が中学を卒業する時、国見と金田一に送った言葉がある。
「もし……もし飛雄が横暴な態度でチームワークを乱すようなプレイをしたら、その時は――」
切り捨てて。確かに彼女はそう言った。の飛雄溺愛っぷりは中学でも有名で、黙っていれば美少女、口を開けば弟のことばかり語り出す残念美少女と数々の男が涙を流したのは昨日今日だけの話ではない。そんなの飛雄を突き放すような発言に金田一と国見は戸惑いを隠せなかった。だが今となってはすべては飛雄の人間としての、そして選手としての成長に繋げるためのが積み上げた布石だったのだろうか――だとしたら末恐ろしい。
金田一はを憧れの先輩として慕っていて、もちろんそれは今でも揺るがぬ思いではあるが、弟への歪んだ愛情の片鱗を垣間見た気がした。
第7話
「次戦う時も、勝つのは俺たちだ」
烏野は青葉城西に勝った。
飛雄と金田一の過去の因縁を少しだけ清算する飛雄のその言葉に、物陰から見守っていたは耐えきれず飛雄に駆け寄って抱きしめていた。
「うおっ!? 姉貴いつからいたんだよ?!!」
「『金田一』『謝ったりすんなよ!!!』からかな?」
「最初っからじゃねーか!」
「超絶可愛い弟と可愛い後輩が青春してるのをこの姉がみすみす逃すと思う? 動画撮ったわ」
「ちょっすぐそうやって動画撮るのやめっておい! 顔近づけてくんな!!」
飛雄の顎を引っ掴んでんーっと唇を突き出すの顔面を鷲掴みして本気の抵抗を示す。そうでもしなければこの姉は人前でも遠慮なく実の弟にキスをぶちかます。もちろん飛雄が抵抗してくるのを重々承知の上で行動している確信犯なのだが、律儀に反応を返す姉曰くばかわいい飛雄は気づかない。
金田一はこの姉弟の攻防戦に慣れているが、日向は呆然とするだけだった。むしろ普段スカしている飛雄が姉にこんな弄られている姿に戦々恐々としている。
「あれ? 最後にうちに一発すごいのぶち込んだ日向くんだ! どうしたの? 固まっちゃって」
いや、どうしたのじゃねーだろ。
傍観者代表として金田一は心の中でツッコミを入れた。はじめてこの姉弟のやりとりを見た人間は大体日向のような状態になるのを金田一は幾度となく目撃していて、日向の心境はなんとなく察せる。ましてやあの影山の普段のキャラや立ち位置から、影山をいじり倒すなんて猛者はそういない。
「あああああのっ! この間はすみませんでした!!!」
「ん?」
影山姉弟の間に割り込むなんてやるなと金田一が感心している中、は飛雄を抱きしめる手を緩めないまま日向に視線だけ移す。
「おれっおれ、なんにも知らなくて、影山のねーちゃんだったらバレーやってんのかなとかやってんならぜってー強いんじゃないかとかポジションどこなのかとか色々考えてたら体が勝手に動いてて、そんでおれっ「はいはい、ストーップ! まずは落ち着いて」
「はっはひ!」
「別にこの間のことは気にしないで。それよりも、これからうちの弟のことよろしくね」
にこりと綺麗に微笑む姿は間違いなく天使のようで、これ以上なにも言えなくなった日向は思わず頬を染める。の言っていることに嘘はきっと含まれていないだろうが、ただ後半のセリフを言いたかっただけだろうと金田一は見抜いていた。彼女はよくお姉ちゃん的発言をしたがるのを知っていたからだ。日向がそんなの性格に気づくのはまだまだ先だろう。さらにが暴走して、また一歩弟が成長した記念に赤飯を炊く話をしている様を遠い目で見守る金田一の背後に国見が現れるまであと少し。