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作品ID:2362
「新編 辺境の物語 第一巻 カッセルとシュロス 前編」へ

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新編 辺境の物語 第一巻 カッセルとシュロス 前編

小説の属性:ライトノベル / 異世界ファンタジー / 激辛批評希望 / 初投稿・初心者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介

    登場人物のおさらい

 ルーラント公国 カッセル守備隊

 リュメック・ランドリー カッセル守備隊隊長
 イリング 副隊長   
 ロッティー(シャルロッテ)、ユキ 隊員

 アリス 副隊長補佐  
 エルダ 新任の指揮官
 アリスの部隊の隊員  
 ベルネ、フィデス、リーナ
 レイチェル、マーゴット、クーラ
 マリア お嬢様隊員  
 アンナ お嬢様のお付き
 カエデ 輸送部隊隊長 
 ミカエラ 事務官 エリオット メイド長 


 バロンギア帝国 シュロス月光軍団

 スワン・フロイジア シュロス月光軍団隊長  
 コーリアス 参謀
 フラーベル 副隊長 文官   
 ミレイ  副隊長 ジュリナ 部隊長 
 ラビン、キューブ 隊員  カンナ 魔法使い
 フィデス・ステンマルク 副隊長   
 ナンリ  部隊長 フィデスの部下  
 トリル、マギー、パテリア 隊員

 スミレ・アルタクイン 東部州都軍務部  
 ミユウ 東部州都軍務部所属
 
 ニーベル 地下帝国の住人 


【置き去り部隊】

前の話 目次 次の話

 隊長のリュメック・ランドリーが乗った馬車はどんどん小さくなり、ついに見えなくなった。
 ルーラント公国カッセル守備隊のアリスたちは戦場の真っ只中に置き去りにされてしまった。

 副隊長補佐のアリスと指揮官のエルダが率いる部隊に与えられたのは「しんがり部隊」の任務である。「しんがり部隊」は退却する部隊の最後尾で、追ってくる敵と戦い、本隊を無事に逃がすのが役目である。カッセル守備隊隊長のリュメックはすでに退却してしまい、残された部隊は僅かに十人足らずだ。しんがりというよりは最前線に置き去りにされたのだった。

 背後からはバロンギア帝国シュロス月光軍団が追撃してきていた。

 幸いなことに太陽が傾きだしている。
 目の前には赤土の混じる大地が広がり、周囲にはゴロゴロとした岩や低い灌木が点々としている。遮る物のない平坦地で敵を迎え撃つのは容易なことではない。遥か先の、西日に照らされた林まで逃げられれば一夜を明かすことができるだろう。
「あそこに見える林まで逃げ込みましょう。荷駄はすべて放棄します」
 エルダが指示を出した。
 ベルネとスターチが見張りに立ち、輸送隊のカエデを先頭に、アリス、エルダ、それに、レイチェル、マーゴット、クーラ、マリアお嬢様、お付きのアンナが続く。後ろを固める役目はリーナだ。
 総勢十一人・・・あと一人、シャルロッテことロッティーがいた。
 隊長の配下だったロッティーは、エルダを追放するのに失敗した責任を取らされて、アリスたちとともに置き去りにされた。
「シャルロッテさん、あなたも一緒に行きましょう」
 エルダがへたり込んでいるロッティーの手を取った。
「イヤだ、馬車に乗って逃げたかったのに、こんなのイヤ」
「ここに残りますか? 殺されるか捕虜になるか、どちらかですよ」
「殺される・・・あはあ」
 ロッティーは地面に突っ伏した。
「来いよ、ロッティー、死にたくなかったら付いてこい」
 リーナがロッティーの襟首を掴んで引き起こす。やむなくロッティーは逃走の輪に加わることになった。
「来るぞ、馬で追ってきた」
 リーナが遠くを見て叫んだ。
 林を目指して駆け出したのだが、足の遅いお嬢様がいるのではたちまち追い付かれてしまった。馬は先頭を追い越してその先で止まった。
 逃走する一団を捕らえたのは、シュロス月光軍団の部隊長ジュリナだった。馬を返して槍を構え、行く手を塞ぐ。
「そこまでね、もう逃げられないわ」
「そうはさせない」
 ベルネが繰り出された槍を掴み取り、思い切り引っ張るとジュリナが馬から転げ落ちた。
「今のうちに、みんなで走れ」
 守備隊は一目散に林を目指した。
 水平線に夕日が沈み、ますます辺りが暗くなった。アリスたちは林の奥に逃げ込み、崩れた石垣を見つけて身を潜めた。
 食事はパンと燻製肉を分け合った。輸送隊の荷物からお嬢様とアンナが持ち出したものだった。

