作品ID:762
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欠片の謳 本当の欠片の謳
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
始まりは絶望の悲鳴で
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「た、助けてくれ…」
男の顔が恐怖で歪む。顔は殴られた後で醜く腫れ上がり、原型を留めておらず、服は泥だらけで汚れている。ひぃひぃ悲鳴を上げている男を見下げているのは10代前半の若者3名。どれも手に鉄パイプや金属バットなどを持っている。その得物には全て微量の血がついていた。
「か、金ならやる。だから、命だけは…」
「俺たちは生きるためにお前を殺す。命乞いなんて、聞くと思ってんのか?」
「なっ…」
「死ねよ、このまま。今、楽にしてやる…」
得物を振り上げる若者たち。その顔に、迷いや躊躇いは一切ない。何処か達観してさえみえた。男は逃げようとした。が。
「ぎゃああああああああ!!!!!」
断末魔が聞こえた。その後には、静寂以外誰もいなかった。これが、この街の日常。生きるために殺す、そんな戦場じみた常識が蔓延る街。人はいつしか、この街を、「世の果て」と呼ぶようになった。
「ふぁぁ?…ったく眠ぃよな?」
「俺に言うなや俺に」
どこにである高校の一室。よくある教室の風景に、机と椅子の役目がひっくり返っている場所がある。そこでだらけている男子生徒二人。片方はツンツン頭に目付きの悪い男子生徒。着崩れした制服と、手で遊ばせている拳銃。片方は顔立ちが中世的で、優しそうな顔としっかり着こなしている制服。目付きの悪い方が栗生時哉(くりゅうときや)、中性的な顔の方が粟生野拓也(あおのたくや)という。
「な?、聞いたか? また殺されたってよ? 今度は中年のおっさんだと」
「最近多いよな? 『野良』の連中、見境なく襲い始めてねえかな?」
「同感だ。前はもっと年齢層の低い連中狙ってたはずだろ?」
彼らが話しているのは、最近巷を騒がせている事件のことだ。そもそもこの街は人殺しなど珍しくもない。茶飯事のことだ。治安がとんでもなく悪いこの街は、自分の身は自分で守るのが当たり前。そしてそこまで治安を悪くする原因は、『野良』という連中の仕業。『野良』とは通称で、本当はスラム街に住んでいる社会不適合者の総称である。こいつらは社会に溶け込まず、自分たちで好き勝手やり放題やっている連中。この街は常にこの『野良』と、自警団が衝突している。国は、もう『野良』を殺そうが何をしようが、特例で全て無罪になっている。そこまでそういう無法者なのである。最早、人として扱ってすらいない。死んでいればそれは単なるゴミである。
「しっかしまあ、今日も学校に忍び込んだ『野良』殺したけどよ。ほんと、あいつら気持ち悪いわ」
「…」
時哉がうざそうにそれを話す。拓也はそれを何だか難しい顔で聞いている。時哉はふっ、と笑った。
「だからさ、粟生野。お前難しく考えすぎ。『野良』は人間じゃねえの。クズなの。分かっているかお前? だから毎度毎度襲われたり巻き込まれるんだよ」
「そうだけど…」
「お前んとこにいるメイドさんは確か元『野良』かもしんねえけど。もうその人はこっち側だぜ? お前がいる限りあっち側に戻ることはありえねえって」
時哉が言っているのは、最近拓也の家に住み着いている元『野良』の少女のことだ。彼女は、拓也の説得により社会復帰したと時哉は聞いている。名前は、眞由と言うらしい。一度あったがすごく可愛らしい女の子だった。
「眞由もそうだったけど…。複雑なんだよ」
「お前甘すぎですよ。何でそんなにあんなゴミ共に情けするかね」
「…。というか、前にもいったが眞由はメイド違う」
「彼女か? いいねえ『野良』出身でも、もうそんな面影ねえしな。彼女にするなら最高だ」
「…」
時哉がくっくと笑いながら指摘して、拓也は少し頬を朱に染める。それからあわあわと言い訳を始める。
「まあいいや。今日は授業終わりだろ? 解散しよーぜ」
「…お前、明日覚えてろ」
「勝てるんならな? まあいいや。じゃあな粟生野」
「じゃあな栗生」
時哉は立ち上がると、拳銃をホルスターに乱雑に入れて、すたすたと歩きいて教室を後にした。
後書き
作者:FreeSpace |
投稿日:2011/06/12 12:03 更新日:2011/06/12 12:03 『欠片の謳 本当の欠片の謳』の著作権は、すべて作者 FreeSpace様に属します。 |
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