第16話
ガタンゴトンと電車が揺れる。
最近の青根の悩みは電車で両隣に誰も座ってくれないことだった。しかし今現在青根の隣には女子学生が座っていた。ジャージから察するに県内でも強豪と有名な青葉城西の生徒だ。女子にしては長身らしく、長い足を小さく折り畳んで背中を丸めて顔を俯かせている。青根がちらりと隣を見下ろしていると、電車がカーブを曲がった。電車の揺れが大きくなり、乗っている人々もつられて体が傾く。もちろん例に漏れず、青根もその女子も電車の動きに連動して体が同方向に倒れ込んだ。電車の揺れは収まったが、青根の方へと倒れ込んできた女子はそのまま青根に体を預けていた。爆睡でもしているのだろうか。青根は特に気にすることもなく、自分の目的地までそっとしておくことにした。
「ぅ……も、無理……」
事は青根の目的地駅到着手前で起こった。
青根に体を完全に凭れさせていた女子はずるりと崩れ落ちるように地面に向かって倒れようとしていたのだ。女子の様子を気にかけていた青根はすぐに異変に気づき、咄嗟に女子を支えた。しかしその時丁度青根が降りる駅に着いてしまった。今自分の腕にいる女子を見捨てる訳にもいかないが、この駅で降りなければ集合に遅れてしまう。こうしてあたふたしている間にも電車のドアは無情にも閉まろうとしていて、青根はそのまま女子と共にドアを抜けた――完全にやってしまった。
「おーい、青根ー……っておま! なに持ってんだ?!」
乗り換え駅で待ち合わせしていた二口は青根を見つけると声を上げた。なぜ自分の相棒は敵高である青葉城西のジャージを身に纏った女子を片手に抱えているのだ。
「……突然倒れた……」
「そんで助けたはいいけど、集合には遅れらんねーしそのまま駅降りたっつーわけ?」
二口はエスパーかなにかだろうか。
青根は感激した顔を隠しもせずこくこくと何度も興奮したように頷いた。青根の動きと共に女子も揺さぶられて呻き声を上げる。青根は慌てて女子を駅ホームのベンチにそっと横たわらせた。
「ん? この人……影山じゃね?」
「?」
「青根知んねーの? 青城の『西の天使影山』、烏野の『東の女神清水潔子』って誰が付けたかわかんねえけど、県内のバレー部じゃ有名なんだよ。美人マネだって」
「!」
「はじめてまじまじと見たわー。最初聞いた時バカなこと言ってる奴いんなーと思ったけど……」
二口がの顔を覗き込もうと近づくと、意識が浮上したらしいがゆっくりと起き上がった。
「う……っ」
「!!」
「うぉっ?!」
頭を抱えながら呟いたの目の前には、180センチを優に超える強面と整った顔立ちの男2人が驚きつつも壁のように並んでいた。
「っあれ? もしかして私意識飛んでた?! ごめんなさい!! もしかしてご迷惑かけたんじゃ……ん? あなた達伊達工のバレー部??」
「俺たちのこと知ってんすか?」
「まあ一応男バレのマネだからね……青根くんと二口くん、だよね? 助けてくれたみたいでありがとう」
まさか名前まで把握してるとは思わず、二口と青根は目を見開いた。
「っあ! 二口くん達も今日部活なんじゃないの?! こ、ここ何駅?! 私も集合に遅れる!! ほんっとごめんね、時間取らせて……今度改めてお礼するね!!」
「や、別に俺らはなんもしてねっすよ」
「(こくり)」
「いいの! 私がしたいからするの!! それじゃ、ほんと急ぐからごめんね、ありがとう!!」
腕時計で時間を確認しつつ背負っているリュックと重そうなトレーナーバッグを持ち直した。きょろきょろと辺りを見渡し、階段を駆け上がる前に青根たちへ振り返って再度お辞儀をしてから走り始めた。あっという間の展開についていけなかった青根たちだが、自分たちも集合時間に余裕がないことに気がついて電車時間を調べるのだった。
「、今日これから雨降るけど大丈夫なの?」
「あ、やっぱり?」
「ん?」
「今日頭痛酷くて薬飲んだんだけどなかなか効かなくてさ、電車で気を失っちゃったみたいなんだよね」
「っは?!」
「それで伊達工の青根くんと二口くんが助けてくれたみたいで……」
「ってめえ……いい加減にしろよコラ……」
「なんではじめ怒ってんの?! えっ徹もまっつんもマッキーも?!!」
「「「「(音駒に引き続き伊達工ともフラグ立たせてんじゃねえよ!!!!)」」」」
(伊達工フラグは後々回収予定)