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作品ID:1614
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人魚姫のお伽話

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


にんぎょひめ  ――――番外「秋の始まりを春に始めよう」

前の話 目次 次の話

病棟看護師長K氏の言


 センセがね、雑誌のページ開いてるときは、微笑ましい気持ちで見てたのよ。暦の上だけの春の日に、見掛けたことのない、ささやか程度に値の張りそうなボールペン。
 ニコニコしながら大切そうに持っていたのは知ってたし、女の子の二月一大イベントには、チョコフレークのクッキーを隠しもせずに頬張ってたからね。先輩先生達にちょっかい掛けられながら、その嬉しそうなこと!!

 センセの友人で同僚のタケ……ええと、T君から、女の子のクリスマス演奏会を黙って覗きに行ってたことなんかも教えてもらってたから、『青春ねぇ』と笑ってたのよ。
 彼女の主治医なんかを交えて和やかにね。だから、二月も終わりの週、雑誌片手に唸ってるセンセを見っけて、『あ、お返しに悩んでるみたいね』と思ってたのよねぇ。

 そんなイベント、かけ離れてる世代のおばちゃん達から見ればね、今時の若い子ってお返し一つも大変よ。
 センセが抱えてる雑誌、小洒落たスイーツは勿論だけど、バッグに財布にと……。とにかく、ありとあらゆるものが紹介されてるもんだから、『イベント一つも考えものねぇ』と。

 うっかりしてたのよねぇ。煌びやかなアクセサリー眩しいページで溜息吐いてたセンセ。センセの悩んでる方向が見えてたなら、もうちょっと言葉を選んでたんだけど……。

 丁度、可愛らしいアクセサリーが見えちゃったもんだから、つい言っちゃったのよ。『あら、可愛い。センセの世代で人気のブランドですね』って。一応、弁明しとくけど、そのときのページに掲載されてたのは可愛らしい申し訳程度のアクセサリー小物。それも、漱石さん一枚か二枚のレベルですからね?

 まさか次の日に、そのブランドが本格的に出してるジュエリー掲載の雑誌片手に現れて、『この中からならどれがいいと思いますか?』なんて!! 
 自分とこのセンセがそこまで短絡的に動いてくれるなんて、思わなかったし思いたくなかったわ。有無を言わさない迫力で迫って来るもんで、内心ごちるしかなかったわよ。
『この迫力を病棟で出したなら、評判変わっちゃうんでしょうね』って。

 だけどね、センセが提示してた雑誌の品物を見て、というより、その値段を見て。おばちゃん、目を剥くしか出来なかったわよ。漱石さんが諭吉さんに当然のごとく変更されてて、それも一枚二枚のレベルじゃないのよ? 五枚六枚、吹っ飛ぶのが当たり前。下手すれば、ゼロが五ケタの品物見せられて。

 それでもね、『これに似たイメージの品を見つけて来るってことよ』と自分に言い聞かせてみて。とりあえずは言ってみたわ。
 『このリングの色使いなんか可愛いですね。でも、他の人の意見も訊いてみられたらいかがですか?』と。おばちゃんなりの老婆心で、一応牽制も掛けたつもりだったのに!! 

 センセが病棟の同期や若手看護師じゃなくて、お洒落心から遠く離れた世代の先輩先生方を捕まえて訊いて来るなんて、完全に予想外よ!! 
 疑問符散らした病棟の最年長先生に、『ウチのアイドルは近々プロポーズの予定なんですか?』と言われて、目が点よ。

 最年長先生曰く、『女性が喜ぶアクセサリーは何ですか』と訊かれたもんで、『そりゃ、ダイヤかなんかの指輪じゃないかね』と返したら、『ダイヤモンドの指輪だったら、このブランドじゃ三十万ぐらいするんですけど、それですか?』ときたと。

 勿論、速攻でセンセ捕まえて言い直しておいたからね。『参考意見にするなら、同年代を捕まえられるべきです!!』って!! ……ごめんね、T君。多分、とばっちり、君に行くと思うわ。







友人看護師T氏の言


 電話口で開口一番、『今から迎えに行くから出る準備しててくれ』と言われた日には、なんのこっちゃと首を傾げた。ちなみに、その日の自分は夕方からの勤務。だけど、電話してきた相手は、確か明け方まで病棟で診療業務をこなしていたはずである。

 時刻、午前十時。わけのわからない電話は無視して二度寝を決め込もうとしたけれど、三十分もしない内にダンダカダンダカ鳴り出した携帯電話に、結局叩き起こされた。渋々ながらに布団とさよならして、適当に普段着を着込む。ここまで時間にして僅か数分。

 二度目の電話の相手の声が、尋常ではなく怖かったので、シャカシャカ職場の特性を活かして動いてしまった。『もしや知らない内に非常事態が勃発して、緊急呼び出しでも掛かっていたか!?』と言わんばかりの声の迫力と言ったなら、わかる人にはわかるんだろうか……。

 現れたヤツの愛車の軽の助手席、行き先も告げずに乗せられた道中、何処か上の空で運転しやがるもんだから、何度冷や冷やして叫んだことになるのか、悪いがとてもわからない。後一時間も車中の旅が続いてたなら、ストレス性の胃炎でも起こしてたに違いない。医者が患者を作るな、医者が患者を!!