 すでに日は暮れた。
 シュロス月光軍団隊長のスワン・フロイジアは暗くなった空を仰いだ。
 不覚にも、いったんは確保したカッセル守備隊の隊長に逃げられてしまった。何としても隊長を捕虜にしなければならない。捕虜を奪わなければローズ騎士団に合わせる顔がないのである。
 捜索隊からは前方で敵兵を発見したという報告が入った。守備隊の残党らしき兵が十人ほど抵抗しているとのことだった。敵は小勢だ、簡単に蹴散らせるだろう。
 しかし、隊長のスワンが駆け付けた時はすでに敵の姿は見失っていた。この闇では追尾はできない、夜明けを待って追撃を再開することにした。
      *****
 白々と夜が明けた。
 カエデが点呼を取って人数を確認したところ、十二人、全員揃っていた。
 さっそく作戦会議を開いた。
「月光軍団は隊長を捕らえようと追撃してきたのです。しかし、隊長は城砦へ逃亡してしまいました」
 指揮官のエルダが言った。
「私たちは置き去りにされました。カッセルの城砦に戻ったとしても、あの隊長のことですから門の中に入れてくれるとは限りません・・・そうです、私たちには帰る場所がないのです」
 一同からため息が漏れた。マリアお嬢様は両手で顔を覆い、ロッティーはため息をつく。
「行く当てもなく荒野を彷徨い、そのうち食料は尽き、行き倒れになるでしょう。運よくどこかの城砦に逃げ込めたとしても、せいぜい奴隷にされるくらいです。命の保証はできません」
 それを聞いてアリスはガックリと肩を落とした。
「私たちに残された道は・・・」
 誰もがエルダの次の言葉を待った。
「生き残るには、敵を打ち負かし、捕虜を奪い取って城砦に凱旋することしかありません」
 エルダはただ逃げるだけでなく月光軍団を倒して捕虜を奪うと言うのだ。
「この人数では厳しいな」
 逃げるだけならともかく、敵を倒すとは、さすがのベルネもこれは無謀だと思った。
「そうだよな、この戦力では・・・」
 ベルネだけではないリーナとスターチも暁の空を見上げて唸った。
「敵陣から救出したのはベルネさんたちです。それなのに、隊長は自分だけ逃げるなんて許せない」
 エルダの言葉がきつくなった。
「隊長を見返すためにも、勝って、捕虜を奪って凱旋したい。置き去りにされた恨みを晴らすのよ」
「凱旋か・・・私は退却するだけでもいいと思うわ」
 輸送隊の隊長カエデの思いは、戦うことより無事に逃げることにある。カエデはさらに続けた。
「隊長はボニア砦に着いている頃よ、今日中には城砦に戻れると思う。私たちはしんがりの役目は十分に果たしているんじゃないのかしら。功績は認めてくれるはずだわ」

 撤退か交戦か・・・このままでは座して死を待つだけだ。
「それでは」
 と、エルダが立ち上がった。

 木々の間から朝日が差しこんでエルダに降り注いだ。
「カッセルへ向かって撤収することとします。ただし、月光軍団と遭遇した場合には戦ってください。この人数では不利であることは否めません。その時には、私が捕虜になりますので、みなさんは逃げ延びてください」
 隊員たちを逃がすために指揮官が捕虜になる、それを聞いてカエデやベルネも納得したのだった。
「副隊長補佐、あんたはどうなの、指揮官は自ら捕虜になるというんだよ、あんたの決意を聞きたい」
「はあ、私も逃げられればそれに越したことはないんですが、どうしても言うんでしたら、捕虜になってもいいかなと、どちらかと言えば、そういう心境です」
 かなり遠回しの言いようではあるが、アリスも捕虜になると答えるしかなかった。
「よし、これで決まった。副隊長、あんたが真っ先に捕虜になれ」
「は、はい」
 こういう時に限って副隊長の責任を押し付けられるのであった。

