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作品ID:1930
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前書き・紹介


海底都市バビロン

前の話 目次 次の話


 年越えの儀と新年際は同時に行われる。

 夜半から始まるお祭りは夜通し、三日三晩祝い続ける一年行事であった。

 マリの舞台はメンフィスに程近い海上が選ばれた。筏を繋いで桟橋として支柱のくいを海底深く打ち込むと波に揺さぶられなくなった。そうして丸太を連結してゆく事で立派な海上舞台を整えた。

 丸太の隙間から砂を含んだ僅かな海水が波に呼吸を合わせて出入りをする。炎が舞台の四隅に焚かれ、水平線を望めば煌々と輝く月がひときわ大きく夜空を照らす。水平線から海へと光の道を映し出して舞台にまで届く、静かに揺らいでいる。

 ギルガメシュ王は舞台の奥に用意された椰子で出来た椅子に腰掛けている。雅な絹の腰巻をまとい半裸で黄金の装飾品を身に付けている。髭と髪は丁寧に結われていて金の髪飾りを挟んでいた。彼自身最高の観客になるべくして身支度を済ませている。

 舞台に一人の女性が上がってきた。

 見た事の無い衣装を身に纏っている。純白にハイビスカスと言う大きな花弁が描かれたワンピースに身を包み腕と首にレイを掛け、頭に赤い花をつむいだ髪飾りを付けていた。

 唯一の演奏楽器である太鼓の音色は踊りによって進められた。

 マリはゆっくりとしたリズムで腰を揺らし両の腕を波のように動かしてゆく。

 マリの無駄の無い健康な体は見る者全てを魅了した。

 ギルガメシュ王も瞬きを忘れてすっかり見入っていた。

 マリのしなやかで優美な踊りは次第に軽快な踊りにテンポアップしていく。

 マリの瞳はギルガメシュで満たされ、ギルガメシュもまた彼女の笑顔に釘づけになった。

 太鼓のリズムが力強く、素早いものになってゆく。マリの足踏みもまた激しくなり、舞台の丸太が振動する。月より降りた光の大柱が一瞬荒々しく揺れた。

 アッカドの宰相、サルゴンは大臣に目配せをすると大臣は耳打ちをした。

「エンキドの餌となるアザラシの肉をこの舞台の支柱に巻きつけております。其れよりもそろそろ退散の準備をなさるようお願い申し上げます」

「踊りがクライマックスに近づいてゆく。巫女マリの瞳にはもはや何も映らず、この世には無い何かが見えていた。彼女はひとつのトランス状態に入っていたのだ。そこまで没入した彼女の表現しようとした世界にギルガメシュは圧倒されていた。

 だが、次の瞬間。何者かが舞台に上がってきた。

 月が海上に浮かび上がらせた、光の柱の真ん中に背びれが現れた。背びれは次第に大きく立ち上がり大波を呼び込み、渦を巻く。すると、その部分の光の柱がとたんに細くなり、海の底から怪物が巨大な体をあらわにする。

 太く輝いている静かな海原に現れた怪物はエンキドだ。

 真っ黒の分厚い皮膚に持ち上げられた波が扇状の光を海原に描く。

 血の臭いに導かれたエンキドは、ますます速度を上げると舞台上のマリに狙いを付けている。エンキドは上陸するつもりだ。勢いを付けて獲物にかぶりつくシャチの行動本能のままマリに迫ってきたのだ。

 しかし、一足早く舞台に上がりマリを担いで、その場を逃げようとする男がいた。

 男の方に背負われたマリは正気に戻ると悲鳴を上げた。

 ギルガメシュは男が壇上に上がると、大いに激怒し黄金の剣を抜いた。

 しかし、男が素早く王を横目に走り去ろうとすると、すぐさま災いの本体が勢いをそのままに即席の舞台を簡単に破壊しながらギルガメシュに狙いを換えて襲い掛かった。

 エンキドの巨体から繰り出される突進は岩をも破壊し、人々を押しつぶした。その破壊力は桁違いだ。激しい地響きを轟かせ、大土煙をまきあげた。

「巻き込まれれば、ギルガメシュは生きてはいまい」

 サルゴンは恐ろしい現場で二次災害にあわぬように一目散に逃げ出したのであった。

 舞台の奥、ギルガメシュが座っていた場所は粉々に砕かれていた。

 激しい水飛沫と土の幕に包まれていた現場からギルガメシュの咆哮が聞こえてきた。

「この化け物め!」

 ギルガメシュは黄金の剣をエンキドに突き立てていた。エンキドの突進に巻き込まれたにも拘らずギルガメシュは黄金の鎧を着て生き残っていたのだ。

 しかし、頭からの流血が酷い。

 ギルガメシュの一撃は肉厚な体にそれほどダメージを与えてはいない。エンキドはやがて来た引き潮に乗って海上に戻り始めた。

「貴様、余を食らおうと言うのか?よかろう相手になってやる」

 人間がどれほど力をこめようがシャチの硬い皮膚の上から致命傷を与える事など出来はしない。エンキドは餌の奪取に失敗するとすごすごと海上に逃げていく。

 砂浜と海上の間際でギルガメシュは高く飛ぶと、勢いを付けて体重ごとシャチの硬い皮膚に剣を突き立てた。今度ばかりはエンキドも激痛に暴れ周り、ギルガメシュを振り落とそうとした。だが、獅子狩りでならした、勇敢さと獲物を駆る感覚は研ぎ澄まされている。