 だが、甘かった。連れてかれた先でもトンデモない事をやらかしてくれたのだ、コイツ。駅に繋がる形で建てられた大きなショッピングビルの一角。華やかで愛らしい飾り付けの成された宝飾店。断わっとくが、この季節に男二人連れで足を運ぶような場所では、絶対ないだろう。 

 思わずジト目で言ってしまった。『お前、ここ、俺と来る場所じゃないからな? 他にいなかったのかよ?』応えて、『仕方ないだろ。職場の人間はなんか怖いし、女で通せる奴なら知ってるけど、出来ればアイツに借りを作りたくない』と、ヤツ。まぁ、台詞に心当たりはあったので、そこは黙っておいてやる。

 が、その後の言動がろくでもなかった。持参していた雑誌を広げ、店の店員捕まえて、あろうことか、『リング作ってもらえるって書いてあるんですけど、メッセージ入れて、このページの三番目と六番目のリングの雰囲気かけ合わせた感じで作れますか?』と。

 店員はにこやかに『あ、はい。デザインリングのご希望ですね。おめでとうございます。因みに、ご予算はどの程度でしょうか?』と応じているが……。

 台詞の大いなる違和感と雑誌に不安を覚えて、迷わず待ったを掛けた。『待て、頼むからちょっと待て。お前、その雑誌の指輪、【素敵なエンゲージ&マリッジリング】と書いてあるけど知ってたか? 三月にプロポーズの予定があるとは聞いてないというか、付き合い始めてすらいないよな?』

 素朴な疑問に、ヤツは真面目に応えた。『三月のお返しの雑誌見てたらアクセサリーが載ってて、師長さんが可愛いですねって言ってたし、誕生日に良いかと思って。イメージに合いそうなのが載ってるのがこれだったから持ってきた。プロポーズの指輪は給料三カ月分のダイヤだって先生達言ってたし、ダイヤモンド入れなきゃいいんだよな?』と、大真面目に。

 ……コイツは一体どの年代のドクターを捕まえて、何を訊いてきたのか。そして、記憶が正しければ、カルテで見た彼女の誕生日は、半年以上先だったはず。


 だが、とにかく。やるべきことは見えたので、所在なさげに立ちつくして会話を聞いていた店員に、訂正を入れた。

 『…………すみません。コイツが指してるのに近いイメージの、エンゲージでもマリッジでもない、ファッションリング出してもらえますか。そこにメッセージ入れてやって下さい』









 

 ……確かに私は今年で二十四歳になるんだし、確かに誕生日は十一月の三日なんだけれど。目の前にして悩んでいるのは、昼間に渡されたリングの小箱。

 状況が状況だったので、そもそも仁科さんがなんでこんなものを持ってたのかまで、そのときは頭が回らなかった。家に帰って小箱を開けて、出てきたリングはとても綺麗で。

 嬉しくなってはめてみた。淡い色合いのカラーストーンがたっぷりとあしらわれていて、シンプルなのに可愛いデザイン。

 キラキラ照明に翳したリング。ふと、リングの外側、何か文字が彫られているのが見えた気がして。一度外したリングをサイドボードのテーブルライトの下に持って来てみる。

 彫られていたイタリア語のメッセージ、直訳すれば、【十一月三日 二十四歳おめでとう】というもので、一瞬だけ固まった。『私に買った』と仰ってたし、日付と年齢を見たって私宛てで間違いない。

 イタリアに本店を置くこのブランド、幸か不幸か、音楽の関係で私はイタリア語学に少し縁があって、この短い文を読み間違えたとは思えない。問題は、今が四月の末と言うこと。   

 つまり、半年以上先の誕生日のメッセージが何故? 頭の中がこんがらがってきたところに、折良く電話のベルが響く。 



「……ごめん、仁科です」
「…………丁度、説明が欲しかったとこです。リング、とっても素敵なんです。けど、文字が……」

「うん、武原と小牧さんの二人から大笑いされてて気付いたとこ。誕生日用に用意してたから、誕生日の日付彫ってあるんだ……」
「……四月の三週に十一月の誕生日プレゼントが出来てるところに疑問を持っても?」

「ホワイトデーの特集の雑誌見てたら、靴とかバッグとか色々載ってて、参考になるかなぁと思いながら見てたら似合いそうなのがあったから、武原連れて店に行って、その場で決めて買っちゃって……」
「…………恐ろしい話をありがとうございます」

 電話の向こうで何やら言い淀んでいる気配が伝わって来る。何かを間違えたと言わんばかりに頭を抱えてる様子が見えてしまって。ふと、目を上げたカレンダーの日付に、思わず笑みがこぼれた。


「仁科さん、今日の日付は御存じです?」
「へ? どうしたの?」

「今日の日付が何の日だったか思い出して下さったら、一度お返ししますよ?」
 私の言葉に、電話の向こうの彼が少し考えて、それからきっと、微笑んだ。

「渡しちゃったしね。返されても困るって宣言したし、忘れとこうかな。十一月には可愛いカップとケーキ屋さんを探しとくから、もう着けててもらえる?」
「……はるちゃんせんせは実はタヌキさんだよって子ども達に教えてあげたいです」

 ――――秋の半ばから紡ぎ出した物語を、春の同じ日に始めるの。ちょっとロマンチックじゃありません?

後書き


作者:未彩
投稿日:2015/12/22 19:37
更新日:2015/12/22 19:37
『人魚姫のお伽話』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。

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