酸素計画

日記など雑多な文章

日記未満のことを書きます。

『トンソン荘事件の記録』の鑑賞記録です。
※作品の内容に触れています。
#鑑賞記録


【感想】
うーん……個人的には、60点です。可もなく不可もない平均点はそこそこ高いものの「ここが面白い!」「ここが怖い!」「最後にはこうなるのか……!」となるポイントが少なく最高点が低かった印象です。
(韓国ホラーはときどき見ますが個人的好みに突き刺さる作品が少ないので、韓国ホラーは切って別ジャンルのホラーを見ようかな〜の気持ちになってきました。)

まあこの作品を見る前に『劇場版 ほんとにあった! 呪いのビデオ100』を見ていたので、モキュメンタリーに対するハードルや期待値が上がっていたのもあり総合的な感想が次の通りになりました。

・モキュメンタリーとして映像がきれい(構成も悪くない)だけれど、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』みたいに謎に踏み込んでしまって恐ろしい何かが不明瞭なまま終わる恐怖を描きたいのか? 『アントラム』みたいに実在する体裁の呪いの映像を表現したいのか? 『女神の継承』みたいに謎を考察するのが面白い作品にしたいのか? の軸がぶれている。
そのため、ドキュメンタリーとして事実を追って謎が判明する物語に視線を置くのか、何が起こるのか分からない恐怖に視線を置くのかが分からない。
ビジュアルはいいけどそれ以外の脚本、構成を練ったのか不安になる。

・恐怖の表現が残念ながらありきたり。怖いものが映ったなら本当にあった呪いのビデオシリーズみたいにピックアップしてほしい。ミッケみたいに隠し要素みたいな感じで入れられても単純にビビるだけでびっくりさせてくるフラッシュ作品と同レベルの恐怖で残念。(こっちはジングルベル逆再生で子どものときから鍛えられてんだぞ……! となりました。)
鏡に人影、謎の音、映像機材への影響など……全部どっかで見た! 感がある。
良くも悪くも安定した恐怖表現で新鮮にも感じないうえ、製作陣に観客を怖がらせようという意欲があるのか? と疑問になる。
こう考えるといたずらで驚かせてくるフラッシュや恐怖画像に怯えながらインターネットをしていたほうが怖い気がしてきますね……だめだろ、モラルが低いインターネットに負けるホラー映画は……

・事件を通して恐怖の事実が浮かび上がる……ことなし! 最後に警察の調査ですべて解決! なの、じゃあ今まで撮影スタッフたちがトンソン荘の調査をしてきたのって何? になる。
いやまあ調査したからあの結末になったのは分かるけど、警察の調査ですべて解決とかじゃなくて、最後に判明する事実が撮影チームの調査で匂わされていて、作中で匂わされていた何かがを警察の調査であたりだったと確定するとかにしてくれ。
(これマジで無粋なことを言うと、これ警察を呼べば解決するのでは? とかになる。猫が殺されたあたりで警察を呼んで、女性記者を追っていれば解決しそうだし)

・物語におけるストレスとストレス発散(報酬系)の作り方が微妙すぎる。
『劇場版 ほんとにあった! 呪いのビデオ100』がストレスのかけ方とストレス発散のバランスがよすぎて最後まで好奇心や興味が尽きずにめちゃくちゃ面白いのですが、『トンソン荘事件の記録』は「何かが判明」→「新たな謎」→「それが何か新しい謎、発見につながらない」→「また別の謎か事実確認(事件に対して風呂敷の広げ方がうまくない)」の流れで先をみたいと思うポイントの作り方が微妙でした。
何か手がかりが分かっても、そこから先を知る人を探すのが大変、どうなる?! すべての謎を解く鍵ではないけど複数ある可能性をある程度絞り込めた! とか謎を発展させてくれ〜!!! この作品、謎が解けていく爽快感というものが一切ない!!!
『トンソン荘事件の記録』の場合、謎が解けそう? となっても「その謎が判明して結局なんなの?」という作りのせいで見ていてストレスが溜まる一方で楽しくなかったです。
過去の殺人事件の犯人とその親戚の誕生日が一緒だからって何なんだよ……事件の真犯人とその親戚が実は双子でしたってだから結局何なんだよ!!! 双子だからって「あーなるほど!」って全然ならないし、「は? で?」という冷めた感想しか出ねえよ!!!
綾辻行人『殺人鬼』を読んでこい!!! そのくらい物語に入れる要素と謎や物語とを組み合わせる構成にしろ!!!
あと『劇場版 ほんとにあった! 呪 いのビデオ100』のうまいところは、警察に相談しても解決方法が見つからないだろうから撮影陣ががんばって聞き込みとかしていくしかないという物語の流れに納得がいく作り方をしていたんだと気がつきました。
(トンソン荘事件の記録のだめなところを見て、他のホラー映画のいいところに気がつけるのはいいかもしれないです。)

