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てがみ屋と水を運ぶ村
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
第四話(再編集版)
前の話 | 目次 | 次の話 |
集落が見えなくなったころ、真行は自分のファミリアバードの速度を落とした。
ソラもそれに倣う。そうすると、目の前に無言で手紙が差し出された。
ソラは俯いていたが、顔を上げて真行から手紙を受け取る。
「あ、ありがと……。怪我ない?」
「無い。よっぽど普段のお前からの暴力が身にこたえてんだけど」
淡々とした声音でソラに嫌味を言ってくる。ソラは無視して少し曲がった手紙に目を落とした。
「あ……ちょっと曲がっちまったかも。わりいな」
そう言ってファミリアバードの大きな頭に顎を乗せて小さく嘆息を漏らす。
ソラは手紙の全文にさっと目を通した。
あけられた汚い手紙は届けるあても無いので見てしまうことにしている――でも破ることは決してしない。
真行から「おいおい信書三原則はどうした」と声がかかったが、首を振ってその声を振り払った。喉の奥が熱い。何でこんなものが、あたしたちのところに、と出かかった言葉を飲み込む。
「政府がなにやろうとしてるか知ってる?」
倦怠感まるだしの表情で真行はこちらを見た。
「何で俺に訊く?」
「だってあんた、もともと政府の役人でしょ?」
真行は昔、政府の役人だった。初めててがみ屋――そのときはまだ郵便局であったが――にやってきたとき、真行は「俺は元政府の役人だ」と開口一番、名乗った。政府の悪政は酷く、政府の元役人だと名乗るだけで国民の怒りを煽るはずであるのに、彼はソラの前で、局長の前ではっきりと言い切った。
それはすなわち、駄目ならさっさと追い出せ、ということ。
局長は迷った挙句、あいつなら大丈夫そうだ、と郵便局員の仲間に入れた。
もともとあった正しい政府が潰れたのはそれからすぐである。
国はそれまで、自分たちでまかなうことができないお金を、外国から借りて政治を行っていた。その借金は増えていく一方だった。
そして、二〇一三年になって資源が急に無くなった。
溜め込んでいた借金を返済しきれず、財政破綻して、外国から買う食糧が無くなったせいだった。もともとこの国は面積が小さく、土地も肥えていなかったため、なかなか食料が入手できなかった。今までは外国から輸入して、補っていた。
その生命線が、ぷつり、と切れてしまった。
食料は足りず、価値はぐんぐん上がった。
それを一般の人間が買えるはずも無く、貧しい人間は死んでいき、少しお金のある人間は、土地を買って、自給自足生活を始めた。貧しくも金持ちでもなかった一般人は何人かで集まり、自分たちの全財産を売り払って、みんなで土地を買い、村を作った。
政府は、国民の貧しい生活をどうにかしようとした。そして、何とかしてお金を作ろうと試行錯誤しているうちに、公務員の給料を削減する、という考えに至った。
今までもらえていた給料がもらえない、その貧しさに耐え切れなかった公務員たちがストライキを起こした。
国の機関はもう動かなくなった。
お金も無い。
もはや名ばかりになった政府を、力のある金持ちたちが武器を買い、力づくでのっとった。
民主政治が終わった。
彼らはめちゃくちゃな政策を始めた。自己中心的な、醜い政治を。
そのひとつが「子供狩り」である。
まだ、幼く、考え方もしっかりしていない子供を無理やり教育し、政府の役人にしてしまおう、という政策である。要するに人員が足りない政府が子供たちを洗脳し、仲間に入れようとしたのだ。
真行もその「子供狩り」によって役人になったらしい。
政府は正しくは金持ちたちの手によって、まだ存在している。だがもう政府の役割を果たしていない。政府は自分たちのために金を集めているのだ。もう殆ど無い食料を買うために。
国民のことなんて少しも考えてはいないのだ。
