リヴァイ 10
カタ、と風に窓が押される音を聞いて目が覚める
起き上がろうとして、でもすぐに襲ってくる眠気に意識が遠ざかっていった
今日は休みだから、少しだけ寝坊を――と思ったところで間近に他の人の息遣いを感じる
重たい瞼を開けると思ったよりも近くにリヴァイの顔が見えてびくりと肩を揺らした
漏れそうになった声を両手で口を覆って押し留めると目を動かして周囲を見る
壁も天井も見慣れた兵舎のもので、少し空いているカーテンからは登り始めた朝日が差し込んでいた

(そう、だった……昨日、来てくれて……)

同期の親友を失った自分を心配して来てくれた兵長
一緒に横になったが、眠ったら帰るだろうと思っていた
まさか、朝までずっと側に居てくれるとは思わず――
おかげで熟睡してしまったなと考えながら寝顔を見つめる
眠っている時は表情から険がなくなって厳しさを感じさせなかった
寝息を聞きながらじいと見つめているともぞりと動いた拍子に目が開けられる
何度か瞬きを繰り返すと、視線が自分へと向けられた

「……おはよう」
「おはようございます……」
「大丈夫か」
「はい……寂しいです、けど……悲しんでいても、戻ってきませんから……」
「……そうだな」

言いながら彼が起き上がり、足を床へと下ろす
ギシとベッドが軋む音を聞きながら自分も体を起こした
体を伸ばし、目元を擦っている間にも兵長はブーツを履いて窓辺へと歩み寄って行く
カーテンを開けた彼が少し下を見るようにして顔を俯かせ、窓を開けた
朝のまだ冷たい風が室内へと入り込み、寒さに体を震わせながら室内履きを履く
リヴァイの隣へ行こうとしたところで彼が下に向って声を掛けた

「エルド、オルオ、ウィンクルム」
「「「はっ」」」

部下の名を呼ぶと重なった返事が返される
驚いてリヴァイの隣に並び、外を見ると一人も欠けずに揃った班員の姿が見えた
こんなに早い時間に――と思っているとリヴァイが部下を見下ろして口を開く

「俺の部屋を二人で使えるようにしておけ。グンタ、ペトラ。荷運びの準備だ」
「了解しました」

代表してエルドがそう言葉を返し、さっと動き出す五人
一体何をするのだろうと思っているとリヴァイが窓を閉めてこちらへと顔を向けた


「っ、はい」
「お前は身支度を済ませろ」
「はい」

早朝から何をと思ったが寝衣のままでは何も出来ないだろう
そう思い、衣装棚へと歩み寄り扉を開けた
三日間に及ぶ演習の後だから訓練兵には二日間の休みが与えられている
ならば着るのは制服ではなくて私服か
でも制服の方が良いのかと悩みながらも、結局は私服を取り出した
そして、ふとリヴァイの方を振り返ると引き出しからタオルを取り出す
衣類を片腕に掛けると兵長に歩み寄りタオルを差し出した

「どうぞ」
「あぁ」
「部屋を出たら左の突き当りに水場があります」

こちらの言葉に彼が頷いて部屋を出て行く
扉が閉まるのを見ては着替えを始めた
この早い時間帯ならば起きだしている同期も少ないだろう
訓練兵の兵舎に兵長がいては騒ぎにはなるから人の少ない時間に支度を済まさなければ
そう思いながらシャツを着て、スカートを履いて
ハーフブーツを履いたところでリヴァイが戻ってきた
開かれた扉の向こうにざわめきが聞こえ、同期の一人が身を乗り出して部屋を覗くのが見える
パタンと閉められるとリヴァイが洗濯物を入れる籠に使い終えたタオルを入れてこちらに顔を向けた

