蜜雨

第14話

 女子バレーと男子バレーの違いはもちろん沢山ある。体格やパワーは性差が大きく出るし、ネットの高さも最高到達点も違う。よって、スパイクのスピードも違ってくる。男子のスパイクは7割程決まると言われているが、女子はスパイクの半分はレシーブされると言われている。女子はラリーの応酬が続くことも少なくない。はその女子バレーの特性に逸早く気づき、レシーブを磨いてきた。かつて天才セッターとメディアが取り上げていた彼女は、その実評価されていたのはトスではなくセッターの割に高身長、安定したレシーブ力であった。もちろんトスの精密さ、巧妙なゲームメイク、肝心な時に決める勝負強さも彼女を天才と呼ぶに相応しい要因となっていた。

「いくらリエーフがヘタクソとは言え女子相手にまともにレシーブ出来なかったな……」
「そりゃ地方の大会でだが、あいつのサーブだけで1セット取ったことあるからなあ」

 リエーフとの勝負をいつの間にか部員全員が夢中になって見つめていると、猫又が体育館に顔を出しに来た。どうやら会議が終わったようだ。

「監督! あの人のこと知ってるんすか?!」
「知ってるもなにも……「わあああ!! 猫又先生なんでいるんですかあああ!!!」

 リエーフに勝ったが渾々とレシーブがいかに大事か説き伏せていると、猫又の存在に気がついたはリエーフに見せていた毅然とした態度から一変し、驚くほど狼狽えていた。流石のリエーフもぽかんと口を開けている。

「おいおいわしが自分の学校に居ちゃ悪いか? お前こそなんでこんなとこで面白いことしてやがんだ?」
「えっと……レシーブを疎かにするリエーフについカッとなってしまいまして……」
「変わらねーな、お前は」

 にししと歯を見せて笑う猫又に、もつられて笑う。そんなに少し話そうやと猫又は声を掛けてふたりで体育館から出ると、残された部員たちは口々にざわざわし始めた。黒尾は空気を変えようと手を叩きながら声を張り上げて自主練を再開させた。しかしその黒尾がこっそり体育館を出ていくのを、幼馴染みである研磨だけは目敏く見つけていたのだった。

「ご挨拶が遅れてすみません。猫又先生お元気そうでなによりです」
「お前こそ身体どうなんだ? あれから3年、以上か……?」
「(……あれから?)」

 体育館を出てすぐの場所で話す猫又とを物陰に隠れながら聞き耳を立てていた黒尾は首を傾げた。今のところ黒尾が持っているの情報は、名前が、宮城の高校に通っている極度のブラコン――それとバレーがバカみたいに上手い以外は知らない。

「そうですね……」
「わずか中学生で全日本にまで選ばれてこれからって時にあの事故だ……まともにバレーが出来なくなっちまって、お前はバレーが嫌いになるんじゃねえかと思った。だが……今日のを見たらとんだ杞憂だったな。利き手じゃない右でよくあんなサーブを……相当練習したんだろう?」
「(全日本? 事故? 利き手と逆であのサーブ……?!)」
「バカですよね……もう事故前の体には戻れないのに……本気でバレー出来なくなっちゃったのに……でも私自身も、私の周りのバレー馬鹿も言うんです。バレーから離れんなって。だからリハビリも、その後の練習も死ぬ気でやりました。烏養さんにもシゴいてもらって」
「(あいつ……なんつー顔で笑うんだよ……)」
「正直わしはのままで安心したよ。お前がまたバレーやってる姿見れて嬉しかった。烏養のじじいが手助けしてやったってのはちと悔しいがな」
「あはは! 相変わらずのライバル同士ですね! 今本業はマネージャーですけど……またバレーが出来て、バレーに携われて私も幸せです」

 黒尾は後悔した。を知れば知るほど彼女の沼にずぶずぶとハマり込む。泣きそうな顔をしたと思ったら、嬉しそうに幸せそうにはにかむ笑顔になった。破天荒なところもあるが、それが吹き飛ぶくらい彼女は輝いていて魅力的であった。



(バレー知識はググって適当に繋げてますので深読み不可)






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