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作品ID:2365
「新編 辺境の物語 第一巻 カッセルとシュロス 前編」へ

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新編 辺境の物語 第一巻 カッセルとシュロス 前編

小説の属性:ライトノベル / 異世界ファンタジー / 激辛批評希望 / 初投稿・初心者 / 年齢制限なし / 完結

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【レイチェル変身】

前の話 目次 次の話

 カッセル守備隊、輸送隊の隊長カエデはエルダの指示に従い、ベルネたちを偵察に送り込んだ。レイチェルが変身して敵を攻撃した時に、ベルネとスターチは加勢をし、ロッティーは連絡要員として後方のカエデに合図を送る役割だ。

 ベルネとスターチは崖の中腹に隠れていた。二人のさらに後方にはロッティーも潜んでいる。三人とも、捕虜になったアリスやエルダが痛め付けられるのを黙って見ているしかなかった。
「副隊長補佐と指揮官はやられ放題だ」
 ベルネが小声で言った。
「戦場初体験のいい思い出になるだろうね」
「それも、生きて帰ればの話ね。死んだらあの世で思い出すだけだ」
「言えてる。ところで、レイチェルはどうなの、ベルネ」
「うーん、まだ変身しそうにない」
 指揮官のエルダの話では、レイチェルは攻撃を受けて身体が変化するということなのだが、一向にその気配が見られなかった。
「本当に変身するのかな」

 そこへ月光軍団の副隊長フィデスと部下のナンリが姿を現した。トリルやパテリアたちも心配そうに後に続いている。
 フィデスが背中を摩ると、エルダはうっすらと目を開け「うう」とだけ言った。
 戦いの最中、エルダを独り占めしようと捕らえたのだが、その時は逃げられてしまった。間近で見た美しいエルダに心を惹かれた。それだけに、こうして縛られている姿を見るのは忍びなかった。
 レイチェルという隊員のことも気の毒に思った。
「その子はどうなの、確か見習い隊員でしたね」
 ナンリに尋ねた。
「レイチェルはジュリナの剣をへし折ったと聞いています。頑健な身体を見込まれて捕虜にされたのでしょう」
 殴られるのを覚悟で捕虜になったのだろう。だが、剣を折るほどの肉体にしては、気絶しているのか倒れ込んでピクリとも動かない。
 トリルは自分と同じような年恰好のレイチェルが心配だった。
「ナンリさん、この人だけでも助けてあげて」
「そうだな、捕虜は二人で十分だ」
 ナンリが思案していると、部隊長のジュリナが隊長の命令を伝えにきた。
「コイツは殺す。連れ帰っても役に立ちそうにないし、見習い隊員は生かしておくのはムダね」
「殺すのはかわいそうだ。せめて、どこかに転がしておくだけにしてもらえないですか」
「あたしの剣を折った張本人よ。許せない」
 ジュリナが「今度は一撃で仕留める」と、槍を構えた。

「ヤバい、槍だ」
 ベルネたちは、月光軍団の若い隊員がレイチェルを気遣っているように見えたので安堵していたのだが、それもつかの間、別の隊員から槍が向けられた。
「ロッティー、後は頼む」
 ベルネとスターチはロッティーに後を託して崖を下りていった。

 新しいイキのいい捕虜が手に入ってスワン・フロイジアは笑いが止まらなかった。しかも戦闘員の兵士である。これで守備隊に残っているのは見習い隊員など数人だけになったはずだ。
 髪を掴んでベルネを引き回し、スターチを押さえ付けて蹴りを放つ。ジュリナ、ラビン、魔法使いのカンナまでもが加わって叩きのめした。
「さあ、勝利の祝いに焼肉パーティーをしよう。お前にはコレを食わせてやる」
 ジュリナはカエルを捕まえて引きちぎり、大木に縛り上げたベルネの口に押し込んだ。
「うぐ・・・ゴクン」
 ベルネはカエルの足を飲み込んだ。