・撮影手法が何を表現したいのかが分からない。
モキュメンタリーだとリアリティのために手持ちのカメラ(手ぶれしがち、臨場感あり)で映しましたよという体裁の映像が多いので、見ている側も「取材中に取ってるんだな〜」となります。
ただ『トンソン荘事件の記録』はモキュメンタリー風の映像の中に「これ絶対取材中に撮れない凝った撮影をしているめちゃくちゃきれいな映像(手ぶれなし、カメラが複数ある構図、少ないスタッフのはずなのに途切れないきれいな映像)」が出てくるせいでモキュメンタリーとして見るべきか、物語として見るべきか分かりません。
途中の除霊シーンでマジ萎えました。
萎えすぎて除霊シーンあたりから「これそんなに面白くねえな〜韓国映画ってだいたい面白けど、面白くないのはマジで映像がきれい以外は退屈だよな……コワスギシリーズは低予算でもあんなにはちゃめちゃに面白いのになあ……死霊の盆踊りみたいに面白くなさすぎて伝説級ってわけでもないしなあ……」とクソオタクになっていました。
マジでさあ……こんなにきれいな除霊シーンが撮れるかよ!!! ドキュメンタリーの体裁でさあ!!! この映画は何なんだよ!!! モキュメンタリーなら割り切って低予算っぽい映像でいいんだよ!!! むしろ低予算っぽい代わりにリアリティがあれば十分なんだよ、モキュメンタリーは!!! 生半可にきれいな映像入れて主軸がぶれるようなことするな〜〜!!!!
『クローゼット』『女神の継承』みたいにうまく除霊シーンを作中に入れる作品があるため、一切擁護できません。

・最後に監督が行方不明なのは息子の幽霊が取り憑いて逃げた? と思いましたが、息子の幽霊に対して特に恐怖を覚えなかったため大してオチが怖くない。
作中の構成がうまければここでめちゃくちゃ怖かったのでしょうが……


【考察】
これたぶん脚本、構成あたりが何も考えずに作ったので物語に粗が出ていると思いますが、一応考えたことをメモに残しておきます。

・結局この事件で殺人を起こしていたのは何なの?
事件①
作中で「ある一家の息子が母と妹を殺害後、自らも焼身自殺していた事件」

息子の父親が閉院した病院から出てきた(閉院したために情報として行方不明扱いだった)が家に帰ってきて、家にいた自分の双子の兄弟を殺害し遺体を隠した。そして、妻、双子の兄弟と妻の間にできた女児、息子を殺害。
(これなんで真犯人が事件を起こしたのか分からないので、映画を見ただけだと「へー」にしかならないんだよな……もっと掘り下げろよ!)
(『残穢』みたいに土地とか一族に関連する根深い何かが潜んでいた! とかでもないし……)

事件②
トンソン荘でアルバイトが恋人を殺害した事件

アルバイトに息子の幽霊が取り憑き、恋人を殺害。
動機は、事件の映像にアルバイト(息子の幽霊が取り憑かれた状態)の行動を止めようとしたため?
(このあとに書く③の事件で説明ができるところもあるけど、微妙に説明しきれないのでこの事件はタイトルとか、作品のメインフックとして適当に入れたのか? と考えています。)

事件③
最後に撮影スタッフが巻き込まれた事件
女性スタッフに息子の幽霊が取り憑き、父親のいる場所に向かう。そこに撮影スタッフも居合わせたため殺害、その後父親を見つけたため復讐として殺害。

【考察】
・息子が最後の寺での場面で意味深なことを言っていたので何らかの儀式の犠牲? とかで生贄にされた?