 エンキドは、ギルガメシュを体に引っ掛けたまま海の底にダイブした。

 エンキドは海の中で激しく動き回る。海に深く深く潜ろうとする。ギルガメシュは突き立てた剣を離すまいと握りに力をこめる。ますますエンキドの傷が開いてゆく。流血が海を赤く染め渦を巻く。

 海の奥深くに引きずり込まれたギルガメシュは、海中では身動きが取れない。とうとう力尽き果てると海の底に沈んでいった。

「これ以上は息が持たん。余もここまでか。だが、楽しかったぞ…」

 その時、海底の暗闇からエンキドが大口を開いてものすごい速度でギルガメシュに迫る。

 意識が途切れる間際で、ギルガメシュはバビロンで夕食を共にしたマリの顔を思い出した。

「楽しかった」

 ギルガメシュの脳裏にジッグラトから眺めたバビロンの街が思い浮かんだ。

「まだ、浮世には楽しみなことがある。未練か?」

「そうだ未練だ。余は帰って、バビロンを導かねば。それよりも、何より逢いたい人がいる」

「届け、この思い」


----------


 マリは自分を抱えて逃げる男が、アリババだと気が付いた。

 マリはアリババに海岸に戻るように喚いた。手足をばたつかせる。

「馬鹿なことはよせ」

 アリババが憂えた表情で現場を遠めに見やる中、マリは泣きはじめた。

「如何して、何が起きたの?アリババ、貴方なら分かるはずでしょ?」

「…」

 マリはアリババの告白を聞いて大いに驚いた。

 アリババがアッカドの宰相サルゴンの下で奴隷として働いていた事。サルゴンはギルガメシュの宝物庫を探している事。サルゴンはギルガメシュを亡き者にしてシュメール人を追い払い、アッカド人によるバビロンの一極独裁を目指している事。

「サルゴンの狙いがギルガメシュ王であるなら何故私を救ったのです?」

「マリの方が自分にとっては大事な人だからさ」

 マリはアリババの頬に平手打ちをした。

「王こそがこの国には必要なのです。何故分からないのです」

「何故あんな王が。獅子狩りばかりに興じている暴君の味方をするんだ!」

「アッカド人がシュメール人を追い出そうとしているなら、なおさらシュメール人にとってギルガメシュ王は必要なのです」

 アリババは叩かれた頬をさすりながら頭にきていた。

「自分の神託を受けた男だからか?マリはギルガメシュが好きなだけだろう?シュメール人もアッカド人も関係が無い。本当はギルガメシュの側にいたいだけなのだろう。ギルガメシュに会えない日々は、マリは神官として厳格すぎるぐらい勤めに徹し、人間らしさがまったく感じられない」

「!」

「取って置きの金色の彫像の話をしても、君は上の空」

「そんな事はありません。あの時は踊りの稽古の事を考えていたのです」

「それは、ギルガメシュの為の踊りさ。話をすれば、あいつの事ばかり。一年で二回しか会えない奴の事でそんなに話す事があるというのか?」

「それは、嫉妬?みっともないですよ」

「ああ、そうさ。嫉妬だよ。だから俺はもっと君が驚き興味を持ってくれるような宝がほしくてサルゴンの下に付いたんだ」

「恥を知りなさい」

「それに、俺はギルガメシュ王の強さにも嫉妬していたんだ。豪胆で、勇敢で、些細な事などまったく気にしない優雅さ。どれも人間離れした大きな器。俺には届かないものばかり」

 アリババはマリの両腕をつかんで憂えた顔をした。

「マリ、死ぬ事は怖いだろ!なあ?普通だろ。なのにあの王は笑っているんだ。獅子狩りの事だよ。どんなに優れた武具を持っていようと死の恐怖はまとわり付く。少しでもひるんだりしたら襲われる。獅子達はハンティングに於いて人間よりも何倍も優れているんだ」

「アリババ…」

「小石に体をよろけても死はすぐさま襲い掛かってくる。ちょっとしたきっかけで人は死ぬんだよ」

「アリババ。あなたのお父様の事を言っているのね」

 アリババは船乗りだった。それは、父親がそうであった影響が大きい。彼の父親はシュメール人が大海原を渡る為の船頭を務めた。航海に於いて数十年というキャリアがある熟練の技術者だ。

「潮の流れが速くても軽やかに渡って見せ、海があれ時化ていても的確な判断で舵を取り、大雨が降り、嵐が来ても長年の経験から安全に避けて通る。そんな父親の姿を見て船乗りに憧れた」