だから、みんな政府は潰れた、と言う。
ソラはごめん、と真行に頭を下げた。
「知るわけないよね。そうだよね。地獄からの手紙って――一体何のためにあるのかなんて」
すごく悔しかった。自分の手元にあるのは局長から聞いていた「地獄からの手紙」であった。
『拝啓
惑星崩壊に向け連日の猛暑でございますが、いかがお過ごしでしょうか。
私たちの勤める政府も、この星と同じように崩壊寸前になっております。
早速ですが、貴方はこの壊れかけた世界を救う、使者《メッセンジャー》に選ばれました。私たちはこれから貴方が一生、世界中の皆様に資源を提供することのみを考え、生活していただくことを望みます。使者になることに同意された方は、同封されているステッカーを右手の甲に貼り付けてください。貼り付けの際には必ず激痛を伴うのでご注意ください。また、ステッカーは二度と外す事が出来ませんので、自身の生命尽きる時まで世界の方々に尽力する事をご了承下さい。
なお、質問・返品には一切応じられません。使者になりたくないという方は、必ずほかの方に送付するようにお願い致します。
貴方様のご健康と、一生の不幸せをお祈り申し上げます。
敬具
二千三十年 三月二十一日
政府役人一同』
「こんなの……ありえないって」
使者になった者は、トンネルを作るときに、体が張り裂けるほどの痛みを感じるという。
しかも、人間に存在が知られてしまえば一日中、資源を出さなければいけないことになるだろう。資源がほしい者はこの世にたくさんいる。精神、身体的にも疲れきってしまう。それに、ステッカーは一度貼ったら、もう二度と外れないのだ。
死ぬまで人間の道具になる。これが、地獄からの手紙、そして、政府の考え。
「律儀に変な敬語なんて使っちゃってさ、敬語になってないっつの。こんな手紙、ありえないから。ありえないから――手紙は何のためにあると思ってんのよ、政府は」
殴り書きのような汚い文字で、そしてボロボロの紙っ切れに書かれた文面は、酷いものだった。
ソラもそれに倣う。そうすると、目の前に無言で手紙が差し出された。
ソラは俯いていたが、顔を上げて真行から手紙を受け取る。
「あ、ありがと……。怪我ない?」
「無い。よっぽど普段のお前からの暴力が身にこたえてんだけど」
淡々とした声音でソラに嫌味を言ってくる。ソラは無視して少し曲がった手紙に目を落とした。
「あ……ちょっと曲がっちまったかも。わりいな」
そう言ってファミリアバードの大きな頭に顎を乗せて小さく嘆息を漏らす。
ソラは手紙の全文にさっと目を通した。
あけられた汚い手紙は届けるあても無いので見てしまうことにしている――でも破ることは決してしない。
真行から「おいおい信書三原則はどうした」と声がかかったが、首を振ってその声を振り払った。喉の奥が熱い。何でこんなものが、あたしたちのところに、と出かかった言葉を飲み込む。
「政府がなにやろうとしてるか知ってる?」
倦怠感まるだしの表情で真行はこちらを見た。
「何で俺に訊く?」
「だってあんた、もともと政府の役人でしょ?」
真行は昔、政府の役人だった。初めててがみ屋――そのときはまだ郵便局であったが――にやってきたとき、真行は「俺は元政府の役人だ」と開口一番、名乗った。政府の悪政は酷く、政府の元役人だと名乗るだけで国民の怒りを煽るはずであるのに、彼はソラの前で、局長の前ではっきりと言い切った。
それはすなわち、駄目ならさっさと追い出せ、ということ。
局長は迷った挙句、あいつなら大丈夫そうだ、と郵便局員の仲間に入れた。
もともとあった正しい政府が潰れたのはそれからすぐである。
国はそれまで、自分たちでまかなうことができないお金を、外国から借りて政治を行っていた。その借金は増えていく一方だった。
そして、二〇一三年になって資源が急に無くなった。
溜め込んでいた借金を返済しきれず、財政破綻して、外国から買う食糧が無くなったせいだった。もともとこの国は面積が小さく、土地も肥えていなかったため、なかなか食料が入手できなかった。今までは外国から輸入して、補っていた。