「ベルネ、あんた何で縛られてるの。カッセルに帰ったらお嬢様を縛るんじゃなかったっけ」
「だからさ、どうやって縛るのか身をもって体験しているわけよ。何事も勉強だ」
「バカでも勉強するんだね」
「そういうスターチだって、身体に縄が巻き付いているように見えるけど。それって気のせい? 」
「気のせいだったらいいんだけど、マジで縛られているのよ。これじゃあ、手も足も動かせない」
「口だけは達者だね」
 月光軍団のテントの方から肉を焼くいい匂いが漂ってきた。
「焼き肉、食いたい・・・うげっ、お腹でカエルが踊ってる」
      *****
 これで月光軍団の取り調べが終わったわけではなかった。指揮官のエルダには、さらに厳しいお仕置きが待っていた。
 月光軍団の隊長スワン・フロイジアがエルダの顔を小突いた。
「ちょっとした余興を楽しむとしましょう、主役はエルダ、お前だよ」
 参謀のコーリアスはエルダの両手を縛り、その縄を木の枝に掛けた。ミレイが縄の先端を引くとエルダの身体が徐々に持ち上がった。ジュリナがエルダを吊っている縄の端を引っ張った。
「ぐわっ・・・ぎひぃ」
 足が地面を離れた。宙吊りだ。指揮官のエルダは木の枝にぶら下がった。
 手首と肩に体重が掛かった。
 これはキツイ。
 エルダが縄を掴んで握りしめると木の枝が揺れた。
「いたぁぁぁ」
 顔を歪め、身体を捩って痛みに耐えるエルダ。しかし、本当の地獄はこれからだった。
 エルダの足の間に縄が回された。左右の膝を縛られ、その縄の先端はエルダの手首に繋がっている。参謀のコーリアスが縄の位置をしっかり固定した。
「エルダ、頑張らないと、ますます痛くなるんだよ」
「そんな、あっ、痛いぃぃぃ、ぎゃうっ」
 エルダが獣のような悲鳴を上げた。膝を縛っている縄が痛くて足をバタつかせる。だが、手首に縄が絡んでいるので、のけ反れば自らを苦しめるだけだった。
「あっ、ああ・・・助けてっ、助け・・・ああん」
 もはや悲鳴というよりは泣き声に近くなった。エルダは痛みを堪えてのたうち回るしかない。
 エルダは歯を食いしばり目を見開いて首を振った。
 フィデスと視線が交わった。
「あ、あ、助けてっ、フィ・・・デス・・・ああっ」

 フィデスに助けを求めている・・・
 しかし、フィデスはエルダが苦しむ姿に見入っていた。宙吊りでがんじがらめに縛られたエルダ。月の光に照らされて身悶えするエルダ。その姿はこの世の物とは思えぬほど美しい。

 エルダは背中を反らせ懸命に堪えた。太ももがブルブルと震える。少しでも楽になりたいともがくのだった。そして、手首に掛かった縄を握って腰を突き出すように身体を反らした。縄が膝や太ももに食い込んだ・・・
「だあっ、うぎゃあ」
 ミシッ
 木の枝が撓み、エルダの身体が垂れ下がって足の裏が地面に着いた。少しだけ楽になった。
 ホッとしたのも束の間、月光軍団の隊長のスワン・フロイジアがエルダに近づいた。
「気分はどうかしら」
「ダ、ダメ・・・もう、いやです」
「降参すればやめてあげるわよ」
 カッセル守備隊を降伏させるのだ。勝利を確実にするため、指揮官のエルダに「降参」と言わせたい。
「エルダ、降参しなさい。それとも、もう一度この縄を引っ張ろうか」
 スワンは縄の先端を揺すった。
 足が地面に付いて、やっと楽になった思ったら、エルダはまた吊り上げられそうになった。
 もう耐えられない。
「はあ、こう、さんですっ」
 カッセル守備隊指揮官のエルダは、襲い来る痛みから逃れるために降参と口走った。
「聞こえない、もっと大きな声で言いなさい」
「こ、降、参です。降参するったらぁ、助けてっ」
「助けて欲しいのか」
「誰か、助けてぇ、ああ、レ、レイチェル、早く、早くっ」
 レイチェルが変身するはずだった。エルダは藁にも縋る思いでレイチェルの名前を叫んだ。
「無理だよ、レイチェルは気絶して動かない」
「いやぁぁぁ、助けてぇ」
 スワンが引っ張ったので、手首に縄が絡みつきギュンギュンと締め付けてきた。
 腕が肩からはずれそうになった。次第に足の感覚も麻痺してきた。
「あうっ、ああ、降参・・・です」
 エルダはか細い声で降参と言い、そして、四肢を震わせビクンと痙攣して首を垂れた。