 ロッティーは隊員たちの後ろで小さくなって座っていた。十二人の中で自分だけが仲間外れだ。これまでエルダやマリアを目の敵にしてイジメてきたことを悔やんだ。しかし、この状況では指揮官のエルダに従うしかない。集団からはぐれたら月光軍団の餌食にされるだけだ。
「ロッティー、あなたも一緒に戦ってくれるよね」
 エルダに呼び止められた。
「月光軍団を倒さなければカッセルの城砦には帰れないわ。分ってるでしょう、あなたも同じ運命なのよ」
 ロッティーには戦場に残るのも地獄だが、城砦に帰るのも地獄に等しいことだ。

 アリスたち十二人は林を抜け出して街道へと向かった。
 お嬢様を守りながら歩いていたのではスピードは上がらない。すぐに月光軍団の偵察隊に発見されてしまった。
「月光軍団です、騎馬が数騎」
 物見をしていたマーゴットが叫んだ。
「来るぞ、バラバラにならないで、まとまっているんだ。お嬢様を真ん中にしろ」
 ベルネが声を掛ける。
 土煙をあげて月光軍団が追いついた。取り囲んだのは副隊長のミレイ、部隊長のジュリナたち十騎ほどだった。
「隊長はどこ」
 副隊長のミレイが馬上から見渡した。
「隊長は逃げて行った、とっくに国境を越えているころよ」
「追いかけていくわ、雑兵はどきなさい」
 道を塞いでいるの残兵はせいぜい七、八人。慌てていたのだろう、鎧兜も着けていない兵もいる。こんな相手に構っている時間はなかった。
 しかし、ここで予想外の抵抗に遭った。一騎が襲い掛かったが、敵の兵に引きずり落とされた。もう一騎も槍を奪われる始末だ、雑兵と見えたが意外にも強かった。
「何を手間取っている、全員で掛かれ」
 一気に馬で蹴散らせに掛かった。
 これでは敵わない。リーナやスターチが懸命に敵を防いだものの、アリスたちはてんでに駆け出すしかなかった。
 月光軍団の騎馬に右へ左へと追いやられるうちに散り散りになり、ついに、数人ずつの集団に分かれてしまった。

 しかも、最悪なことに、アリス、エルダ、カエデ、マリアお嬢様とアンナの五人だけのグループになっていた。
「お嬢様、そこの木の陰に隠れましょう」
 アンナが手を引いて、針のように尖った低木の背後に身を隠した。

「いたわ、ここよ」
 月光軍団の副隊長フィデス・ステンマルク、部下のナンリが敵兵を見つけた。トリル、マギー、パテリアの三人も続いている。
「カッセル守備隊の隊員ね」
 フィデスが確認した。
「そうですね、何と言いますか、早く言えば、おっしゃる通りカッセル守備隊です」
 問い詰められて仕方なくアリスが認めた。
「捕虜にしますので付いてきてください。命まで奪おうとは言いません」
「はい、はい」
 アリスは二つ返事で捕虜になろうとした。
 相手は軍人にしては丁寧な言葉遣いである。礼儀を弁えているタイプに見えた。いきなり斬り殺されるような心配はなさそうだ。副隊長補佐という微妙な役職であることや、戦場初体験だとか、隊長に置き去りにされた事情を訴えれば、捕虜にもされず解放してくれるかもしれないと思った。
「縄につけ。それとも掛かってくるか」
 アリスがグズグズしていると敵の一人が剣に手を掛けた。こちらは見るからに強そうで、革製の服に胸当て肩当てなどに身を固め、革のブーツを履いた重装備の兵士である。言い訳など通用しない、いきなりバッサリ斬るタイプだ。
 これでもアリスは軍人のはしくれである。随分前のことだったが剣の稽古はしたことがあった。
 そこでハタと気が付いた。敵と向かい合うのはこれが初めてだった。俄然、手が震えて剣が抜けなくなった。
 敵がフッと笑った。アリスは笑われている。
「お前には武器は必要なさそうだな」
 なんと敵は素手で戦うというのだ。人を見下した態度、というか、諸般の事情を考慮して大幅に譲歩してくれたのである。こちらは剣、相手は素手、これはアリスにとって大きなアドバンテージだ。
 アリスは剣を抜いて構えた。
「イヤァ」
 ガシッ。
 踏み込んだところを体をかわされ、あっさり剣をはたき落とされた。何のことはない、戦場デビューは僅か一秒で終わった。
 それでもアリスはまだいい方で、他の二人、エルダとカエデに至っては剣を抜くことすらできなかった。エルダはあくまでも戦うと言っておきながら、いざとなったら、あっけなく抵抗を諦めてしまうのだった。

