オルオ・ボザド1 13
体力を戻す為に訓練を始めてから一週間が過ぎる
今日は体慣らしに森の中を軽く飛び回ってからオルオと共に行うフォーメーションの練習も含まれていた
本部の訓練施設で行うそれには同期生が見学に来ている
エルドの合図を見てアンカーを撃ちこんだ部分を支点に体を浮き上がらせる角度と姿勢に刃の構え
更に落下速度を合わせて、刃で模型を切り刻む
地面ギリギリの高さを掠めるように弧を描いて遠心力で再び体が上へと浮き上がった
標的にした巨人の模型はズタズタに引き裂かれて地上へと散らばる
木の幹に靴底が触れるとオルオがこちらに顔を向けた

「良い調子だな」
「はい」
「やっぱお前だと合わせやすい」
「私もです」

そんな言葉を交わしているとエルドに下から声を掛けられる

「二人とも完璧だ。、手足は痛まないか」
「いいえ、全く」
「そうか。下りてこい、次の合図の出し方を教える」

それを聞いてオルオと頷き合い、地上へと下りた
刃を納め、グリップをホルダーに戻して――ふうと息をはくと晴れて恋人となった彼が側へと歩み寄って来る

「立体機動装置の方はどうだ。まだ調整が必要か?」
「大丈夫です。前のやつよりも動きやすいくらいで。オルオさんが色々と弄ってくれたから……」
「……」
「?」
「……オルオ」
「え?」
「さん、はいらないんだよ」
「っ……恥ずかしい、です」
「余所余所しいだろうが。アイツらとの差を感じさせろ」

アイツら、と指さされたのはエルド、グンタ、ペトラの三人
そちらを見て、オルオへと顔を戻して
は両手の指先を胸の前で合わせると上目遣いで彼の名を口にした

「オルオ」
「っ……

互いに呼び合い、ぽっと頬が熱くなって
幸せだ――と思っているとそう遠くない場所から同期生たちの悲鳴やら、怒声やらが聞こえてきた

「っ……?」
「なんだ、うるせぇガキどもだな……」
「皆、見に行くぞ。様子がおかしい」
「はい」

エルドの言葉通り、見学したいと言って集まって来たのにいつの間にか居なくなっている
どうしたのだろうとアンカーを撃って声がする方へと皆で移動した
自分たちがいた場所から三十メートルほど奥へと森の中を進んで見えたのは、ワイヤーが絡まり、動けなくなっているエレンとミカサの姿
何をしているんだと側の木の枝に着地すると二人に声を掛けた

「どうしたの?」
「その……オルオさんとの真似をしようとして……」
「エレンがタイミングを外した」
「お前が早かったんだろ」
「私はちゃんと合図をした」

絡まったままそんな言い合いを始める二人に呆れ、ふと奥の方を見て――
他にも数か所で同じ事が起きているのが分かった

「あーあ……馬鹿かこいつら」
「まあ、傍から見れば格好良いからな。やってみたくもなるんだろう」
が見ただけで出来たのは奇跡みたいなものだ。普通は失敗するからな」
「そうよね……色々と合わせなきゃならないのに。ってことは、オルオとは相性抜群ね。一回で合わせたし、運命の出会いだったのかも?」
「っ……ペトラさん」
「あら照れちゃって、可愛い~っ」
「おい、新兵を揶揄ってないで104期を下ろすぞ。オルオ、。この二人を頼む。俺たちは奥の方へ」

そう言い、三人が奥へと向かうのを見送り、エレンとミカサを見た
どうしたものかと思っているとオルオが周囲を見回す

、左右からだ。行くぞ」
「はい」

角度はあの辺りで、タイミングは――
オルオの動きに合わせてアンカーを撃ち、同時に飛び上がってぶら下がる二人へと手を伸ばす
自分がミカサの腕を掴み、オルオがエレンの腕を掴んで
それから脚も使って体が離れないようにすると絡まるアンカーを引いた
体重が掛かるアンカーを解くのは出来ないが、刺さっている木から抜く事は出来る
残る二本のアンカーをオルオと同時に抜くと密着していたエレンとミカサの体が離れた
それに合わせて落ちないようにしっかりと彼女の体を抱き抱える
見かけよりも重いなと腕に渾身の力を込めて地面へと下ろした
シュルッとワイヤーが収納されるとミカサがほっと息をはく

「ありがとう、
「ううん。怪我はしてない?」
「大丈夫」
「はあ……格好良いと思ったのに。簡単そうに見えて難しいんですね」
「当たり前だろ。俺たちだって何回も、今だって練習するフォーメーションなんだからな」
「凄いですよね。今だって何も言わずに同時にアンカーを抜いて……、どうやったら出来るんだ?合図も出さないで、どうやって合わせてるんだよ」
「えっと……」