 カッセル守備隊の指揮官エルダが降参した。
 カッセル守備隊が全面降伏したのだった。

 月光軍団の隊長スワン・フロイジアはエルダを睨み付けた。
 この女はエルダではない・・・ビビアン・ローラだ。ローラを叩き潰し復讐を果たす時がきたのだ。
 バシン
 隊長のスワンがエルダの頬を平手で叩いた。
「ウグッ・・・」
 エルダの身体がズルリと垂れた。
 宙吊り、降参、気絶・・・あまりにも惨めなエルダの最後だった。
 参謀のコーリアスが小刀でエルダの髪の毛をバッサリ切り落とし地面にまき散らした。
「カッセル守備隊は降伏した! 私たちの大勝利だ」
 シュロス月光軍団の隊員からオオーッという雄叫びが上がった。

 スワンやコーリアスたちが去ったあとで、副隊長のフィデス・ステンマルクはエルダに近寄った。少しでも楽な姿勢にしてあげたい。ナンリも手を貸して縄を緩め、ゆっくりと地面に横たえた。
 エルダは両腕が伸び切って、腰は緩み、両脚はだらしなく広がっている。だらりと弛緩した肉体だ。髪の毛は首筋の辺りで短く切られていた。
「ここまでしなくてもいいのに」
 白目を剥き、口から涎を垂らしたエルダを見てナンリがため息をついた。

 木の陰に身を隠していたロッティーは呆然とするだけだった。
 エルダが暴行され、木に吊るされ、平手打ちで失神した。エルダの悲鳴がロッティーのいる所まで届いた。
 そして、ついには降伏を認めてしまったのだ。
 しかし、エルダを助けようとは思わなかった。
 エルダが現れてから悪いことばかり起きている。地下牢で倒れているのを助けてやったのは他ならぬ自分だ。それなのにいつの間にか立場が逆転してしまい、すっかり頭が上がらなくなった。追放しようとして失敗したあげく、とばっちりを受けて戦場に置き去りになった。それもこれも、すべてエルダのせいだ。
 だから、宙吊りの刑になったエルダを見ているのは快感でさえあった。自分の代わりに月光軍団がエルダに報復してくれたようなものだ。
 さて、どうしよう・・・
 レイチェルが変身して敵を倒す作戦ではなかったのか。それなのに何も起こらない。エルダは降伏し、ベルネとスターチまでもが捕虜になった。これでこの部隊は全滅したも同然だ。連絡要員の任務も必要なくなった。ここで見たことを伝えれば、後方の部隊のカエデたちも諦めて城砦に退却するだろう。カッセルの城砦に戻って、エルダが捕虜になったことを報告するとしよう。うまくいけば復職できるかもしれない。
 エルダを見捨てることにした。
 逃げろ、早くこの場を立ち去れ・・・
 しかし、ロッティーは足がすくんで動けなかった。音を立てて敵に見つかったら捕虜にされ、エルダのように殴られてしまうだろう。
 やむを得ず、もう少し待つことにした。月光軍団が撤収作業を始めるまで待ってもいいのではないか。
 月が雲に隠れて闇が深くなった。ロッティーも闇に包まれた。
      *****
 捕虜に対する処分が執行されようとしていた。指揮官、副隊長補佐、戦闘員の兵士を捕虜にしたので、見習い隊員のレイチェルには用がなくなったのだ。
 ジュリナとキューブがレイチェルの髪を掴んだ。腕を取って連れ去ろうとするのをフィデス・ステンマルクが引き留めた。
「せめて、ここに置いていきましょうよ」
「隊長の命令なんだ、殺すと決まったの」
 そう言われてはこれ以上の命乞いはできそうにない。
「助けられなくて、ごめんね」
 フィデスが身体を揺するとレイチェルが目を開けた。
「の・・・のむ」
 レイチェルが飲みたいと言ったのでナンリが水筒の水を飲ませようとした。しかし、レイチェルは首を横に振った。
「ち、ちが・・・」
「違うの? 水じゃないの」
「ちが・・・血が、血が飲みたい」
「血・・・」
 血が飲みたいと言ったように聞こえた。気の毒なことに、レイチェルはさんざん殴られたので頭がおかしくなってしまったのだ。
「そろそろ片付けるわ・・・キューブ、崖から突き落としてきなさい」
 ジュリナが指示を出した。自らの手で命を奪うのはさすがに気が咎めたので部下のキューブに処刑の役を押し付けた。

