作品ID:1599
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永遠の終わりを待ち続けてる
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
生まれ変わり
前の話 | 目次 | 次の話 |
「もういいのよ、姉さま」
静かに響いた声に、ヴィルフリートもウィリアムもルーシアも、一様に驚いた。いつの間にか、綾袮が……シエルリーデが立っていた。
「綾袮!? いつから、いいえ、まさか!!」
青褪めたルーシアの言葉に、シエルリーデは肯く。
「ごめんなさい。聞いていたの。何もかも思い出したわ。シエルリーデの記憶もヴィマラの記憶も取り戻した。だけど、姉さまの所為じゃないわ。私、さっきとても混乱していたでしょう?
そのときに使用人の一人が手を差し出したわね。ヴィマラが引き渡されたのと同じ、中年の男性よ。その手に全て思い出してしまったの。だから、咄嗟にヴィマラの言葉を投げ付けてしまったわ」
静かな言葉が響き渡る。
「テレビ局で中世の舞台セットを見てね、いつの間にか綾袮はシエルリーデと混ざってしまっていたの。綾袮とシエルリーデ、二つの心が混じったままに、私はヴィルフリートとウィリアムを見ていた。
ヴィルフリートとウィリアムが交えた剣を見た瞬間に、綾袮とシエルリーデの比重が一気に傾いたわ。控室に戻ったとき、私はシエルリーデの心のままに動き、シエルリーデ自身だった。
だけど、ヴィマラは消えてくれなかったの。いいえ、そんなことを言うべきではないわ。私は確かにインドで生きた、ヴィマラとして。その生だけを消してしまうなんて、ヴィマラに対する、私に対する裏切りそのものだものね」
ヴィルフリートも、ウィリアムも、ルーシアも、誰も口を出さなかった。あまりに静かに語られる言葉に、出せなかったという方が正しいかもしれない。
「シエルリーデの言葉と行動に、ヴィマラはとても傷付いたの。だから、シエルリーデを抑え付けたわ。傷付いたヴィマラは同時に綾袮も封じてしまおうと思ったの。
綾袮はもう、殆んどシエルリーデを知っていたし、ヴィマラが封じなかったら、シエルリーデはヴィマラを無視してシエルリーデに戻ろうとしただろうから。ヴィマラを封じて、シエルリーデに戻ろうと」
静かな言葉がとても大きな言葉で木霊する。
「ヴィマラは、シエルリーデを憎んだの。シエルリーデはもう要らないと。ヴィマラはシエルリーデなど要らない。ヴィルフリート、ウィリアム、とても傷付けることを承知で紡ぐのを許してね。
ヴィマラにとってシエルリーデはもう要らないものだった。ヴィルフリートは気付かなかったの。シエルリーデに気付かなかった。シエルリーデであるヴィマラに。
要らないシエルリーデに封じられてしまう前に、ヴィマラが先手を打ったのね。私はヴィマラに封じられ、綾袮もヴィマラによってヴィルフリートとウィリアムを封じられたわ」
静かな言葉と共に、静かな笑いが響いた。
「私も随分と腕を落としたものね。一時とは言え、自分自身でもある暗示に封じられるなんて……。ヴィマラの誤算は、綾袮をそのまま封じてしまわなかったことと、ヴィマラ自身を封じてしまえなかったこと。
ヴィマラ自身を封じてしまえず、綾袮の中のヴィルフリートとウィリアムだけを封じたことで、危ういバランスでヴィマラと綾袮を同居させてしまった。それが逆に全ての記憶の引き金になってしまったわ」
ルーシアが、初めて口を開いた。
「今の貴女は全てを持っているのね、あたしの妹であり、タラのお姉ちゃんであり……」
「ええ、そして、今のあなたの妹分で親友でもある。今は全ての話をするために、シエルリーデだけれどね。だから、姉さまと呼ばせて頂くわ。姉さまはリーデと呼んでくださるでしょう?