なんとなく、今だろうという感じなのだけど
それをどう説明したら良いのかと思っているとオルオがやれやれという感じで首を振った

「エレン、俺とはリヴァイ兵長に選出された精鋭同士。さらに愛で繋がれた関係だ。お前には理解できないぜ」
「オルオ……恥ずかしいです」

同期を相手に何を言ってくれるのだろう
愛という言葉に反応したのかエレンが顔を赤くしているのを尻目にはミカサの方へ顔を向けた

「いきなり合わせるのって難しいから。そんなに気落ちしないで」
「二人があまりにも綺麗だったからやりたくなった。……私には無理だ」

しょぼんとするミカサがなんだか可愛い
こんな顔もするのだなと繁々と見つめていると、カサリと草を踏む音が聞こえて肩越しにそちらを見た

「ガキどもが騒がしいな。大方予想は付くが……」
「兵長」

オルオが彼のほうに体を向けて背筋を伸ばすのを見て自分も習う
リヴァイが森の奥を見て小さく溜息をもらすとこちらへ目を向けた

。てめぇ持久力は戻ったのか」
「まだ元通りには……」
「ガスが切れるまで飛び回ってこい。オルオ、監視していろ」
「「了解しました」」

そう返事をし、エレンとミカサの顔を見るとにこ、と笑ってアンカーを撃つ
木から木へとアンカーの支点を移動して正面からの風に目を細めた
巨人と戦わずにただ飛んでいられる時間はとても楽しい
サラサラと葉擦れの音を聞きながら移動をし、斜め後ろを飛ぶオルオへ顔を向けた
目が合うと彼が口元に笑みを浮かべる
それを見ると自分の頬も緩んで、そして、きちんと狙いを定めた筈のアンカーの位置が何故かずれて――

「あ――」

やってしまった、と思ったのと同時に負荷が掛かった左のアンカーが外れる
体勢が崩れる中、撃ち直しを――と思った時には既にオルオの腕に抱えられていた

「大丈夫か」
「はい……ごめんなさい、オルオ。ちゃんと、撃ったと思ったんですけど」
「……多分、右手に上手く力が入ってないんだよ。暫く動かせなかっただろ」

言いながら大木の枝の上に着地して腕が離される
そのまま両手を掴まれると握るように言われた
自分の左右の手で、オルオの手をぎゅっと握る
その様子を見ていた彼が僅かに目を細めると右手を握り返された

「やっぱりな、右の力が弱い。お前、右利きだろ。左より力が入ってねえよ」
「そう、なんですね」
「それで連続で撃つと動きが鈍る。……ま、これはすぐに戻るだろう」

確かに何かをする時に利き手である右手は頻繁に動かす事になる
でも巨人に噛まれたのは右の腕で、その先の手を動かすと痛みがあった
だからあまり動かさずにいた事で鈍くなっているのだろう
そう思い、指を握ったり開いたりを繰り返しているとコツ、とオルオが一歩近付いてきた
顔を上げると妙に真剣な顔が見えてじいと見入ってしまう
彼がこくりと喉を鳴らす音が聞こえて、ゆっくりと右手が上がって
その指が顎に触れて――
顔の距離が詰められて頬に、額に、鼻筋にと前と同じ部分に口付けられる

「あ、あの、オルオ……訓練中、ですが……」
「黙って……口閉じろ」

言い終えて彼の唇が、己のそれに重ねられて
カァッと目の辺りが熱くなり、オルオを押し留めようと彼の体に触れていた手を握る
一度離れた唇が角度を変えてもう一度触れた
彼の息遣いを間近に感じて、膝から力が抜けるが真後ろの木の幹に背を支えられる
閉じていた唇を舐められてびくりと肩が揺れた
それでも、応じるように薄く唇を開いて――
歯列を割り舌がざらりと触れ合う
体温が上がり過ぎて逆上せてしまいそうだ
そう思い息苦しさを感じながらもされるがままになる
これはいつ呼吸をすれば良いのか
窒息すると思ったところでオルオが顔を離し、目を開けてこちらを見る

「……真っ赤」
「っ、は、初めて、なので……」

そう言うあなたも真っ赤ではないか
言葉にはせず、そう思いながらヒラヒラと両手で己の顔に風を送った
それくらいではこの顔の赤さは消えないだろうけれど
無駄な努力をしているとオルオが立体機動装置のグリップを握った

「飛べば風で冷えるだろ。ほら、ガスが切れるまで行くぞ」
「はい……あと三十分くらいは飛べそうです」
「そうか。じゃ、十五分奥に行って折り返すぞ」

そう言い、手で促されて自分が先に飛ぶ
先ほどのように姿勢を崩した時に彼の目に入りやすいようしてくれたのが分かった
なんて優しい恋人なのだろう
はそう思いながら右手に意識を向けて次のアンカーを撃った




訓練施設の出入り口の少し手前でガスが切れ、二人で森の中を歩く
104期生が宙づりになっていた辺りは皆が無事に回収されたようでその姿は見えなかった
良かったと思いながら歩いているとオルオの手に右手を握られる

「っ……ふふ、温かいです」
「そうか」

風を浴びて顔の赤みは引いたが手も冷えてしまった
自分よりも体温の高い彼の手から熱を分けてもらいじんわりと温かくなっていく
オルオは冷たくないのかなと思っていると彼が開いている方の手で後頭部をぽり、と掻いた


「はい」
「あー……その……今夜、部屋、行っても良いか?」
「?……構いませんが……」
「……お前、意味理解してるか……?」
「?……、……!?だ、大丈夫ですっ。あ、でも……その、初めて、なので上手く出来るかは……」
「それはお互いさまだ」

今日から自分は本部から旧本部へ戻る事になっている
だから、あちらの部屋で夜になったら――という事、なのだろう
まだ昼前だというのに自分まで緊張してきてしまった
取り敢えず、今日はお風呂で念入りに体を洗おうか
風で冷えた頬に再び熱が集まるのを感じ、は繋いでいない方の手でその部分を覆った