「でもある日の事、船は転覆し、乗組員は皆水死した。原因ははっきりしないが、船頭の判断ミス、慢心だと言われた。親父も犠牲者となり、俺の家族は他の犠牲者の責任を賠償金で背負う事になった」

「慢心なものか。親父はとても厳格で、仕事に生真面目すぎる程毎日鍛錬を積んでいたんだ。あの時は神の気まぐれで親父は死んだんだ」

 マリは神官であって、アリババの神への冒涜は許されないと思った。でも、看過した。

「あなたのお父様は神に召されたのです。神は航海士としての技術が必要だったのでしょう」


「神が海を渡る必要があるって言うのか!」


------------


「…」

 ギルガメシュは朦朧としている。

「ここは、何処だ?海の底か?」

 やがて意識を取り戻した。

 エンキドは上空を自由気ままに泳いでいた。

「お前は大した奴だ。死を覚悟してなお襲いくるとは。ああ、最後はお前に助けられたのか」

「余は確かに見たぞ。初めて見た。獲物を狩るときの圧倒的な破壊力と、命掛けの陸上へのダイブの姿。それだけで十分に美しい」

 ギルガメシュはエンキドのハンティングに見惚れていた。

「ようく見れば、お前には愛嬌がある。知能も高そうだ」

 何故か、その時のエンキドからは戦意が感じられなかった。

「余は決めたぞ。命の恩人であるお前を我が友とする」

 ギルガメシュは海で満たされた星にいた。

 しかし、単純に受け入れる事はできなかった。

「傷が塞がっている」

 頭の傷口に手を当てた。怪我が完治していた。

「マリが手当てをしてくれたのか?」

 ギルガメシュは辺りを見回すが誰もいない。

「幻か?確かにマリの顔が思い浮かんだのだが」

 ギルガメシュは海中に浮いていた。漂っていた。

「地上ではないのか?」

 確かに息をしている。

 ギルガメシュは海底にジッグラトを見た。

 驚いた事に、海中にバビロンの町が再現され、ジッグラトを見下ろしているではないか。木々もそのまま生育し、花も咲いている。むしろ木々は大きく成長し、バビロンに深く根付くと枝を広げ葉いっぱいに茂らせていた。

「ここは、バビロン?」

 バビロンの町は植物で荒廃し、建物が所々崩れ落ちている。

 陸続きの他の場所さえ存在し抉れた大陸の地平線が遠くに見える。

「海で満たされた星、木々に囲まれたバビロン」

 エンキドが上空で自由気ままに泳ぎを満喫している。

「やはり、ここは海中にあるバビロン」

 だが、海底の世界に人間のいる様子は無い。

 不思議とこの世界に自分とエンキド以外に高等生物のいる気配は無かった。

「何故このように荒れ果ててしまったのだ?何故人がいないのだ」

 ギルガメシュは次第に孤独感にさいなまれた。

「余が導いた世界だとでもいうのか?否、断じて認めん。余の世界は、華やかで美しく、優れた街であるはずだ」

 すると、海底の粘土から人が現れた。粘土が人型に変形した。粘土から次々と人間が現れた。

「あれは人間か?」

 ギルガメシュは宙を蹴ると泳いで人に近づいた。

 人に言葉を掛けるが明確な応答は無かった。否、気づいていないようだ。

 だが、子供がギルガメシュに気づいた。

 腕を伸ばすと花を摘んで渡してきては、巨木の本体を指差した。

「あそこに行けと申すのか?」

 聞き返すや否や人は別件があるとばかりに向きを変えて階段を下りていった。

 ギルガメシュは粘土の人にどこか懐かしさのようなものを感じて子供を見送った。このまま何もしないでは何の解決にもならないと判断した彼は、エンキドを他所に海底のバビロンを散策してみることにした。

 人形に指図されるがまま、バビロンを取り巻く木々のうち最も大きなものを目指して泳いでいくとその根元に何かの石碑が建っていた。楔形文字で何か書かれている。ギルガメシュは石碑に触れてみると埃を落とした。粘土の人形に渡された花をそえる。

 どこか後ろ髪引かれる思いがあった。

「俺は…何者であったか…」

 ギルガメシュは突然に頭を抱えると何かを思い出そうとしていた。

 先ほどからギルガメシュは問いかけてばかりいる。

「ここは何処だ?誰かいないのか?自分は何故生きている?」

 疑う心ばかりが強くなって、何にも確信がもてなくなっていた。仕舞いには、自分の名前さえ記憶の中から零れ落ちそうになっている。

 その時、背後に何かの気配を感じた。

 その頃、ギルガメシュの不在な地上のバビロンでは、アッカド人によるシュメール人の締め出しが始まっていた。


後書き


作者:秋麦
投稿日:2017/02/08 23:05
更新日:2017/02/09 00:25
『オーパーツ』の著作権は、すべて作者 秋麦様に属します。

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