ごめんなさい、姉さま。リーデはいつも姉さまに頼りきりで、姉さまを矢面に立たせて、辛い思いをさせてばかりね。
あてどない旅の生活をさせてみたり、三つも下の子に庇わせてしまったり、辛い記憶を一人で抱え込ませてしまったり。リーデもヴィマラも綾袮も、貴女一人にとても辛い思いをさせたわ」
ルーシアが馬鹿ねと泣いた。馬鹿ね、どうしてそんな発想になるのと。
「どうしてそんな発想になるの。貴女に辛い思いを強いたのはあたしだわ。生まれ変わりを説いたあたしの言葉があったから、貴女はヴィルフリートに誓いを立てた。だからこそ、ヴィマラは苦しんだんだわ。
ルーシアは、あたしはあまりに軽く考え過ぎたのよ。人の生まれ変わりについて。リーデが奴隷商人に売買されるような境遇で生まれるなんて、考え付きもしやしなかった。
言葉を話せない子として生まれるなどと想像することも出来なかった。あたしの軽率な言葉と考えは、貴女をあまりにも苦しめる羽目に陥らせたわ」
ルーシアの言葉には哀しみと嘆き、そして深い後悔が滲んでいた。
「人の輪廻って、なんでしょうね」
――――それは、あまりにも重たくて、誰に答えることなど出来ない言葉だった。
自分は一体何なんだろうと思う。シエルリーデではある。けれど千年綾袮でもある。そしてヴィマラでも。どれ一つ取ったっていけないものなのだろうとは思う。輪廻とは一体何だろう。
生まれ変わるとは、その言葉通りなのかもしれない。文字通り、『生まれ変わる』こと。『生まれ』が『変わる』こと、そういうことなのかもしれない。
薄々感付いてはいるのだろう。捨てられることを知っている子犬の瞳の色を宿したヴィルフリートが、黙って自分を見つめている。側に立っているウィリアムなどはもう泣いているから、口の中がとても苦い。
「私は確かにシエルリーデよ。けれど、同時にヴィマラでもあり、綾袮でもあるの。責めるつもりの言葉ではないと言わせてね。でもね、もうこのままではいけないでしょう?
だけど、ヴィマラにヴィルフリートは気付けなかったこと、そして、ヴィマラはヴィルフリートに気付いてもらえる子ではなかったこと。生まれ変わりとはそういうことだったと、それが答えではないかしら。
『生まれ』が『変わる』の。インドに生まれた女の子が、貴族階級の姫君で、何を苦労することなくスラスラと自分の言葉を語れる子だったならば、きっとヴィルフリートは直ぐに気付いたのでしょう。
だってそうでしょう? シエルリーデと同じ生まれの女の子だもの。けれど、ヴィマラは? 労働階級どころか奴隷商人に売買される身分で、言葉を話すことも出来なかった。
ヴィルフリートが気付かないのが当たり前の女の子だったのよ。生まれは確かに変わっていたの。ヴィルフリートが気付けたはずもなかったのだと、そう、思うのよ」
ルーシアが静かに泣きながら呟いた。
「ああ、貴女の言葉通りなのかもしれないわね。生まれは変わった。生まれ変わるとはルーシアが考えたほど単純なことではない。
そうね、確かに、そうなのかしらね。人が一度眠りに就いた以上、それはやはり『永眠』と呼ぶべきもの。一度眠りに就いた次に生まれてくるのは、眠りに就いたものではない。違う人間だわ」
―――――ああ、哀しい。あまりにも哀しい。哀しくて心が壊れてしまいそう、音を立てて崩れてしまいそうに、苦しいほどに狂おしいほどに。運命の悪戯劇は何処から始まってしまっていたのだろうか。
それはいったい誰の言葉だったのだろう。もしかしたらその場にいる誰もの言葉だったのかもしれないけれど……。
「ヴィルフリート、私はシエルリーデであり、綾袮であり、そしてヴィマラでもあるの。歩んできた輪廻、どれ一つとして消すことなど出来ないのよ。私にはそれは出来ないの。
泣いて貴方の名前を綴りながら、貴方を恨んで自害した、小さなヴィマラの悲しみと絶望を無視して、貴方の傍には生きられない。それにね、綾袮の両親はとても綾袮を愛しているわ。
シエルリーデのルディエットの両親は、娘が行方を晦ましたとして、ルディエットの家の名前と体裁を気にしたことでしょう。シエルリーデは聖女だもの。けれどそれ以上何を思うこともなかったでしょうね。
けれど、綾袮は違う。もしも綾袮が行方を晦ましたなら、綾袮の両親は心の底から悲しむことになる。そして自分達を責めるでしょうと私は思うわ。これも答えの一つなんだろうと思うの。
生まれは変わったのよ。変わってしまった。ヴィマラが売買される身分の言葉の話せない子だったならば、裕福な家のお嬢様であっても綾袮はとても愛されて生まれ育ったの」
言葉が苦い。言葉に隠す涙が苦い。
「…………君はもう、僕のリーデではないんだね。いや、僕のリーデであってはいけないんだ」
ヴィルフリートの言葉に宿る響きはウィリアムにもルーシアにも、そしてシエルリーデにも、何処までも切ない色のもので、けれど、ヴィルフリートの言葉もまた、それ自身が一つの答えだった。
静かに響いた声に、ヴィルフリートもウィリアムもルーシアも、一様に驚いた。いつの間にか、綾袮が……シエルリーデが立っていた。
「綾袮!? いつから、いいえ、まさか!!」
青褪めたルーシアの言葉に、シエルリーデは肯く。
「ごめんなさい。聞いていたの。何もかも思い出したわ。シエルリーデの記憶もヴィマラの記憶も取り戻した。だけど、姉さまの所為じゃないわ。私、さっきとても混乱していたでしょう?