ただ理不尽に父親に殺された無念でこの世に留まった息子の幽霊の恨み節と考えた方が物語としても順当(違和感がない)ため、製作陣が何も考えずに意味深なセリフにしただけでは?
(製作陣を信頼していない考察です。)

・なぜ長年の間、真犯人の父親は息子に殺されなかったのか。またなぜ長年の年月の末、作中最後の寺での事件に至ったのか。

ハンターハンターの念能力の制約と誓約みたいに「ある人物に取り憑いたうえで、自身の命日にしか他人を殺せる力を発揮できない」とかでは? と考えています。
そう考えるとトンソン荘での事件は取り憑ける相手が偶然5月5日にいたのが一回だけだった、と一応説明ができます。
寺での事件でなぜ真犯人である父親が殺害できたのかは、5月5日に自由に動ける相手に取り憑くことができたこと、5月5日中に移動できる範囲の寺に真犯人がいたこと(なんで真犯人が寺にいるのがわかったのか? 今までは息子が殺された事件の家にある庭にいたらしいのに……という疑問は生じます。ただ5月5日以外の日は家の庭で真犯人の父親が来るか見張っていたのかもしれません。)で説明ができます。
何でハンターハンターで考えているのかというと、作中で一切の説明、示唆がないので、自分でこうでは?  
と妄想するしかないからです。
考察のための手がかりがなさすぎる!!!

・なぜ真犯人の父親以外を、息子は殺害したのか。
可能性①
上であげた②の事件は行動を止められたため。
(なぜ父親以外を殺してしまい混乱? して父親を殺しに行けなかった。もしくは火で焼かれた記憶が蘇り行動不能に陥った)

可能性②
上であげた③の事件は撮影陣が邪魔だったため。
(ホラー映画的には殺された方が見映えもいいし、恐怖を描けるというメタ的な理由もありそうです。ただそんなに怖くなかったのが残念です。)


【総評】
攻撃力となる物語の見せ場、伏線回収、恐怖の描写、謎解きが中途半端に弱いため、見ている間に白けて防御力が弱い部分(映像がモキュメンタリーっぽくない、あんまり謎を調査できてないな? と感じる)にガンガン気がついてしまう。

言うまでにもないが表現する媒体やジャンルにはそれごとに得意不得意がある。
たとえば、小説はコストが低く誰でも書きやすいため書くための物理的ハードルは少ないが、漫画やイラストと比べて一見した際の情報量が少ないため多くの人に読まれるハードルが他の媒体と比べて高い。
このように媒体ごとの特性を生かして表現してうまくハマったのが、小説では叙述トリック、映画では4DX、アニメでは週ごとに見た人で盛り上がれるといった例であり、媒体ごとにある特性(あるいは長所、短所)を活かしている。

では、モキュメンタリーの強みは? というと、「低予算であっても、逆に取材中の映像という説明でリアリティを増すことができる」「謎を曖昧に残しても、逆に現実にあるのかもしれないといった後味の悪さや不気味さを残せる」という点です。
こうした特徴をうまくいかせずに殺してしまい、むしろ予算があったのかモキュメンタリーらしくない妙にきれいな映像を入れてしまうあたりが長所を生かさず短所を補おうとして自爆してしまった印象があります。
(そもそもモキュメンタリーの特徴、長所を把握していなかったため、撮影技術と予算はあるのにうまくモキュメンタリーを撮るのに使えなかったのか? という気もしています。でも、これが韓国でウケるならいいんじゃないんですか? とも思います。なぜならこの作品が私の好みに合わなかっただけなので)

これを言ったらおしまいですが、全体的に詰めが甘いんだよな……という作品です。
モキュメンタリーが見たいなら、『トンソン荘事件の記録』より、『劇場版 ほんとにあった! 呪いのビデオ100』、『シークレット・マツシタ/怨霊屋敷』、『アントラム』、フェイクドキュメンタリーQあたりを見るほうがいいです。
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