはりあの時戦ったのままだった。つい先日の天下一武道会で女だと明かされた時は驚いたが、天津飯にとっては超えるべき武道家のひとりであることにかわりはない。たとえ女であろうと、いまやは自分をはるかに凌ぐ実力を持っているのだ。

「あれから色々あったからな……」
「そうだね。あれだけ敵対してたのが嘘みたいに、今はみんな仲間だし」
「……は――いや、なんでもない」
「天津飯でもはっきり言えないことあるんだね」

 くすくすと鈴が転がるような心地よい笑いが夜風に攫われ、やがて静かになった。

「多分、天津飯の考えている通りだよ。私は……不死の体を持っている」

 がはっきりと告げると、隣に並ぶ天津飯の身体が少し強張った。
 ずっと気になっていた。確かにはあの時ピッコロ大魔王に頭を撃ち抜かれて死んだはずなのに、今こうして生きて目の前にいる。だから天津飯はひとつのあり得ない仮説を立てていたのだ。もしかしたらは不死なのではないか――人並外れたあの膨大な気と、治癒能力を見せつけられたら、あながち自分の仮説も夢物語ではないと思っていた。

「孫は知っているのか?」
「うん。私、前にも桃白白に殺されたことあるから……」

 桃白白――それは天津飯のかつての師の弟。因縁浅からぬ相手。天津飯は無意識に拳を握りしめていた。

「ごめん、桃白白の名前出して。でも天津飯には正直に話しときたかったから……」
「いや……オレもその方が助かる」
「私は桃白白とピッコロ大魔王に殺されたおかげで、自分は死ねない体なんだと気づいた。そしてカリン塔で超神水を飲んだ後、自分の中に眠っているおそろしい力に気がついた。使えば使うほど増えていく気なんて、信じられないでしょ?」

 からからと笑うはどこか儚げで、消えてしまいそうだった。

「自分は化け物なんだと思った……でも、そんな化け物なんか関係ないって、私は私だって言ってくれた人がいた」
ーっ! ブルマがケーキ持ってきたぞー!! 早く食わねえとオラがぜんぶ食っちまうかんなーっ!!!」
「ちょっと待ってよーっ!! ……ごめん、最後のは惚気だったかも」

 先刻の儚げな微笑みは消え失せ、いつものの笑顔に戻っていた。悟空の声を聞いただけで、はとてもしあわせそうに笑う。
 天津飯はなぜと悟空が結ばれたのか少しだけわかった気がした。

……悟空と幸せになれよ」

 天津飯の言葉にはまた笑った。



「ん゛んー……ご、く……だいふきぃ……」
、だいじょうぶなんか?」

 呂律のまわっていないは、うんうん唸りながら悟空の分厚い胸板に抱きついて放れなかった。

たら相当酔ってるわね……カシオレひと口飲んだだけなのに……」

 美味しい料理も食べて結婚式の話もして、締めのケーキも食べた。あとはお酒の力でも借りてあまりにも健全すぎて心配するレベルのと悟空を(主にエロ方面に)進展させようと、まずはに仕掛けたのだが予想よりも随分酒に弱く、ブルマの企ては失敗に終わりそうだ。は悟空にくっついて甘えているようだが、きっとこのまま寝てしまうのがオチだろう。

「仕方ないわね……孫くん、を部屋まで連れてってあげて」

 残念だが今度また作戦を変更して嗾けようと決意した。だが、このブルマの作戦が思いのほか功を奏したのは誰も知らない。



、部屋さついたぞ。もうおめえは寝ろ」

 文字通り引きずるようにを部屋まで連れてきた悟空は、いまだにくっついて放れないの背中をあやすようにぽんぽんと叩いた。

「ちゅーしてくんなきゃ、やだあ……」
「おめえ……酔っぱらうとこんなかわいんだな……」

 瞼を閉じて悟空からのキスを待つにいとおしさが溢れる。いつもかわいいが、酔ったことで感情的で子供っぽくなったはまた違ったかわいさがある。また新しいを知るたびに溺れていく。だがそれでよかった。元々もうからは抜け出せないくらい深みに嵌っているのだから。

「んっ」

 の両頬を掌で包み込み、ちゅ、と軽く口づけを交わすと、がムッとした顔をしていた。

「足りない」

 は油断していた悟空をベッドへと押し倒し、馬乗りになって再び悟空の唇を奪い、薄く開いていた隙間から舌を滑り込ませる。

「っ?!」

 悟空がはじめての感覚に流されているのをいいことに、片方の手は悟空の指と絡めてシーツの海に縫い付け、もう片方の空いた手で悟空の耳や首筋をそわりそわりと撫でていた。振り払えるはずののか弱い熱は、毒のように悟空から力を奪っていく。

