「う」のような「ぐ」のような、とにかく獣じみた低い呻き声が食いしばった歯の隙間から漏れた。詰まった息の残りを肺から押し出して、はあはあと荒い呼吸を繰り返す。
快楽で支配されていた脳にだんだんと理性が戻り、呼吸も落ち着いてきた頃、俺の下で未だに喘鳴混じりに必死に息をしているに気付いた。



声をかけるとの身体がぴくりと震えた。が、こちらを振り向く力すら使い果たしたらしく、それ以上動く気配がない。俺よりもずっと小さい背中は膨らんだり萎んだりを繰り返すだけ。

まずい、やりすぎた。

やっと頭に血液が巡り始めて、ついたままになっていたゴムを手早く外す。既に二つの死骸が捨てられていたゴミ箱にそれを投げ入れると、の身体の向きを変えた。これで少しは落ち着くはずだ。すぐ戻ってくるからとに小さく声をかけてからバスタオルを掴んでベッドから出る。タオルを洗濯機に放り込む、風呂場のスイッチを入れる、コップに水を入れる、と流れ作業のように仕事をこなして部屋に戻ると、の呼吸はだいぶマシになっていた。間接照明の電源を入れて、ベッドに腰掛ける。真っ暗だった部屋に明かりが灯ったおかげで、数時間前には無事だった肌に痣やら歯型やらがついているのが目に入った。そのうちの一部は首についている。……これ、明日の朝怒られるだろうな。でも、これは十中八九俺が悪い。の抗議は甘んじて受け入れよう。

、ほら。水持ってきたぞ」
「……ありがとうございます……」

が上半身を起こすのを手伝って、疲弊しきった彼女がゆっくりと水分を取り込んでいくのを眺める。汗で額にはりついた前髪を退けてやると、未だに潤んだままの瞳がいつもよりゆっくりとこちらを見た。

「大丈夫か?」
「……大丈夫そうに見えます?」
「……あと一回ならできそうかな」
「ばか」

ひどい目に遭ったと言わんばかりには俺を睨んだ。しかし、正直家に帰ってからの記憶があまりない。少なくともケーキだけは崩れないように、慎重とは言えないものの冷蔵庫に入れたのは覚えている。だがその後は理性を失ったかのように、間接照明もつけず、雰囲気もへったくれもないままをベッドに押し付けて。気付いたらさっきの光景、というわけだ。

「はあ……」
「どうしたんですか?」
「いや……気持ち良かったな」
「最っ低」

でもだって自分で気付いていなかっただけでゴム買わされたの興奮してただろ、そうじゃなかったらまともに触ってないのにあんなに濡れてない。……とは、言いたくても言えない。怒られるのは明日の朝だけでいい。
空になったコップを受け取って、に軽くキスをする。こういう誕生日プレゼントもいいな、と言ってみたけど、言い終わる前に「二度としたくない」と断られた。くそ。だめか。

「じゃあバイブリングとかならいいか?」
「……一応聞きますけど、何ですか?それ」
「アダルトグッズ」
「絶対やだ」

ふざけてそんなことを言っているうちに風呂の準備ができたことを知らせる音楽が鳴った。「先入ってきていいぞ」と譲ると、がじっと俺を見つめてくる。

「……一緒に入らないの?」

後がいいのか?と聞こうとしたらそう尋ねられて、本当にもう一回抱いてやろうかと思った。ああもう、何なんだこの子は。三回射精した後じゃなかったら確実に勃っていただろう。胸がきゅうきゅうと苦しくなる感覚をどうしたらいいかわからず、を思い切り抱きしめてから小さな手を引いて浴室に向かう。明日の朝に気付かれるだろうと思っていたキスマークはその後バレて、頭を洗っている最中にもかかわらずずっと怒られ続けた。