 敵ながら情けなるほどに軟弱な相手だった。
 月光軍団の部隊長ナンリは、
「トリル、こいつらを取り押さえなさい」
 と、部下のトリルやマギー、パテリアに命じた。
「はいっ」
 三人は守備隊のアリスたちを押さえ付けて身柄を確保した。
「よくやったぞ」
「いえ、ナンリさんが倒したんですよ。私たちは腕を掴んだだけです」
「見ましたね、フィデスさん。トリルたちが敵を捕まえるところを」
「ええ、しっかり見せてもらったわ」
「三人の手柄だと褒賞係に伝えることにしよう」
 トリルたちは倒れている敵の背中を押さえつけただけなのに、フィデスやナンリが手柄を立てさせてくれたのだ。
「捕まえたってことは間違いない、初陣なんてこんなものだよ」

 さっそくその場で捕虜の取調べが始まった。
 ナンリが役職と名前を問い質すと、捕虜の内の二人は、輸送隊の隊長カエデ、副隊長補佐のアリスだと判明した。捕らえてみれば意外にも高官であった。トリルは自分たちが捕虜にしたのがカッセル守備隊の幹部クラスだと知ってびっくりした。
「あなたは?」
 フィデスがエルダに尋ねた。
「エルダです、この部隊の指揮官です」
「月光軍団副隊長フィデス・ステンマルクです」
 フィデスはエルダを見つめた。白く透き通るような肌、スッとした鼻筋。エルダの美しい顔にたちまち魅入られた。エルダを捕虜にできたことを密かに喜んだ。
「輸送隊の隊長に指揮官とは、願ってもない収穫ではありませんか」
「え・・ええ」
 エルダの容姿に見とれて返事がおろそかになった。
 さらにナンリが聞き取りを続けたところ、守備隊の隊長はすでに逃亡し、この数名はしんがりを任されたのだということだ。
「部隊は何人でしょうか」
「全部で十二人だったのですが、バラバラになりました」
「たった十二人、それだけで最後尾にいるんですか」
 フィデスは少なからず同情してしまった。

「あひっ」
 灌木の背後で声がした。
「誰か隠れているな。トリル、お前たち見てきなさい」
 トリルを先頭に三人で声のする方へ近づいた。相手が攻撃してくるかと身構えたが、敵は茂みに隠れたまま出てこない。パテリアが恐る恐る覗き込むと、そこにはメイド服を着た二人が身体を寄せ合っていた。
「カッセル守備隊の人ですか」
「そうです、それがどうかしましたか」
「逮捕しますよ」
 二人を捕まえればさらに手柄をあげられる。しかも、相手は抵抗もせず地面に座り込んでいるだけだ。いかにも弱そう、これなら勝てる。ついに自分より弱い敵に遭遇したのだ。
「怖い、アンナ、ここにいて」「お嬢様、気を確かに」
 二人がお嬢様などと呼び合っているのを聞くと捕虜にするのが気の毒になってきた。パテリアがそっと手を差し伸べた。
「一緒に来てください」

