其之五十七
元々気の扱いに長けているは、悟空の協力もあり、一週間ほどで気を暴走させることはなくなった。しかし、なんでもかんでもふっ飛ばさなくなっただけで、コントロール自体は完璧とは言えず、いまだは触れたものを壊さぬよう慎重に行動している。悟空はそんなが心配で心配でたまらないらしく、おはようからおやすみまでにべったりだ。はじめこそブルマやブルマの両親にまでラブラブで羨ましいと揶揄われていたが、最近では日常と化していた。
「あのね、悟空」「、あーん」
食べさせるときは「あーん」とセリフを言うのだとブルマに教わってから、毎回律儀に悟空はそれを守っていた。
が話そうと口を開くたび、悟空に食事を突っ込まれる。これでは埒が明かない。口の中のものを咀嚼して飲み込んだは、掌で口を覆って話し始めた。
「今までありがとう。もう私ひとりでご飯食べられるよ」
気が暴走していたときは、力んでいなくても手あたり次第のものを壊してしまいがちであった。もちろん食器類も例外ではなく、これではまともに食事すらできないと悟空に介助してもらっていたのだ。だが要領が掴めてきた現在では、ものを破壊することは極端に減った。やっとまともな生活ができそうである。
「ん? 別にオラはずっとこれでいいぞ?」
としては、これ以上悟空に迷惑を掛けられないと思っていたのだが、の心境とは裏腹に悟空はきょとんと首を傾げている。
悟空はの世話ができて嬉しかったのだ。こんなときでなければ、いつもひとりでなんでもこなしてしまうの身の回りの世話などできないから。
「う、でも恥ずか「そら、あーん」むぐっ!」
口元を覆っていた手を外し、身を乗り出して食い下がってきたを黙らせるように悟空は再度食事を突っ込んだ。口煩い沙門から礼儀作法を叩き込まれたは立ち食いするわけにいかず、椅子に座り直して大人しくもむもむと口を動かす。その様子に悟空は満足げな笑みを浮かべた。悟空の笑顔に弱いはなにも言えない。時々わざとなんじゃないかと思ってしまうくらい、にとって嫌なタイミングで悟空は笑顔でゴリ押してくるのだ。
「でっ、でもお風呂はひとりで入るからね!」
「い?! なんでだよー……!」
百歩譲って食事までは許せるが、お風呂だけは断固として一人で入るつもりだ。
の決意に悟空は不満をぶつける。
「悟空がいっつもエッチなことするからでしょ!!」
「それはがかわいいのがわりい!」
「かっ……?!?!」
の必死な訴えに負けじと悟空も応戦すれば、一瞬でケリがついた。相変わらず悟空にかわいいと言われると顔を真っ赤にして照れてしまう。そのせいで抑えていた気の一部が放出され、コップが割れてしまった。
「ほら、やっぱりまだオラが世話してやんねえと」
が割ったコップを見て悟空が朗らかに笑う。
「あんたたち……さっきからわたしがいること忘れてない?」
たちが痴話喧嘩している食卓のすぐ近くのソファでくつろいでいたブルマが呆れた声を上げた。
どうやらのひとり立ちは、もう少し先になりそうである。