そのときに使用人の一人が手を差し出したわね。ヴィマラが引き渡されたのと同じ、中年の男性よ。その手に全て思い出してしまったの。だから、咄嗟にヴィマラの言葉を投げ付けてしまったわ」
静かな言葉が響き渡る。
「テレビ局で中世の舞台セットを見てね、いつの間にか綾袮はシエルリーデと混ざってしまっていたの。綾袮とシエルリーデ、二つの心が混じったままに、私はヴィルフリートとウィリアムを見ていた。
ヴィルフリートとウィリアムが交えた剣を見た瞬間に、綾袮とシエルリーデの比重が一気に傾いたわ。控室に戻ったとき、私はシエルリーデの心のままに動き、シエルリーデ自身だった。
だけど、ヴィマラは消えてくれなかったの。いいえ、そんなことを言うべきではないわ。私は確かにインドで生きた、ヴィマラとして。その生だけを消してしまうなんて、ヴィマラに対する、私に対する裏切りそのものだものね」
ヴィルフリートも、ウィリアムも、ルーシアも、誰も口を出さなかった。あまりに静かに語られる言葉に、出せなかったという方が正しいかもしれない。
「シエルリーデの言葉と行動に、ヴィマラはとても傷付いたの。だから、シエルリーデを抑え付けたわ。傷付いたヴィマラは同時に綾袮も封じてしまおうと思ったの。
綾袮はもう、殆んどシエルリーデを知っていたし、ヴィマラが封じなかったら、シエルリーデはヴィマラを無視してシエルリーデに戻ろうとしただろうから。ヴィマラを封じて、シエルリーデに戻ろうと」
静かな言葉がとても大きな言葉で木霊する。
「ヴィマラは、シエルリーデを憎んだの。シエルリーデはもう要らないと。ヴィマラはシエルリーデなど要らない。ヴィルフリート、ウィリアム、とても傷付けることを承知で紡ぐのを許してね。
ヴィマラにとってシエルリーデはもう要らないものだった。ヴィルフリートは気付かなかったの。シエルリーデに気付かなかった。シエルリーデであるヴィマラに。
要らないシエルリーデに封じられてしまう前に、ヴィマラが先手を打ったのね。私はヴィマラに封じられ、綾袮もヴィマラによってヴィルフリートとウィリアムを封じられたわ」
静かな言葉と共に、静かな笑いが響いた。
「私も随分と腕を落としたものね。一時とは言え、自分自身でもある暗示に封じられるなんて……。ヴィマラの誤算は、綾袮をそのまま封じてしまわなかったことと、ヴィマラ自身を封じてしまえなかったこと。
ヴィマラ自身を封じてしまえず、綾袮の中のヴィルフリートとウィリアムだけを封じたことで、危ういバランスでヴィマラと綾袮を同居させてしまった。それが逆に全ての記憶の引き金になってしまったわ」
ルーシアが、初めて口を開いた。
「今の貴女は全てを持っているのね、あたしの妹であり、タラのお姉ちゃんであり……」
「ええ、そして、今のあなたの妹分で親友でもある。今は全ての話をするために、シエルリーデだけれどね。だから、姉さまと呼ばせて頂くわ。姉さまはリーデと呼んでくださるでしょう?
