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作品ID:1785
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異界の口

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


一章 セイ 八

前の話 目次 次の話

 その夜、夕食のすぐ後に、寮母さんが自分の部屋の前を通り過ぎた。
「ホタル!」
 呼び声に答えて、ホタルが扉を開ける音がした。
 一言二言、何かを話して、寮母さんが戻っていく。
 その足音が聞こえなくなってから、自分はそっと扉を開けた。ホタルが扉を閉める音がしなかったからだ。
 扉を細く開け、ホタルの部屋のほうを見る。
「どうしたの、セイ。」
 ホタルの声を受け、自分は廊下に出た。
 後ろ手に扉を閉めてホタルの部屋のほうへと二、三歩歩けば、開け放った扉の前で、ホタルがなにやら便箋をのぞきこんでいた。
 封筒が廊下に落ちている。
 かがんで拾い上げると、そこには宛名も何も書いていなかった。封ろうだけがいばったようにそこに押されている。
「誰からの手紙?」
「兄から。」
 そう言って、ホタルはこちらに便箋を向けた。
『我が弟、蛍へ
 海までおいで
 兄より』
 それだけ書かれた、たった三行の手紙だった。
「時計をくれた、あのお兄さんか?」
「そうだよ。」
 便箋を収めて、さて、と呟く。
「ねえ、セイ?」
「なんだ、ホタル。」
 自分は、目を合わせてから、後悔した。
 ホタルの瞳がある。
 黒板消しを扉にはさんだり、授業をサボろうとしているときの瞳。
 物静かな少年が少しの間だけのぞかせる、人を困らせる光があった。
「兄さんが来いと言った。だからぼくは行こうと思う。」
 その口調は、人にものを尋ねるものではなく、宣言をするものだ。
 それも、ごくごく単純な理由で、これからの行動を決めている。
「学園を出るけど、力を貸してくれないかい? セイ。」
 にっこりと笑うホタルの顔を、自分は凝視した。
「本気で言っているのか? ホタル。」
「うん。」
 素直に返答されても、困るのはこっちだ。
「どうして?」
「かれこれ半年も音沙汰のなかった兄から、手紙が来たんだ。行くしかないだろう。」
 もっともな理由に聞こえる。
「いや、でも、ホタルは学園に入ってからこのかた、外に出たことがないんだろう?」
「そう言われていたからね。」
「誰に?」
「兄から。」
 外出を禁じていた兄から、許しの手紙が来た、ということだ。
「よければ今すぐ出たいんだけど……。」
「今すぐ?」
「最終の汽車に間に合うだろう?」
 そう言って、ホタルはふらりと部屋の中に戻った。
「おい、ホタル!」
「準備するから、ちょっと待ってて。」
 学園を出る気は満々のようだ。
「そんな、すぐでなくてもいいだろう? 今は夏休みなんだ。明日、ちゃんと寮母さんにも断りを入れてからゆっくり出ればいいじゃないか。」
 ベッドの下からトランクを出したホタルが、こちらにふり向いて、呟く。
「寮母さんに見つかったら、ぼくは外には出られない。」
 顔が、笑っていない。
 小さな明かりだけの部屋だ。外の月のほうが明るいかもしれない。そんな光の中でさえ、ホタルの顔が白く見える。
「何か、あるのか?」
 おずおずと聞くこちらに、それでもホタルは笑わない。
 昼間はあんなに笑っていたのに。
「そのうちわかるさ。」
 何があるんだろう。
 ホタルは普通の少年だ。
 確かにうわさは多い。なぜこんな平凡な少年がうわさになるのかわからないくらいに。しかし、うわさが多いからといって特別なわけでもない。
 そんな少年が、なぜ兄一人に強制されたからといって、何年も学園の外に出られないのだろうか? なぜ、外に出られないよう、寮母さんが邪魔をするのだろうか?
 トランクに荷物をつめるホタルをしばらく見てから、自分は我に帰った。
 このままでは、また彼の背中を見ることになるだろう。
 そんなのはいやだ。
 二年間隣室だったとはいえ、自分はまだホタルのことをよく知らない。なぜホタルが外に出られないかなんて、考えもしなかった。
 けれども、今は知りたいと思う。その謎に疑問を持ってしまったから。
 さすれば行動あるのみだ。
 すぐに、自分の部屋にとって返した。
 さいわいなことに、旅行の準備は万全だ。なにせ、毎年のくせで里帰りの準備をしてしまってから、あの手紙が来たのだ。鞄はそのままになっている。
 貴重品を放りこめば、旅行にいける準備はそろう。
「いつでも出られるぞ、ホタル!」
 準備万端でホタルの部屋に飛び込むと、びっくり顔のホタルと出くわした。
「……はりきりすぎだよ、セイ。」
 旅慣れしていないホタルの荷造りを手伝って、出立の準備が整った頃には、最終の汽車まで一時間ほどになっていた。

後書き


作者:水沢妃
投稿日:2016/08/13 22:01
更新日:2016/08/13 22:01
『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。

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