「俺はエルヴィンに会ってくる。もうじき俺の部下が来るから部屋に入れろ」
「は、はい。分かりました」

一体何をするつもりなのか
そう思っている間にもリヴァイはスカーフを首に巻くとジャケットを片手に再び部屋を出て行った
遠ざかる足音を聞きながら早く支度を終えようと引き出しからタオルを取り出す
部屋に来るのは恐らくグンタとペトラだろう
他の三人はリヴァイの命令で何処かへ行ってしまったようだし
はそう思いながら部屋を出ると足早に水場へと向かった




リヴァイの外套を腕に抱え、テキパキと動く男女の動きを見つめる
何処かから空の木箱を持ってきたグンタとペトラ
その二人は部屋に来るなり室内にある服とか、私物などを次々と箱詰めし始めてしまった

「あ、あのぅ……」

行動が理解できずに恐る恐る声を掛ける
するとグンタが手を止めずにこちらへと顔を向けた

「うん?」
「何を、なさって……?」
「兵長の命令だ。お前はこの部屋を出ることになる」
「?……」

一体なぜそんな事に
自分は訓練兵だからこの兵舎で寝起きをしなければ――と思ってたところでリヴァイが部屋へと戻って来る
作業をしている部下をちらりと見てからこちらへと歩み寄ってきた


「っ、はい」
「エルヴィンの許可が下りた。お前は今から特別作戦班の班員だ」
「え……?」
「同時に旧本部へ移動することになる。ここはこいつらに任せて先に行くぞ」
「は、はい……」

話に付いていけないが、言っている事は理解できる
ならば自分がやるべき事は馬の準備か
立体機動装置もたった今箱へと入れられてしまったし
そう思い、リヴァイへと外套を差し出した
彼がそれを受け取るのを見て、自分は椅子の背に掛けておいたジレに腕を通す

「馬を連れて来ます」
「あぁ。外で待っている」

リヴァイの言葉に頷いて廊下へと出た
兵長が出入りしているせいか同期がこちらの様子を伺っている
その中でもリーダー格に当たる友人が側に来るとちらりと扉の方を見てから声を掛けてきた

。何があったんだ」
「あの……特別作戦班に編入することになって。その準備をしているの」
「っ、そうなのか。確かにお前は実戦レベルの力を持っているからな……兵長の個人指導もこの為だったのか」

彼は自分とリヴァイが恋人関係になっているとは知らないのだろうか
脅された同期は口外していないらしいと思いながら頷いて見せた

「うん。だから旧本部の方へ行くことになって」
「そうか。任務が重なればまた会えるだろう。しかし、二期続けて訓練兵から精鋭揃いの班にスカウトされるとは……」
「あの先輩、優しいよね。憧れてる男子が多いとか……?」
「うっ……た、確かに、優しくて美人な先輩だが……恋人がいるだろう。……いつもくっ付いていられると目の毒だ」

どうやらこの友人はウィンクルムに恋心を抱いているようだ
叶わない想いだろうと思いながらは曖昧に頷くと階段の方へと体を向ける

「じゃあ、またね。訓練とかで会えると思うから、その時はよろしく」
「ああ、向こうでも元気でな。……まあ、お前なら上手くやっていけるだろう」

彼の言葉に小さく頷くと小走りに廊下を進み階段を駆け下りた
馬に鞍を付ける作業にも慣れたからそう時間は掛からないだろう
問題なのはこのロングスカートでちゃんと乗れるだろうか、という事だけだった
やはり制服を着るべきだっただろうか
はそう思いながらまだ人の少ない外へと出ると厩へ向かって走り出した


◆ --- ◆ --- ◆ --- ◆ --- ◆


「あ、兵長。お帰りなさい」

笑顔でそう言うオルオの顔を見て固まってしまう
彼の側に居るウィンクルムもエルドも
何故か揃って怪我をしていて手の甲や額にガーゼが貼られていた
朝に見た彼らはこんな怪我なんてしていなかったのに
何があったのかと思っているとリヴァイも同じ事を考えたようで僅かに眉をひそめて彼らに声を掛けた