ごめんなさい、姉さま。リーデはいつも姉さまに頼りきりで、姉さまを矢面に立たせて、辛い思いをさせてばかりね。
あてどない旅の生活をさせてみたり、三つも下の子に庇わせてしまったり、辛い記憶を一人で抱え込ませてしまったり。リーデもヴィマラも綾袮も、貴女一人にとても辛い思いをさせたわ」
ルーシアが馬鹿ねと泣いた。馬鹿ね、どうしてそんな発想になるのと。
「どうしてそんな発想になるの。貴女に辛い思いを強いたのはあたしだわ。生まれ変わりを説いたあたしの言葉があったから、貴女はヴィルフリートに誓いを立てた。だからこそ、ヴィマラは苦しんだんだわ。
ルーシアは、あたしはあまりに軽く考え過ぎたのよ。人の生まれ変わりについて。リーデが奴隷商人に売買されるような境遇で生まれるなんて、考え付きもしやしなかった。
言葉を話せない子として生まれるなどと想像することも出来なかった。あたしの軽率な言葉と考えは、貴女をあまりにも苦しめる羽目に陥らせたわ」
ルーシアの言葉には哀しみと嘆き、そして深い後悔が滲んでいた。
「人の輪廻って、なんでしょうね」
――――それは、あまりにも重たくて、誰に答えることなど出来ない言葉だった。
自分は一体何なんだろうと思う。シエルリーデではある。けれど千年綾袮でもある。そしてヴィマラでも。どれ一つ取ったっていけないものなのだろうとは思う。輪廻とは一体何だろう。
生まれ変わるとは、その言葉通りなのかもしれない。文字通り、『生まれ変わる』こと。『生まれ』が『変わる』こと、そういうことなのかもしれない。
薄々感付いてはいるのだろう。捨てられることを知っている子犬の瞳の色を宿したヴィルフリートが、黙って自分を見つめている。側に立っているウィリアムなどはもう泣いているから、口の中がとても苦い。
「私は確かにシエルリーデよ。けれど、同時にヴィマラでもあり、綾袮でもあるの。責めるつもりの言葉ではないと言わせてね。でもね、もうこのままではいけないでしょう?
だけど、ヴィマラにヴィルフリートは気付けなかったこと、そして、ヴィマラはヴィルフリートに気付いてもらえる子ではなかったこと。生まれ変わりとはそういうことだったと、それが答えではないかしら。
『生まれ』が『変わる』の。インドに生まれた女の子が、貴族階級の姫君で、何を苦労することなくスラスラと自分の言葉を語れる子だったならば、きっとヴィルフリートは直ぐに気付いたのでしょう。
だってそうでしょう? シエルリーデと同じ生まれの女の子だもの。けれど、ヴィマラは? 労働階級どころか奴隷商人に売買される身分で、言葉を話すことも出来なかった。
ヴィルフリートが気付かないのが当たり前の女の子だったのよ。生まれは確かに変わっていたの。ヴィルフリートが気付けたはずもなかったのだと、そう、思うのよ」
ルーシアが静かに泣きながら呟いた。
「ああ、貴女の言葉通りなのかもしれないわね。生まれは変わった。生まれ変わるとはルーシアが考えたほど単純なことではない。
そうね、確かに、そうなのかしらね。人が一度眠りに就いた以上、それはやはり『永眠』と呼ぶべきもの。一度眠りに就いた次に生まれてくるのは、眠りに就いたものではない。違う人間だわ」
―――――ああ、哀しい。あまりにも哀しい。哀しくて心が壊れてしまいそう、音を立てて崩れてしまいそうに、苦しいほどに狂おしいほどに。運命の悪戯劇は何処から始まってしまっていたのだろうか。
それはいったい誰の言葉だったのだろう。もしかしたらその場にいる誰もの言葉だったのかもしれないけれど……。
「ヴィルフリート、私はシエルリーデであり、綾袮であり、そしてヴィマラでもあるの。歩んできた輪廻、どれ一つとして消すことなど出来ないのよ。私にはそれは出来ないの。
泣いて貴方の名前を綴りながら、貴方を恨んで自害した、小さなヴィマラの悲しみと絶望を無視して、貴方の傍には生きられない。それにね、綾袮の両親はとても綾袮を愛しているわ。
シエルリーデのルディエットの両親は、娘が行方を晦ましたとして、ルディエットの家の名前と体裁を気にしたことでしょう。シエルリーデは聖女だもの。けれどそれ以上何を思うこともなかったでしょうね。
けれど、綾袮は違う。もしも綾袮が行方を晦ましたなら、綾袮の両親は心の底から悲しむことになる。そして自分達を責めるでしょうと私は思うわ。これも答えの一つなんだろうと思うの。
生まれは変わったのよ。変わってしまった。ヴィマラが売買される身分の言葉の話せない子だったならば、裕福な家のお嬢様であっても綾袮はとても愛されて生まれ育ったの」
言葉が苦い。言葉に隠す涙が苦い。
「…………君はもう、僕のリーデではないんだね。いや、僕のリーデであってはいけないんだ」
ヴィルフリートの言葉に宿る響きはウィリアムにもルーシアにも、そしてシエルリーデにも、何処までも切ない色のもので、けれど、ヴィルフリートの言葉もまた、それ自身が一つの答えだった。
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2015/11/18 22:38 更新日:2015/11/18 22:38 『永遠の終わりを待ち続けてる』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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