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作品ID:1420
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ユニの子

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中

前書き・紹介


三 四年間

前の話 目次 次の話

 この世界に広がる子守唄。それは物語になっていて、アリエでもよく知っている。



 それはとわの昔 まだ神がいた時代

 神の都には月の宮殿 すべてが幸せに生きる世界

 そんな世界はつまらない 言い出したのは人間だった

 おろかな人間 戦いをおこして神は天へと避難した

 

 それはとおい昔 神は姿をなくした

 神の目には一つの一族 祝福をうけた一族の者たち

 神は降りよう そういったのは神の王

 選ばれた人間 神が降りて器になり力を手に入れた



「そうして神は器の人間に入りこみ、永遠の命を得た。その神がもともと治めていた都にあったのが月の宮殿――『チャンドラ・マハル』よ」

「じゃあ、その宮殿って……」

 もうない、と思いこんだらしい少女の目は、金に輝いている。

「いいえ、あるわ」

 アリエは、自分が教えてもらったとおりのことを言う。

「チャンドラ・マハルはあるわ。ただし、神出鬼没でどこにあるのかもわからない。なぜなら、見えないから」

「透明なの?」

「いいえ。地下に現れるからよ。いきなり、地下に巨大な古代遺跡が現れるの!」

 きっと、アリエの目もきらきらとしていただろう。

 その顔を見て、少女は身を乗り出した。

「じゃあアリエ! わたしをそこまで案内してよ!」

「へ?」

「わたしは、そこまで行かなくちゃ行けないの。会わなくちゃいけない人がいるのよ!」

 

 そう言っていた少女と別れて四年。

 アリエは、砂漠で途方に暮れていた。

「さて、どうしよう……」

 道のような白い線が、一本だけある砂の大地。照りつける太陽を布をかぶってやり過ごしていると、遠くから何かが近づいてきた。

 鳥のようなものが飛んでいる。

「こんな暑いところをわざわざ飛ばなくてもいいのに」

 ひゅん。

 通り過ぎようとしていた鳥は、急に向きを変えて、一直線にアリエのほうへ向かってきた。

 飢えていたのだろうか。

 その鋭いくちばしがつっこもうとしていた人影は、ふらっと動いた。

 鳥が、地面をかすった。

 その間に、上に跳んでいたアリエが音もなく鳥の上に着地していた。藍色の髪がふわっと動く。

ゆうにアリエが座れるくらいの大きさの鳥だった。

 鳥は、あまりの軽さに、アリエに気がついていないようだ。

 その間に、上の人物は調教笛を取り出して、鳥を手懐けていた。

空を行く翼は風を切り、乗り手のゆったりとした服が、優雅とはいえない状況でばたつく。

「ちょうどいいから乗せて行ってね、鳥君」

 砂ばかりの大地はどこまで行っても変わりなく、少し不安になる。

 しかし、しばらく行くと町が見えてきた。

 アリエの顔が、にわかに笑顔になる。



 砂漠のオアシス都市のひとつであるその町に、アリエはお昼ごろには着いていた。

 ここは、貿易の要所である、そしてアリエの目的地であるカラタルムに一番近い町。

 けっこう緑も豊かで、ほとんど砂漠の外といっていい。

「さて、どうしますか」

 今夜の宿も決めて市場をぶらぶらと歩きながら、自然と口ずさむのはあの歌だ。

それはとわの昔 まだ神がいた時代

歌いながら歩く十四の少女に、誰も目を向けない。

 そんなときだ。

 上を、赤いものが横切った気がして、アリエは何気なく上を見た。

 その目の先で、今まさに横の建物から飛んだ少女が、向こう側の建物につっこんだ。

「うわ!」

 尻尾のような赤髪が揺れる。

人影は窓枠に飛びついたが、どうやら腕力はないらしい。つるりと落っこちた。

 悲鳴を飲み込んだのはアリエだけではない。下にいた市場の人が一番息を飲んでいただろう。

 落ちてくる少女は、そんな人たちの中につっこむ寸前、空中にとどまった。

 手には棒。手すりのように空中に浮かぶ棒をしっかりと持った少女は、ゆっくりと下に降りて、身軽に着陸した。

手を離された棒は、すぐに重力に従って下に落ち、少女はそれを慣れたようにつかんで、服の帯に挟んだ。

「……ヤーフェイ?」

 目の前に降りてきた少女に、アリエは思わず声をかけていた。

 少女が振り向く。

 高いところで結ばれた見事な赤髪が揺れて、金色の目が自分を見る。

「……アリエだ!」

 四年前と少しも変わらない。

 すらりとした立ち姿も、その笑顔も、他からは浮き出て見える。

 不思議な力を持った少女が、親しげに手を上げた。

後書き


作者:水沢はやて
投稿日:2013/01/09 22:05
更新日:2013/01/09 22:05
『ユニの子』の著作権は、すべて作者 水沢はやて様に属します。

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作品ID:1420
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