No5
は溜まった課題を片付けようと、大人気ハンバーガーチェーン店に来ていた。シェイクとポテトを頼みに列に並ぶと、丁度前にはのクラスメイトであるいつも仲良し3人組が並んでいた。彼女たちはいつも群れを成し、クラスの頂点に立とうと常に他人を見下して嘲笑い、自らを正当化する嫌味な女子グループだった。そんな彼女たちにとって、ヒーロー活動で授業に穴を開けることを許され、それどころか教師陣も応援してくれているの存在は目障りらしい。あまりにも堂々といじめてくるものだから、は呆れてろくに相手すらしていなかった。それが逆鱗に触れたのか、以来目の敵にされている。
気づかれたら面倒だと携帯を見てやり過ごそうとしたら、早速に気づいたらしく、わざとぶつかってきた。あまりの早技には反応ができず、落とした携帯を先に拾われてしまった。
「さんごめんなさいね?ぶつかってしまったようで……」
「ううん、大丈夫」
「あら? さんおひとりかしら?」
「うん。集中して課題やろうと思って」
「ヒーロー活動に勉学に大変ねえ? 頭追いつかないでしょう?」
「そうだね、私あんまり頭よくないから」
「本当にね。医療知識だけ凄くて、他はてんでダメだものねえ」
これは本当のことであった。
を取り巻く環境は特殊で、幼少期から強力な個性を複数持つ彼女は、学校に通わず最低限の一般教養と特別教育、訓練を受けていた。その生い立ち故に同年代の子と接する機会はほぼほぼなく、過保護な大人たちにべたべたに甘やかされて育った。そんなにせめて中学からは同年代のクラスメイトから学び、揉まれてこいと尻を叩いたのはリカバリーガールこと彼女の祖母であった。国は馴染めないどころかいじめられたらどうするのだと止めたが、これだけは譲れないと天下のリカバリーガールの強気な態度に渋々頷くしかなかった。
(おばあちゃん……その教育方針は間違っていないと今でも思うけど、女の園は大変だよ……)
せめて悪い虫がつかない女子校でという国の意見が通り、リカバリーガールの同級生が校長をやっている学校へと通うことが決まった。はじめは不安だったも持ち前の明るさで徐々にクラスに馴染んでいったが、最年少プロヒーローとして活躍する彼女を特別視する教師も多く、妬み嫉みの対象として見られることも少なくはなかった。それでも仲良くしてくれる子はいて、はその子たちのおかげで思ったよりも学生生活をエンジョイしていた。
「おい、邪魔だクソアマども」
列を乱していたたちの真ん中を分断するように、ポケットに手を突っ込みながらどすどす歩いてきたのが敵に襲われた爆豪と気づくのに時間はかからなかった。数学の公式はすぐに忘れるだが、一度診た患者は忘れないことが自慢だった。
「あ、かっちゃんだ!」
「……誰だテメェ」
「やだなあ敵騒ぎの時一緒にいただよー! このお店折寺中から離れてるのに、また会えるなんてすごい偶然だね! よくこのお店来るの? 家の近くなの?」
「っるせえ!!」
ずけずけと返事も聞かずに質問攻めするのおかげで、店に入って数秒で爆豪の機嫌は急降下する羽目になった。
「えっ何も食べずに帰るの?! ちょっかっちゃん!」
「でけー声で呼ぶんじゃねえ!!!」
「いや、かっちゃんの方が声大きいよ!」
突然のことに呆然としているクラスメイトの手から携帯を掠め取り、は踵を返して店からさっさと出ようとする爆豪の背中を追いかけた。
「なんでついてくんだよ、このクソ女!!」
暗にはよ帰れと伝えているのだが、いかんせん空気を読まないことに定評のあるは爆豪の圧力に構わず隣を歩いていた。
「んー? あの場に留まると面倒だったから?」
の性格を理解してきた爆豪は叫ぶことをやめ、逸早く物理的に距離を取ることだけを念頭に置いて行動することにした。
「あーあ……でもシェイクとポテト食べたかったなあ……たまに無性に食べたくなる時ない?」
「あんなクソモブ如きに好き勝手言われやがって……なにが最年少プロヒーローだ」
「えー? 聞いてたの? かっちゃん趣味わるーい」
「テメェ……!!」
先程から無駄に開きっぱなしの口を消し飛ばしてやろうかと何度思ったことだろうか。爆豪にしては思い留まっている方だ。
「……プロヒーローだからこそ、なに言われようが後ろ指差されようが笑顔でなきゃいけない。だってどんな状況でも大丈夫って笑ってる奴が一番強いから」
これ、受け売りね。
そうからからと笑う彼女は絶対的な自信に溢れていて、いつの間にか爆豪はに視線を奪われ黙って聞き入ってしまっていた。
「勝己……?」
またも自分を呼ぶ声にハッと我に返ると、そこには我が子を信じられないような目で見る爆豪の母、光己がいた。顔色は青褪め、この世の終わりみたいな表情をしている。我が息子ながら自慢ではないが、友達に好かれるような性格でもないし、ましてや女の子と一緒に帰るなんて天地がひっくり返っても起きるはずがないと思っていた。
「わーっ! かっちゃんのお母さん?? 似てるねえ!!」
しかも可愛い女子にかっちゃんとまで呼ばれている。
息子のありえない姿にいまだ思考が追いつかないままであったが、そんな光己をよそにはマイペースにひとりはしゃいでいた。
「こんにちはっ! かっちゃんの彼女のです! よろしくお願いしまーす!!」
「……っは?!! クソ女なに言っ「あ、ごめん電話だ! それじゃまたねー!! お母さんもさようならー!!」
あの爆豪勝己ともあろうものが、母親の目の前で同年代の女子に振り回されている。この場に緑谷出久がいたら卒倒しているだろう。
爆豪の掌からは消化しきれない怒りの火花が飛び散っていた。触れた先から爆発しそうだ。この時母は、あの誰も手がつけられない息子の手綱を握ってくれそうな将来有望な娘が見つかったと密かに楽しみが増えていたのだった。