「んっ、ふぁ」

 は夢中で悟空の舌を追いかけた。この鼻にかかった甘い声は、悟空がの胸を触った時や耳元で喋った時に出た声に似ている。あの時は顔を真っ赤にして怒っていたが、今のは自ら声をもらし、悟空にしな垂れかかってなんだか気持ちよさそうにしている。そんなの乱れた姿に悟空の心臓は強く脈打っていた。本能がもっとを求めていた。次第に悟空も勝手がわかってきたのか、積極的にの舌に自分の舌を押し付けたり、吸ったりと口内を好きに蹂躙しはじめる。

「はっ……ご、く……」
……足りねえんだろ」

 一度口唇を放して熱に侵された瞳で見つめ合うと、次は悟空からとろんと惚けているの後頭部に手を添えて呼吸を奪いにいった。舌を絡ませつつ角度を変え、何度も何度も夢中でキスを繰り返す。

「ふっ、……んん、ぁ」
「は、っはあ、……っ」

 悟空の上に乗っかっているはキスを重ねるたびに腰がひくひくと震え、たわわな胸を悟空の胸板に擦りつけて密かに快感を感じていた。そんなの厭らしくも暴力的な刺激に悟空はおかしくなりそうだった。いや、もう身体中あちこちおかしくなっていた。頭はぼうっとするし、背筋はぞくぞくとした疼きが止まらないし、なぜか下腹部が激しく熱を持っている。強者と戦う時とは違う気の昂りに困惑していた。

っ……なんか、オラ変だ……!」

 この熱情をどう処理すればいいかわからない。たまらず悟空は力の抜けたを逆にシーツに縫い付けると、あろうことかはすでに気を失うように眠っていた――お約束である。






 あの感覚はなんだったのだろうか。自分が自分でなくなるような、甘い痺れに支配されていく。脳神経が焼き切れ、理性はぶっ飛び、をめちゃくちゃに喰らい尽くしたくなる。自分の中にこんな欲望を秘めていたなんて今まで気がつかなかった。だが確実にこじ開けたのはだ。もしがあのまま寝てしまわなければ、あれ以上先になにが待っていたのだろうか。

「ん、っう」

 息苦しい。なにか自分の口にやわらかくてあたたかいものが押しつけられている。放れたと思ったら、最後にぺろりと舐められた。

「っん?!」
「お、起きたんか」
「ご、悟空……? なっなにして……」
「キスだぞ?」
「それはわかっぁん、ふっ」

 はわけもわからないまま、悟空がいきなりしてきたキスを許してしまう。下唇を食まれ、侵入してきた舌に口内をなぞられて奥に逃げ込んでいた舌を絡めとられ、あまつさえ吸われるなんて――ちゅ、と小鳥のように唇と唇をくっつけるキスしか知らないはずの悟空が一夜にしてなぜこんなキスを覚えてしまったのだろうか。

「ん、っご、くぅ……く、るし」
「っはあ……がわりいんだかんな。昨日寝ちまうから」

 悟空の胸をぐいぐいと押し返すと少しだけ拘束が緩まり、は悟空から顔を背けて乱れた息を整えた。そんなの熱の篭った吐息と潤んだ瞳、赤みが差した頬を見てしまえば昨日の熱がぶり返しはじめる。

「ご、めん……私昨日悟空になにかした……?」
「い?! オラにくっついて放れなかったの覚えてねえんか?」
「ブ、ブルマにお酒飲まされたとこまでしか……」
「じゃあ自分からオラにちゅーしたことも……」
「ほんとにごめんなさい……!!」

 いたたまれなかった。酔っ払っていたとはいえ悟空に迫ってしまうなんて、まるで痴女だ。しかも一切記憶にないとは――あの悟空も言葉を失っている。

「いやな気持ちさせちゃったよね……ごめんなさい。あとでみんなにも謝らなきゃ……」

 が気を落としていると、悟空はの頭を優しく撫でた。

「オラはがくっついたりちゅーしてくれんのうれしかったぞ」
「悟空……」
「それに……さっきオラがにしたのってディープキスっちゅーのだろ?」
「う゛、ん……!?」
「昨日ヤムチャが教えてくれたんだけど、オラ口で説明されてもイマイチわかんなくてよ……そしたらがしてくれたんだ!」
「………………」

 はしばらく悟空の澄み切った瞳を直視できずにいた。






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