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作品ID:1794
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異界の口

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


二章 瑠璃 六

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 参道は、どんどんせまくなっていく。
 祭りのにぎわいが遠ざかって、自然と穂高たちの歩みもゆっくりになった。穂高は走らなくなった時点でわたしをつかむのをやめていた。
 階段の脇には、鳥居が無数のアーチを作っていた。ホタルは狐面をかぶらされて息苦しそうだ。
「兄さん。どこまで行くの。」
「奥社だ。」
 奥社といえば、神社の中でも一番奥にある、階段を登りに登った先にある社のことだろうか。
 確か、もはや祠ぐらいしかないものだと聞いたことがある。
 祭りの夜にだけ解放されるそこに行けるのは、ごく一部の人間だけだという。
「いいか、ホタル。奥社に行って、そこにいるばあやと話をしろ。そうすれば、ばあやがなにもかも答えてくれる。」
 穂高は、わたしをホタルの首にかけた。
「お守りだ。守ってくれる保障はないが。」
 わたしは蹴りの一つでも入れたくなったが、あいにく足がない。
 ホタルは一つうなずいて、階段を上がっていった。穂高はついてこないようだが、ホタルが一回も振り返ることがなかったので、私はついぞやつの姿を見ることはなかった。
 ホタルはほぼ崖に近いような石段を上がっていく。一度獣道のようになった参道は、ゆるやかな場所になるとまた階段になった。
 後ろを振り向けば、祭りの光が一本の筋のように輝いている。
 ホタルは息をととのえていた。ふだんろくに運動をしていないのだろう。穂高と一緒だ。
「行くの、ホタル。」
「行くよ。」
 ホタルはわたしを両手で持ち上げた。
「だって、ぼくは自分のことが知りたいのだもの。さっきの、あれが、なんなのか。」
 なるほど。先ほどの現象の正体を、ホタルも知らないのか。
 意を決したように、ホタルは階段を登った。
 その先には、竹林があった。
「ホタル。まだ着いてないらしいぞ。」
 もしかしたら、穂高はここまで来るのが面倒で、途中で引き返したのかもしれない。
 ため息の後、ホタルはぎょっとしたように立ち止まった。ついでにお面を顔の横にずらす。
「どうした?」
「瑠璃さん。あれ……。」
 ホタルの指差す先。竹林の向こうに、ぼんやりとした光が見える。一瞬、祭りの中に戻ってきてしまったのかと思った。
 竹林は、やがて広い広場へと姿を変えた。
 広場には大きな階段があった。幅が広すぎて階段に見えない。ひな壇といったほうがいいだろう。
 おそるおそるひな壇を歩いていくと、一番上に立派な社があった。四本の柱が屋根を支えていて、中は吹き抜け。障子も板戸もない。ただ、向こう側は見通せなかった。数えきれないほどの灯ろうが、あわく光を発しているのだ。
 建物のすぐ近くまで来て、ホタルは光を見つめた。
「これは綺麗だね。」
 どう見たって怪談話だ。
 そのとき、暗闇の中にぽっかりと現れた奇怪なものの縁側に、人影が見えた。
「こんばんは、言の葉の子や。」
 着物を着たおばあちゃんだった。

後書き


作者:水沢妃
投稿日:2016/08/13 22:27
更新日:2016/08/13 22:27
『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。

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