 レイチェルを立たせたとき、服がはだけて胸のペンダントが飛び出した。赤や青のキラキラする石が埋め込まれていた。フィデスはそのペンダントだけでも回収し、形見としてカッセルの城砦に届けてあげられないかと思った。

 キューブはレイチェルを引きずって崖の際まで来た。下を覗くと風が舞い上がった、地獄からの風だ。この場所から突き落とすと決めた。
 だが、そこで思い直した。崖から突き落としただけでは死ぬとは限らない。首を絞めて止めを刺し、それから谷底へ投げ捨てることにした。レイチェルを仰向けにして胸に跨った。すでにレイチェルはグッタリして動かない。殺すのは容易なことだ。
 キューブは首に手を掛けた。
「楽にしてあげる」
 首を絞め上げた・・・
「うっ」
 キューブの左手に激痛が走った。最後の抵抗をしようというのか、レイチェルが腕を掴んできたのだ。
「ギャッ」
 激痛が走った。爪が皮膚に食い込んでいる。
 それは人間の指の先とは思えなかった。黒光りした尖った爪がキューブの腕を掴んでいるではないか。指先だけではない、レイチェルの手首や腕が不気味に黒く輝いている。人の肌とは思えない金属質に変化していたのだ。
「あひ、あ、ギャアア」
 皮膚が裂け左手が血に染まり、骨がミシミシと音を立てた。しかし、ガッチリと掴まれているので身動きがとれない。
 肉が切れて血が吹き出した。

「グフフ」
 レイチェルが笑った。
 変身するには人間の血が欠かせない。目の前に格好の餌があった。
 この女の血を吸い尽くす・・・
「ふふっ、あなたの血が飲みたい」

 ズズッ
 その時・・・夜の闇を纏って、さらに黒い影が湧き出てきた。
 崖の下から地下世界のニーベルが出現したのだ。

 ニーベルの情念を込めた波動がレイチェルに襲いかかった。
 黒づくめの騎士ニーベルの発する圧力を受けて、レイチェルの身体の変化のスピードが速さを増した。
 腕が、肩が、そして背中が黒い金属質に変っていく。自分の身体であるのに、レイチェルにも変身を止められなくなっていた。

 バサバサッ
 背中を覆うように翼が広がった。
 いまや変身は首筋から顔にまで及ぼうとしている。
 身体だけではない・・・心までもが黒く染まっていくのだった。
 変身には大量のエネルギーが必要だ。
 目の前には獲物がいる。レイチェルはキューブの首筋に齧りつき、鋭い牙を食い込ませた。
 
「ついに変身したな、レイチェル・・・」
 レイチェルにエネルギーを使わせて変身させ、その体力を奪ってこの世から葬り去る。それが地下世界の末裔ニーベルに与えられた使命だった。
 だがしかし、レイチェルは捕らえた人間の血を吸ってニーベルよりも大きく変身している。
 そして、恐ろしく醜い・・・
「ううむ」
 レイチェルが発する衝撃波がニーベルを襲った。
 ニーベルは身体が痺れ、思わず後ろへ下がった。

 バサバサッ
 レイチェルが、いや、怪物が飛び上がり漆黒の闇に消えた・・・

後書き

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作者:かおるこ
投稿日:2021/12/11 14:08
更新日:2021/12/11 14:08
『新編 辺境の物語 第一巻 カッセルとシュロス 前編』の著作権は、すべて作者 かおるこ様に属します。

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作品ID:2365
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