其之四十九
※最後微エロ気味
ブルマの家での一件から禁酒を誓ったと、酔っ払ったもかわいかったのでさして気にしていない悟空は、現在筋斗雲に乗って神殿へと向かっていた。
先日のパーティでがせっかくなら本当の神様の前で誓いを立てようかと冗談でブルマに言ったらその案が採用されてしまい、今日は悟空とともに改めて結婚の報告と神殿で挙式していいかお伺いしに来たのだ。正直は神殿で結婚式など断られるだろうと思っているので、神とポポに挨拶するのが主な目的である。
「こんにちはーっ!」
「おす!」
「悟空、おす、じゃないでしょ」
と悟空が神殿に降り立つと、はじめて神殿に来た時と同じような文言を繰り返していた。このふたりは変わったようで、まるで変わらない。
「ど、どうしたのだ……まさか神になる気になったのか?!」
かすかな希望を胸に、神が口を開いた。
「ええと……すみません。今日は改めてご挨拶したくてここに来ました。あの時はバタバタしてましたし、神様しかいなかったので……」
「ポポにも世話になったしな!」
「神様、ポポさん、本当にありがとうございました。悟空と結婚して、とってもしあわせです」
「オラもと結婚してすげえしあわせだぞ」
頭を下げるの肩を抱いて本当にしあわせそうに笑う悟空と、そんな悟空を見上げて顔を綻ばせるを見れば神とポポは自然と目頭が熱くなってくる。
「おまえたちの結婚、この神も心から祝福する」
「ポポもおまえたちが一緒になってうれしい」
思い起こせばふたりは常に一緒で、いつもお互いを大切に思い、いつも本気で向き合っていた。神殿で修行をはじめた時は悟空なんてまだまだ身長も精神も幼くて、いつもを困らせるか怒らせるかしてよく神殿が破壊されていたものだ。それが今やふたりは結婚して笑顔で寄り添っている。これ以上のよろこびがあるものか。
「なあ神様、オラたちの結婚式ここでやっちゃだめか?」
「ご、悟空! もうちょっと言い方なかったの?!」
思い出に浸る間もないまま悟空は次の本題に入った。この空気の読めないところが悟空らしいのだが、いささかさっぱりしすぎである。さすがのも動揺を隠せない。神もポポも少しだけ悟空の言葉を理解するのに時間が掛かってしまった。
「あ、あの! 無茶なお願いなのはわかってるんです! 神様の立場とか色々あるでしょうし、神殿に私たちの仲間も呼ぶわけですし……ただ、今の私と悟空が在るのは神様とポポさん、そして仲間のみんながいるおかげです。だから私たちを支えてくれた人たちと結婚式ができたらって……すみません、ただのわがままなんです……! だから全然お断り頂いても……っ!!」
がわたわたと口を開いて一生懸命悟空の言葉を補っている横で、悟空はのんきによくそんなに喋れるなと感心していた。
「う、うむ……」
神は悩んでいた。だが自分の中に既に答えが出ているのも確か。こうして世に平和が訪れ、自分を含め多くの命も救われた――それもすべてこの夫婦のおかげだ。神とて、先刻の言葉通り心から祝福を捧げたい。
「よかろう……おぬしたちの結婚式、ここで挙げるがよい」
「サンキュー神様!」
「悟空軽すぎっ! あの、神様ありがとうございます……!!」
いつもの調子の悟空を窘め、は深く頭を垂れた。そんなふたりを神とポポはやさしく見守っているのだった。
それから式の詳細はまたが説明しに神殿に行くことを約束し、次はカリン塔へと向かった。
「カリン様っ! こんにちは!」
「こんちは!」
先ほどの教訓を活かしてきちんと挨拶をする悟空。
「うむ。それにしてもやーっとくっついたのう、おぬしら」
「やっと?」
「ちょっカリン様?!」
「相変わらず鈍いやつじゃ。悟空よ、おまえはこのカリン塔に来たときにはすでにのことを好いておったというのに」
「そうなのけ?」
「私に訊かないでよ!」
無自覚な悟空には頬をほんのり赤く染めて思わず突っ込んだ。
悟空とのことを揶揄うと年齢よりも達観しているが初々しい反応を見せてくれるので、ついついカリンも遊んでしまう。他人の恋愛に茶々を入れてくる相当なお節介猫である。
「まあもわしがせっかく渡した仙豆を使わずに、自らの口付けで回復させるほど悟空を愛しておるのだから、おぬしら似たもの夫婦じゃな」
