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作品ID:1805
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異界の口

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


三章 小夜子 七

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 学園に帰る日の朝、玄関の前でお母様に呼びとめられました。
「小夜子。くれぐれも居城家の令嬢であることを忘れぬように。むやみにかけ回ったり、見栄を張って無茶なことをして、みっともない姿をさらしたりしたら許しませんよ。居城家の女は深窓の令嬢であるべきなのです。」
「わかっておりますわ、お母様。行ってまいります。」
 麻章の手を借りて馬車に乗ると、すぐに麻章も乗りこんできました。駅まで見送りに来てくれるのは麻章だけです。
「相変わらず、奥様は小夜子様に冷たいですわね。」
「いいえ。お母様は素直でいらっしゃらないだけなのよ。」
 くびをかしげる麻章には、それ以上の事は言いませんでした。
 静かにしていれば病気が悪化することはないから、くれぐれも安静にしているように。
 それだけの事を言うのに、お家の事や女はどうとかつけ加えないということができないのが私のお母様です。
 麻章とは、改札の前で別れました。彼女はホームまで着いていきたそうにしていましたが、私はていねいに断りました。
「お嬢様。くれぐれもお体には気をつけてくださいね。」
 それからも、麻章はいろいろと注意事項を付け加えます。
「わかっているわ。家のことをよろしくね。」
「はい!」
「お元気で!」
 麻章に手を振り、私はトランクを持ち上げました。
 ホームに着くと、汽車はもう着いていて、私はわざと取った安いほうの客車へと向かいます。
 周りは見送りの人などであふれていて、なかなか一人でいる人は見かけませんでした。それに、旅行へ行く人の波はいったんおさまっていて、この間よりも人は少ないようです。
 ですから、その人は妙に浮いて見えました。
 細身の少年でした。荷物は鞄一つで、客車の前にぼうっと立って、駅のガラス張りの天井を見上げているのです。
 そうして、私が近づいていくと、ふっとこちらを見ました。
「やあ、小夜子嬢。」
「ごきげんよう、ホタル様。」
 待ち合わせをしていたかのように、私たちは落ち合いました。

後書き


作者:水沢妃
投稿日:2016/08/15 08:17
更新日:2016/08/15 08:17
『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。

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