 灌木に隠れていたマリアお嬢様とアンナが連れてこられた。エルダは月光軍団の隊員と手を繋いでいるのを見てホッとした。どうやら丁寧に扱ってくれているようだ。
「お嬢様、ご無事ですか」
「ああ、怖かった」
 マリアがエルダに抱きついた。
「この二人は、見習い隊員でしてメイドの役目です」
 エルダはナンリを仰ぎ見た。
「メイドか・・・かえって足手まといだろうに」
 腰抜けの副隊長補佐といい、メイドといい、こんな弱々しい者を最後尾に配置するとは通常では考えられないことだ。
「フィデスさん、このメイドはどうしますか」
「そうですね、指揮官たちを捕虜にできたのだから、その二人は見逃しましょう。国境まで馬車で送り届けてあげなさい」
 見逃してくれると聞いて安心したのか、お嬢様がツッコむ。
「私たちは馬車で逃げようとしたのですが、突き落とされてしまいました」
「何ともお気の毒なことですね。早くお逃げなさい」
「それで、私が乗る馬車はどこにあるんですか」
 まるで女王陛下のような物言いにナンリは跪いて一礼した。
「はい、ただいま急いで馬車を手配いたしておりますので、少々お待ちください」

 捕虜になった五人が集められた。
 エルダたちはフィデスの監視下に置かれたものの、その扱いは丁重で、きつく縛られることもなかった。
「メイドの二人を解放していただければ、私たちは捕虜になる覚悟です」
 ここはフィデスに取り成してもらうしかない。
「いいですよ、約束しましょう。でも、エルダさん、あなたは私の捕虜に・・・」
 フィデスがそう言ったとき、
「指揮官!」
「ベルネさん」
 カッセル守備隊のベルネが駆け付けてきた。すかさず月光軍団のナンリが剣を構えて立ち塞がる。
「お前はいつかの・・・」
 現れたのはナンリが剣を叩き落とされた相手だった。ベルネとナンリは睨み合った。
「この先だ」「早くしろ」
 間髪を入れず、四方八方から声が飛び交った。月光軍団の主力部隊が追い付いてきたのだ。真っ先に飛び込んできたのは部隊長のジュリナだ。すぐあとに続いて守備隊のリーナももつれ合うようにして突っ込んできた。
 あちこちで斬り合いが始まり、ナンリとベルネは激しく剣を打ち合わせた。
「うむう」
「ぐぐっ」
 負けるものかと意地を見せて押し合った。ナンリの剣がベルネの剣を受け止めた。手の合う相手に血が滾る。
 この日の戦いでベルネの鎧は肩口の辺りが破れ、胸当てのヒモも切れていた。何人もの敵を相手にして疲れが溜まっていたベルネは次第に押され始めた。ナンリが体当たりするとベルネはガックリ膝を付いた。
「うむ、無念」
 ピンチとみるやリーナが槍を振り回して間に入った。リーナはジュリナを引きずったままだ。
「放せ」
 リーナがジュリナを蹴り飛ばした。

 入り乱れての闘いになっては自分たちの出番はない。月光軍団のパテリアは身を屈めて逃げ出した。守備隊のお嬢様がいたので、「一緒に来て」と抱きかかえた。
 月光軍団の魔法使いカンナが目ざとくこれを見つけた。パテリアが敵を捕まえたのだが、それにしては何かおかしい。捕獲したというよりは守っているかのようだ。 
「こっちへ来なさい」
 カンナが強引にお嬢様を引っ張った。
「いやん、助けて」
 お嬢様は必死でパテリアにしがみつく。
「この人はメイドよ」
「パテリア、あんたどっちの味方してるの」
 カンナはパテリアを押し退け、「カミナリ攻撃」と叫んで魔術を繰り出した。
 バチッ、魔術で放たれた稲妻がお嬢様の足元に飛んだ。
「うわっ」
 お嬢様が感電した。
「お嬢様には手を出すな」
 カッセル守備隊のレイチェルが助けに入った。
「お前も串刺しだ」
 再び、カンナの指先から稲妻が走った。
 バチッ、ガン
 レイチェルが素手で弾いた稲妻が飛んでロッティーを掠めた。左の袖が黒く焦げている。
「熱っ・・・あたしは味方だよ、レイチェル」

後書き

未設定


作者:かおるこ
投稿日:2021/12/11 10:12
更新日:2021/12/11 10:12
『新編 辺境の物語 第一巻 カッセルとシュロス 前編』の著作権は、すべて作者 かおるこ様に属します。

前の話 目次 次の話

作品ID:2362
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