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作品ID:781
「欠片の謳 本当の欠片の謳」へ

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欠片の謳 本当の欠片の謳

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中

前書き・紹介


鎖に繋がれた謳

前の話 目次







「―――!」



 その日の真夜中、霞夜は自室で飛び起きた。慌てて周りを確認、自室と分かって安堵した。周りを確認したのは、敵対者がいないかどうか調べるため。咄嗟とはいえ、昔のクセが抜けていない自分が情けない。



「……夢、でしたか…」



 彼女の呟きは、虚空に静かに消えた。何を見えていたかは覚えていない。ただ、悪夢だった。間違いなく自分を苦しめる夢。多分、昔の夢だろうと推測した。



「……?」



 自分の頬に手を当てた。熱い。熱い湿り気を感じた。これは、この感覚は。



「泣いている…?」



 何処か他人事のように、霞夜は呟いた。なぜ泣いているのか分からなかった。私は、一体何の夢を見ていたんだろう…?



「……」



 再び眠ることが怖かった。急に襲い掛かる不安感、恐怖感、焦燥感。胸を締め付ける、鈍い痛み。己の服を痛いほど握る。それが眠るな、このままでいろ、苦しめと囁くように霞夜を蹂躙する。



「……時哉、助けて……」



 思わず時哉の名を呟いた。こんなとき、彼なら助けてくれるだろう。でも、今は時哉を頼るべきじゃない。また、借りが増えてしまう。時哉を心配させてしまう。苦しめてしまう。ここは、自分で何とかしなきゃ――



「大丈夫か霞夜?」

「!?」



 すぐ近くからありえない声が聞こえた。反射的に身を小さくしてベットに潜り込む。誰かいる! 時哉の声をした、誰かがこの部屋に侵入している。



「……お前な、何で隠れてる? 『野良』は誰もいねえぞ。俺だ、時哉だ」



 布団の中で、時哉の呆れた声が聞こえた。霞夜は混乱した。何で時哉が、こんな真夜中に私の部屋にいる!? これは私の妄想!? ご都合主義にも程がある! と思った。怖いので、布団の中から聞き返す。



「時哉。真夜中に何の用ですか。夜這いですか。殺しますよ」

「こええこと言うな!」



 時哉の叫び声が返ってきた。大丈夫、本人だ、と安心する霞夜。冷静になって更に問い詰める。



「じゃあ何ですか? 襲い掛かるつもりなら頭部が無くなると思ってください」

「違う! 夜這いから離れろロリ娘!」



 さらっと禁句を言った。怒りが沸点に到達。霞夜が本当に小さい声でぼそりと、一言。



「学校行ったら襲われたって言ってあげます」

「ごめんなさい」



 ばっちり聞こえていたらしい、時哉の謝罪がコンマ一秒飛んできた。本物と分かったのでもそもそと布団から顔だけ出す。暗がりの向こう、入り口近くの壁に、寄り掛かる時哉の姿を発見した。



「何の用ですか? 私の部屋に夜中に入るなんて言語道断。死刑に値します」

「しねえよ。お前の呻き声が俺の部屋にまで聞こえたから心配してきてやったんだろうが」

「私の、呻き声?」



 時哉の部屋はふたつ部屋を挟んだ向こう側。土壁を介して聞こえるわけがない。それは呻き声レベルでは済まないのでないだろうか。



「っつか叫び声、だな。すげえ悲鳴みてえに聞こえた」



 時哉の説明によると、トイレに行こうと思い、起きたら霞夜の声が小さく聞こえたという。心配になって武器を持って様子を見に来たらしい。



「で、来たらお前が呻いてるからそのまま様子を見てた、って訳」

「……様子を、そのまま見ていた?」



 霞夜の顔から血の気が引く。まさか、まさか、あの呟きを聞かれた? ヨリによって、時哉本人に…?



「時哉、まさか貴方。先程の――」

「助けて、か? ばっちり聞いてた」

「――――!!!!」



 ばすっと、また潜った。顔が熱い。恥ずかしい。何で、何で聞かれてしまった。なんですぐに気付かなかった。なんでそんなことを言ってしまった。全部自分の落ち度だ。



「霞夜? まだ昔のことを夢でみたのか?」



 潜ったことを指摘せず、彼は静かに聞いた。霞夜は、正直答えることにした。



「分かりません。覚えて、ないんです」

「そうか」



 彼は納得したようにいい、とんでもないことを言い出した。



「なんなら、添い寝してやるか?」

「なっ―――」



 なんてことを言い出すのだ。私はいくら元『野良』でも女なのに! 時哉は男の子なのに! きゃあああああああ! 霞夜は完全に頭が真っ白になってしまった。これは、これはチャンスですか!? 一種のチャンスなのですか神よ!



「……なんて冗談」

「お願いします! 是非!」

「――――はっ?」



 時哉としてはいつもの軽口だったつもりだったのだが。霞夜がすごい勢いで飛び起きて、すごい速さで駆け寄り、目の前で止まった。その時間、一秒以内。



「……お、おぅ」



 霞夜が何だか潤んだ目で見上げられたことで、時哉は不覚にもどきっとした。そして取り返しの付かないことを言った。後悔したのはその後のことであった。

後書き


作者:FreeSpace
投稿日:2011/06/22 14:29
更新日:2011/06/22 14:29
『欠片の謳 本当の欠片の謳』の著作権は、すべて作者 FreeSpace様に属します。

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