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Reptilia ?虫篭の少女達?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
第一章 日常に生きる少女 11
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街灯。
看板。
電柱。
どこかのビルの階段。
ネオンの影。
人の頭。
屋根。
嬌声めいた笑い声。
路地裏に響く悲鳴と怒声。
詩の朗読。
六本の弦の音色。
単車の排気。
パトカーのランプ。
拡声器による、電波に似た演説。
夜の瞬き。
夜空の清廉さ。
サキは何も考えず、視界に映るそれら全ての間を駆け抜けていた。
飛び、跳ね、転がり、掴み、また駆ける。
虫篭の空を横切る彼女を、時々、何人かの人間が見上げた。しかし、サキは決してそちらを見降ろさなかった。何にも囚われたくなかった。
そうして走っている間に、自分の住処へと着いた。商店街から程近い、雑居ビルの連なりの一角の屋上だった。そのビルは現在使われておらず、知らない者が昇って来る心配も無い。立地としては、他の場所から光が届かず、夜は照らされなかったので気に入っていた。
体はヒートアップしていて、纏わりつく熱い空気に汗が吹き出ていたが、時々、流れてくる潮風は涼しかった。
フェンスに接するように建つ、バラックとビニールシートを接ぎ合わせて造った小汚い小屋がサキのねぐらであった。扉代わりのシートを開けて入ると、空気がむっとしていた。バッテリーに繋いだ扇風機を稼働させ、服を脱ぐ。汗で濡れた肌に、風が心地いい。
拾ってきた革製のソファーがベッドの代わりである。その傍らに立てかけられた鏡をサキは見た。
髪の短い、不機嫌な女がいる。睨むようにしてこちらを見ていた。
これが自分だなんて、毎度嫌になる。
くたくたに疲れて、サキはソファーへと沈んだ。瞼を閉じて、体を重力に任せる。脳内では今日の出来事が反芻される。
そう、今日は濃厚な一日だった。
チンピラ三人とヤクザ一人を狩った。
金が手に入った。
鬱陶しかった髪も切った。
先生と弁当を食べ。
不機嫌な早河と会った。そういえば、新人の刑事がいた。
夜は一弥に金を支払い。
そして、真澄の所に行った。
殴られていた彼女を助けたのに、帰れと言われた。
一緒にいたかったのに、なんで……。
サキはぼんやりと瞳を開けて、もう一度、鏡を見た。短くなった髪を一度、手で梳き上げる。軽い感触。放るように手を下ろして、鏡を引き寄せた。
後ろの首筋、うなじの辺りに、それはある。
『C-7』。
バーコードに似た記号。刺青と呼べるかもしれない。物心ついた時からある。
バケモノの刻印。
つまりは、強化人間の証明。
人ではない、という事の証拠。
それにそっと触れてみる。手触りに違和感はない。サキはもう一度、眼を閉じた。
皆、わたしを恐れている。わたしが、人間ではないからだ。
好かれようなどとは思っていない。思っていたら、とっくに屋上なんかでは暮らしていない。ただ、時々、空虚に感じることがある。なぜだろう。
真澄は、この気持ちをわかってくれる。微笑んで、手招きしてくれる。撫でてくれるし、褒めてくれる。たぶん、愛してくれている。
先生や早河も、きっと心配してくれているし、一弥だって、まぁ、あいつなりにわたしに気を遣ってくれている。時々、迷惑だけど。
でも、わたしは所詮、人間じゃない。皆とは違う。強化人間。独りだ。
だから、敵もいる。
名前は聞かなかったが、今日のあのヤクザだってそうだ。当然、砂原もだ。この街で力を持つものは、闘わなくてはいけない。
「人間じゃねぇんだってな?」
脳内で再生される言葉。
眼鏡を割られた学生の目。
今までに何度も向けられた畏怖の目。
でも、自分と彼ら、一体何が違うと言うんだろう。
身体能力?
首の後ろの刺青?
道徳?
ならば、お前らは、全員同じだと言うのか?
くだらない。
馬鹿馬鹿しい。
社会というシステムの煩わしさ。
手続きに支配された人々。
なぜ、こんなにも億劫なのだろう?
人の体が、人の意思が、人の命が、無駄に重すぎる。
そう、彼らとの違いといったら。
自分のこの身軽さだろうか。
「あー、もう、いい」
サキは無意識に呟いた。彼女の意識は既に、半分は夢の世界に沈んでいた。
熱帯夜の虫篭には、子守唄のような喧騒が続いている。
後書き
作者:まっしぶ |
投稿日:2011/07/17 21:09 更新日:2011/07/17 21:10 『Reptilia ?虫篭の少女達?』の著作権は、すべて作者 まっしぶ様に属します。 |
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