その生命線が、ぷつり、と切れてしまった。
食料は足りず、価値はぐんぐん上がった。
それを一般の人間が買えるはずも無く、貧しい人間は死んでいき、少しお金のある人間は、土地を買って、自給自足生活を始めた。貧しくも金持ちでもなかった一般人は何人かで集まり、自分たちの全財産を売り払って、みんなで土地を買い、村を作った。
政府は、国民の貧しい生活をどうにかしようとした。そして、何とかしてお金を作ろうと試行錯誤しているうちに、公務員の給料を削減する、という考えに至った。
今までもらえていた給料がもらえない、その貧しさに耐え切れなかった公務員たちがストライキを起こした。
国の機関はもう動かなくなった。
お金も無い。
もはや名ばかりになった政府を、力のある金持ちたちが武器を買い、力づくでのっとった。
民主政治が終わった。
彼らはめちゃくちゃな政策を始めた。自己中心的な、醜い政治を。
そのひとつが「子供狩り」である。
まだ、幼く、考え方もしっかりしていない子供を無理やり教育し、政府の役人にしてしまおう、という政策である。要するに人員が足りない政府が子供たちを洗脳し、仲間に入れようとしたのだ。
真行もその「子供狩り」によって役人になったらしい。
政府は正しくは金持ちたちの手によって、まだ存在している。だがもう政府の役割を果たしていない。政府は自分たちのために金を集めているのだ。もう殆ど無い食料を買うために。
国民のことなんて少しも考えてはいないのだ。
だから、みんな政府は潰れた、と言う。
ソラはごめん、と真行に頭を下げた。
「知るわけないよね。そうだよね。地獄からの手紙って――一体何のためにあるのかなんて」
すごく悔しかった。自分の手元にあるのは局長から聞いていた「地獄からの手紙」であった。
『拝啓
惑星崩壊に向け連日の猛暑でございますが、いかがお過ごしでしょうか。
私たちの勤める政府も、この星と同じように崩壊寸前になっております。
早速ですが、貴方はこの壊れかけた世界を救う、使者《メッセンジャー》に選ばれました。私たちはこれから貴方が一生、世界中の皆様に資源を提供することのみを考え、生活していただくことを望みます。使者になることに同意された方は、同封されているステッカーを右手の甲に貼り付けてください。貼り付けの際には必ず激痛を伴うのでご注意ください。また、ステッカーは二度と外す事が出来ませんので、自身の生命尽きる時まで世界の方々に尽力する事をご了承下さい。
なお、質問・返品には一切応じられません。使者になりたくないという方は、必ずほかの方に送付するようにお願い致します。
貴方様のご健康と、一生の不幸せをお祈り申し上げます。
敬具
二千三十年 三月二十一日
政府役人一同』
「こんなの……ありえないって」
使者になった者は、トンネルを作るときに、体が張り裂けるほどの痛みを感じるという。
しかも、人間に存在が知られてしまえば一日中、資源を出さなければいけないことになるだろう。資源がほしい者はこの世にたくさんいる。精神、身体的にも疲れきってしまう。それに、ステッカーは一度貼ったら、もう二度と外れないのだ。
死ぬまで人間の道具になる。これが、地獄からの手紙、そして、政府の考え。
「律儀に変な敬語なんて使っちゃってさ、敬語になってないっつの。こんな手紙、ありえないから。ありえないから――手紙は何のためにあると思ってんのよ、政府は」
殴り書きのような汚い文字で、そしてボロボロの紙っ切れに書かれた文面は、酷いものだった。
後書き
作者:赤坂南 |
投稿日:2010/08/02 22:11 更新日:2010/11/07 21:48 『てがみ屋と水を運ぶ村』の著作権は、すべて作者 赤坂南様に属します。 |
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