「何があった」
「いえ、大したことは……」
「ウィンクルム」

誤魔化そうとする男性二人ではなく、ウィンクルムを名指しする彼
すると名を呼ばれた彼女が少し視線を彷徨わせてから言い難そうに口を開いた

「はい……兵長の部屋のベッドを入れ替えまして……木枠を運んでる時に、階段で転びました」
「……」
「さーせん、俺が足を踏み外して……」
「俺が支え切れずにオルオに負荷が掛かったんです」
「私が手を滑らせたんです。ですが、ベッドには傷ひとつ付けていません」

三人が口々にかばい合うのを聞いてリヴァイが小さく息を漏らす
改めて部下の顔を見回すと少しだけ口元を綻ばせた

「よくやった。任務に支障はあるか」
「いえ、擦り傷程度です」
「そうか。部屋は整ったのか」
「完璧にやっておきました」

オルオの言葉に頷いてリヴァイがこちらを促して二階へと続く階段を上がる
見送る三人の怪我を気にしながら後について行くと、彼が私室の扉を開けた
室内は前に訪れた時とは少し様子が異なっている
椅子は前から二人分であったが、机が広くなり、そしてベッドも一回り大きなものになっていた
衣装棚も一つ増えているが不思議と部屋が狭くなったような感じはしない
一人で使うには広い部屋だったからだろうか――と思っているとリヴァイがこちらへと向き直った

「今からここがお前の部屋でもある。自由に使え」
「はい。……えっ、リヴァイさんと、同室、ですか?」
「いずれはそうするつもりだった。予定が早まっただけだ」
「……」
「何か文句があるのか」
「い、いえ、ですが、他の方たちが……オルオさんとウィンクルムさんに、申し訳ないというか……」

恋人関係であるリヴァイと同じ部屋で寝起きできるのは嬉しい
だけど、同じ屋根の下で寝起きする班員にもう一組カップルがいるのに自分たちだけと言うのは気が引けるものだった
しかもその二人は自分の先輩と言う立場なのだから
そう思っていると彼が開いたままの扉の方へと目を向けた

「オルオ」
「はっ」

側で待機していたのか、すぐに返答があり驚いて背後を振り返る
カツ、と踵を鳴らして戸口に立つ部下にリヴァイが腕を組んで声を掛けた

「てめぇとウィンクルムの同棲を許可する。……が、今まで通りに避妊はしろ」
「っ、はっ。……兵長、朝からやめてくださいよ、そんな話……」
「大事なことだろう」
「それは、そうッスけど……」

視線を逸らして僅かにだが頬を赤らめる先輩は失礼ながら可愛らしい
そう思いながら、やっぱりあの二人も大人の関係なのだなとしみじみと考えてしまった
オルオが横歩きで戸口から姿を消し、足音が聞こえなくなったところでリヴァイの目が自分へと向けられる
視線が合うと彼が僅かに眉を寄せながら口を開いた

「おい、何を考えている」
「っ……すみません……」
「釣り合わねえとは思うが……あの二人は見ていると呆れるくらい仲が良い」
「し、失礼ですよ……」
「エルヴィンへの報告書にも書いた。ウィンクルムは優秀ではあるが男の趣味は悪い」
「うっ……オルオさんは、立派な先輩です。討伐数、凄いですから……」
「そうだな。もう少し連携が出来ればとは思うが」

どうやらオルオは連携が苦手らしい
そう思っているとリヴァイが窓に近付いて外を見る
それからこちらを振り返ると声を掛けられた

「荷物が届いた。行くぞ」
「はい」

こちらへ来てからそう時間は経っていないのに
先輩たちは仕事が素晴らしく早いようだ
そんな彼らと同じように自分もリヴァイ班の班員としてやっていく事になる
やるべき事を色々と教えてもらわなければ
はそう思いながら廊下に出るリヴァイの後に続いて部屋を後にした