「~~~っカリン様!!」
「オラうれしかったぞ!」
冷やかしの通用しない悟空はいつもの調子なので、ばかりが恥ずかしい思いをしている気がしてならない。どこか満足げなカリンが憎たらしい。
「なんにせよ、おぬしらふたりが夫婦とはめでたいことじゃ」
「ありがとな、カリン様!」
「色々とお世話になりました」
「せっかくのおもちゃがなくなってしもうて、ちとさびしいがの……」
カリンがぽつりと最後にこぼした言葉をしっかりと聞き取ったは、やはり自分はおもちゃにされていたのだと口角をひくりと動かした。
「そういえば、ヤジロベーはこちらに帰ってきてないのですか?」
「あやつなら武道大会で出てってから姿を現しておらぬよ」
「そうですか……」
悟空との試合が終わったあとに話をして以降、ヤジロベーは姿を消した。ヤジロベーとはきちんと話し合ったうえで、結婚式に出てもらいたいというのがの正直な考えだった。ヤジロベーにとっては残酷かもしれないが、は彼をひとりの家族として大切に思っているのだ。
「心配か?」
「あははっ心配なんてしてませんよ! 言い逃げした奴をとっちめてやろうと思いまして!」
「おまえはヤジロベーには特に厳しいのう」
「あいつは家族みたいなもので……ほっとけないだけです。今度こそあいつの逃げ癖を矯正してやらないと……っ悟空?」
がカリンと話していると、隣にいた悟空が突然抱き締めてきた。
「はオラの嫁だろ? たとえ相手がヤジロベーでも、が他の男の話してんのオラいやだぞ」
「悟空……」
「ふぉっふぉっふぉっ! 悟空も成長したのう。以前よりもはっきり嫉妬心を示すようになったわい」
に対する気持ちがまだなんなのか明確にわからなかった頃は、なんとなくいやな気持ちを抱えるだけだった悟空もいまや一丁前にひとりの女を愛するただの男だ。
「えっと……ごめんね? でもほんとヤジロベーとはっんん?!!」
「もうオラ以外の名前呼べなくしちまいてえ……」
「ここで盛るでない!」
「いてっ」
の言葉を遮るように軽くキスして、再び覚えたてのディープキスをする勢いで唇を塞ごうとしていた悟空の頭を叩いたのはカリンであった。
「よかったねえ悟空、カリン様にやさしく注意してもらって……あと少し遅かったら私がここから突き落としてたよ?」
にっこりと笑うは、すでにお馴染みとなりつつある般若を背負っていた。
「おぬしも苦労するのう、」
「いえいえ……私に悟空をふっ飛ばせるほどの腕力をつけてくださって、本当にお師匠さまたちには感謝しております」
次に人前でキスをしたら一週間お触り禁止令(もちろん一緒に寝るのも禁止)を悟空に出すと目に見えて肩を落としていたが、これ以上見境なくキスされてはたまったものではない。落ち込む悟空を放っておいて、カリンに神殿で結婚式をするから是非とご招待してカリン塔から出発した。
「ボラさん、ウパ、こんにちは! お久しぶりです!」
「ウパでっかくなったなあ!」
「おお……! ふたりともよく来た」
「さん! 悟空さん!」
せっかくカリン塔に来たのだからとボラとウパにもあいさつをしに聖地カリンに降りると、すぐに親子を見つけることができた。
「わあ! さん女の人に戻ったんだね! 前のさんは綺麗だったけど、今のさんは可愛い感じでボク好きだなあ!」
「ウパ! キレイなも、かわいいもぜんぶオラのだから好きになっちゃダメだぞ!!」
「ちょっと悟空! ウパの好きはそういう好きじゃ……!」
ウパから隠すように悟空がを抱き締めるが、こんなやりとり何回目だろう。純粋でまっすぐな悟空が子供の言うことすら本気にしてしまうのは考えものだ。
「もしやとは思ったが……悟空さんとさんは……」
「ええ……私の旦那がご迷惑おかけします……」
「なんと!」
「やっぱり悟空さんとさん結婚したんだ!」
以前ここにひとりで来た時はまさかこんなことになるとは思いもしなかった。あの時ウパはいかに悟空に愛されているかを力説していたが、は聞く耳を持たなかった。それが今やこのぬくもりに包まれて悟空の愛を感じ、その愛を一心に受けられてうれしいと思う自分がいる。ボラとウパはもしかしたら本当に心眼で、と悟空の奥底に眠る感情を見つめていたのかもしれない。
