八木の1日を貰うはずだったのに、既に敵騒ぎでそれどころではなくなってしまった。
まだまだ行きたいところがあったのにと不貞腐れる一方で、敵と知ったら動かずにはいられない八木との性分だと諦めていた。
仕方なく八木が向かったであろう近くの警察まで歩いていこうと携帯のナビを起動させると、タイミングよく敵が現れたと緊急連絡がきた。
「ここからマジで走っても遠いよ~!!」
場所は商店街――敵に捕らわれている子供の個性で建物は炎上。軽傷者、重傷者数は不明。かなり状況は混乱していて、把握できていないようだ。は自らの個性で筋肉の細胞を活性化させ、跳躍力を高めて屋根伝いに現場へと向かった。
No2
「あら? 遅かった?」
雲の隙間から雨粒がもれ、燃え上がる建物を沈めていた。
人々がヒーローを讃えて沸きあがっている中には入れそうもなかったので、建物伝いに移動してオールマイトのそばへと降り立つ。オールマイトの近くには学ランを着たと同い年くらいの男の子がふたり横たわっていた。
「ごめんなさい。遅くなりました。それにしても……だいぶ無茶しましたね?」
「すまん……」
オールマイトにしか聞こえないくらいの音量で呟き、はそっと支えるように背に手をあてると同時に、オールマイトがマッスルフォームを保てるくらいまで細胞を再生させた。それもすぐ終わり、取材陣が彼を取り囲む前には被害に遭った少年たちの治療をしようと歩み寄った。
「あれっ? この少年さっきの……?」
モサモサの髪とこのそばかす顔は、ついさっきも敵に襲われて倒れていた緑谷であった。は驚きながらも緑谷とその隣のツンツン頭の少年の体に触れるが、どちらも気を失っているだけで大した怪我はしていなかった。
「う……っ」
「あ! 気がつきました?」
頭を抱えながら起き上がろうとする爆豪を支えると、の支えに気がついたのか、その手を払うように距離を取って睨みつけた。
「誰だテメェ?!」
「ヒーリングヒーロー・ホワイトエンジェルと申します。あなたは敵に襲われて気絶していたんですよ。気分はどうですか?」
爆豪の敵意の眼差しにも臆せず、はにっこりと笑顔で爆豪の頬に触れて白魚のような指で煤を払った。爆豪は今度こそその手をぱしりと振り払って舌打ちして帰ろうとしたが、アナウンサーや救助に参加したヒーローに囲まれて阻まれた。いつのまにか緑谷も起き、別のヒーローに怒られて正座していた。
シンリンカムイとデステゴロとは見知った顔だったので、は彼らを宥めつつ緑谷に先に帰るよう促した。緑谷は取材陣に囲まれたオールマイトと、知り合いなのかもうひとりの少年を交互に見て、話しかけるのは無理だと悟ったのか名残惜しそうに帰っていった。その緑谷の背中を群衆の間から爆豪が睨みつけていたとは知らずに。
「えっと、ばくごーくん!」
「気安く呼ぶんじゃねぇ! 俺ぁ今死ぬほど腹立ってんだ!」
「へ? さっきも死にそうになってたのに、今も死にそうなの?!」
「舐めとんのかクソ女!」
ヒーローたちの活躍のおかげで大きな怪我人も出ず、は個性を使うことなく現場を病院関係者に任せた。
敵に襲われた爆豪のことが心配で家まで送ろうとしたが、なかなか素直に言うことをきかないのが爆豪勝己という男だ。それもそうだろう――その個性により特例措置で最年少プロヒーローとなっただが、爆豪から見ればただのクソ女である。
「私! ばくごーくんも中3なんでしょ? 私も同い年なんだ! よろしくね!」
がニコニコしながら爆豪の隣に並んで話しかけるが、ガン無視である。そしてそれを気にしないのがであった。
「さっきの子と知り合いなの? さっきの子、ばくごーくんと話したそうだったよ? あ! 敵から襲われて時間経ってるけどなにか身体に異変はない?気分悪くなってたりとか……」
「おい! デク!」
「ん?」
喋り続けるに目もくれず、爆豪は突然前方の人物に向かって叫んだ。その視線を辿ると、先に帰っていた緑谷がいた。やはり爆豪と緑谷は知り合いだったのだ。緑谷もかっちゃんとあだ名で呼んでいる。
爆豪は一方的に緑谷に暴言を吐くだけ吐いて、今まで歩んできた道と反対方向に帰っていった。その暴言を言いたいが為に緑谷の後を追っていた自分勝手な爆豪と、なにも言い返さずに呆然とする緑谷を交互に見比べるは何が何だかわかっていなかった。
「えっと、緑谷くん! また敵に襲われないように気をつけて! お大事にねーっ!!」
戸惑いながらもは緑谷に手を振りながら爆豪の後を追った。緑谷は乾いた笑いをもらし、また同じように帰路を辿った。
これから緑谷がオールマイトと出会い、人生の転機を迎えているなんてと爆豪はまだ知らない。
「ばくごーくん、やっぱり知り合いだったんだね! 同じ中学なの? かっ↑ちゃ↑ん↓て呼ばれてたね!」
「イントネーションおかしいんだよクソが!」
「え? かっ↑ちゃ↑ん↓?」
「変わってねーよ! かっ↑ちゃ→ん→だろ!」
「あはは! わざわざ訂正したってことはかっ↑ちゃ→ん→て呼んでいいんだ!」
「~~~っ!! 二度と呼ぶなクソ女!!」
にからかわれたと気づいた爆豪はその後どれだけ話しかけても言葉を発することはなかった。は無視され続けても、同い年の男の子と話すことなんてなかなかない機会なので楽しそうに喋っていた。