「命の恩人である悟空さんとさんが一緒になられて、本当に嬉しく思う。おめでとう」
「ボク絶対ふたりは夫婦になると思ってたよ!」
丁度ご飯を食べる頃合いだからと、お祝いも兼ねてご馳走してくれると言ってくれた親子に甘え、ふたりは目の前の豪勢な料理を頬張っていた。
「ふふっありがとうございます……あっ! もー悟空、いつも言ってるでしょ? そんなにがっつかなくても誰も取らないからゆっくり食べてって」
親子の祝福の声にがやわらかく笑うその横で、勢いよくがっついてた悟空が喉を詰まらせているのに気づき、はすかさず水を差し出した。
「っんお、わりいな! オラ腹減っててよ!」
「ほら、口も拭く!」
は水を飲んで落ち着いた悟空の口の端についていたソースを拭う。その様はさながら母のようであり、長年連れ添った熟年夫婦のようでもあった。
「あ、あの料理悟空好きそうじゃない?」
「あの果物、が好きそうな味したぞ」
もはや親子を放ってふたりの世界に入りはじめた。
「わ、これならうちでも作れそう! いっぱい食べる悟空のために料理の種類増やさないと!」
「の作る料理ならなんでもうめえぞ?」
「それでもまだまだ今以上に悟空に美味しいって思われたいの!」
イチャイチャ、イチャイチャ。
「これうまかったからも食えよ!」
「え、悟空の分なくなるんじゃないの?」
「オラがうめえって思ったもん、にも食わせてえんだ!」
イチャイチャ、イチャイチャ、イチャイチャ、イチャイチャ。
「父上、結婚したらボクもあんな風になるのかなあ」
「う、うむ……」
無意識にイチャコラしだす色ボケ夫婦をみて、ウパはまたひとつ大人の階段を上るのだった。
「っはー! いっぱい食べたねえ! ねっ悟空! ……悟空?」
神とポポ、カリン、ボラとウパに無事挨拶を済ませてふたりは筋斗雲で家へと向かっていた。定位置である悟空の胡座の上に座り、満腹になって幸せ気分なが悟空に同意を求めるが、無言を貫く悟空を不審に思って後ろを振り返った。
「んっ!」
「はあ~……やっとにキスできんなあ」
振り向きざまにちゅ、と悟空の唇が触れて離れたと思えば、次はぎゅうっとを抱き締めて深いため息を吐いた。は自分の体に巻きついている腕にそっと手を添えながら困ったように笑った。
「もう……そんなにキスしたかったの……?」
「の唇がやわっこくて気持ちいいのがわりいんだぞ」
「ええ? そんなのどうしようもないじゃない」
くすくす笑うの口を悟空はまた塞いだ。
「ぁ、ん……っは……んぅ、ふっ」
今度は舌を滑り込ませて粘着質に攻めたてると、またの甘い声が熱い吐息とともに漏れ出て悟空の鼓膜を痺れさせる。またあの時のようにじわじわと熱に侵され、溺れる感覚に陥る。けれど、悟空はあえてあの時の感覚をもう一度味わいたくて自らその熱に飛び込もうとしていた。もっとの甘美な声を聞きたい。もっとに触れたい。薄汚れた欲望が頭を支配していく。
「なあ、……ここ、触っていいか?」
「こ、こって……」
やっと深いキスから解放されたと思ったら、次は熱っぽい瞳での胸を触っていいか尋ねてきた。
ブルマの家でパーティーをした翌日の朝以来、悟空はキスをするたびに男の顔をするようになってしまった。覚えてはいないが、確実に自分の仕業だろうと罪悪感が生まれる。あれほど無垢であった悟空が、の手によって本能と欲望と快楽の荒波に突き落とされたのだ。悟空は一歩ずつだが確実に性に興味を持ち、目覚めようとしていた。
「オラ、が酔っ払ってキスしてきたときから体がおかしんだ。にもっと触れてえって思うけど、触れちまったら自分が自分でなくなるような……を考えると下が熱くなって、むずむずすんだ」
悟空の言う下、とは、性器のことだろう。先刻からのお尻にばっちり熱くて硬いブツが当たっているのだ。しかも悟空はそれがどういう意味なのか理解していない。予想はしていたが、やはり悟空に性に関する知識は皆無のようだ。とすればがすることはひとつ――
「……わかった。家に帰ったら教えてあげる。でもそれまでは耐えなきゃダメだよ?」
「い!? また我慢なんか……?」
捨てられた子犬のような顔をされるがは心を鬼にして、これからどう悟空に教えればいいのか思案を巡らせていた。