No.29


さよならの練習を08

オフェンス
 {{ namae }}の飛び降り未遂事件から数週間経った。世界は相変わらず何の苦も無く動いている。
 じーわ、じーわ。セミが鳴く。{{ namae }}は待ち合わせの駅から少し離れた所にある木の下に立っていた。熱されたアスファルトから発せられる熱気が{{ namae }}の肌を舐める。汗がじわりと浮かんで肌を滑り落ちる。手の甲で額に浮かんだ汗をぬぐった。
 {{ namae }}、と名前を呼ばれてそちらに意識を向ける。相変わらず暑そうな恰好をしたイライと、かなりラフな格好をしたナワーブがこちらに歩いて来る。

「君がエリスのお墓参りに僕たちと一緒に行くとは思わなかった」

 イライの言葉にまあね、と{{ namae }}は笑って見せた。
 三人で切符を買ってバスに乗り込む。ぬるい風が肌を舐める。他の乗客はいない。イライが降りる場所を教えてくれた。{{ namae }}は二人の後ろの席に座ってぼうっと外を眺める。山々の葉はすっかり濃い緑になっている。川で子供たちが網を持って何かを取っている。セミだろうか、ザリガニだろうか、。楽しそうだな、と薄っぺらい感想を抱いた。

「そう言えば前に現場にお参りに行ってたらしいじゃないか」

 イライが{{ namae }}に話題を投げた。何で真夜中なんかに、とナワーブが不審そうに眉を顰めさせる。{{ namae }}は解らないというように肩を竦めさせる。

「その時お酒を飲んでたし、僕はウィリアムと花火がしたかっただけ」

 あのワンカップにあった線香花火は君の仕業かぁとイライが腑に落ちたように言う。再び沈黙が支配する。バスはバス停をいくつも通り過ぎた。

「あのさ非科学的だと言われそうだと思って黙っていたんだけれど、あの時、エリスに呼ばれたような気がしてね」

 イライの言葉にあの時、と{{ namae }}は瞬きを落とす。恐らく飛び降り自殺未遂をしたときだろう。

「跳び起きて、無我夢中で他の皆にも呼び掛けて、ああいうことをしたんだ。……あながち夢じゃなかったのかもしれない、エリスは君のことを何かと気にかけていたから」

 イライの言葉を反芻させる。何かと気にかけてくれていたのだろうか。きっと自分自身のことが放っておけなかったのだろう。ウィリアムはこちらが寂しくなるほど誰にでも優しいから。

「……そうだと良いなぁ」

 窓から差し込む太陽の光が眩しい。{{ namae }}は少し目を閉じさせる。
 少しして目的の停留所にたどり着く。数枚の硬貨を渡して降りた。熱い湿り気のある空気がべたりと肌にへばりつく。ナワーブが無言で歩き出した。行こうか、とイライが言う。{{ namae }}はその後ろをついていく。セミの声がわんわん響く。木々が道の方まで伸びているせいでセミの声が空から直接降り注いでいる。煩いなと少しだけ思う。
 少し歩いているとウィリアムの墓前の前に立つ。白いユリを置いて祈りの言葉を口にする。
 {{ namae }}はあの時に現れたウィリアムのことを思う。あれはもしかしたら本当のウィリアムだったのかもしれない。そうだったら告白の返事くらいしてくれたって良かったのに、とちょっとだけつまらないような気持ちになる。
 行こうぜ、とナワーブに言われて{{ namae }}は二人の後を追いかけた。
 途中にあるファミレスに入って涼を取る。各々好きなものを注文して腹を満たすことにした。店員が運んでくれた水で乾いた喉を潤す。ふ、と息を吐いた。あれだけ掻いていた汗は何処かへ行ったようだ。

「僕さぁ、」

 ぽつり、{{ namae }}が呟く。

「ウィリアムにキスした事あるんだよね、素面のときに」

 イライが咳き込んだ。ナワーブが盛大に吹き出す。鼻からお茶でも出たの、と茶化すと無言で肩を拳で叩かれた。それはどう反応したら良いの、と咳き込んでいたイライが尋ねる。{{ namae }}は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。そうなんだで終わる話じゃないかと笑ってみせた。

2020/08/09
2022/06/07
 {{ namae }}の飛び降り未遂事件から数週間経った。世界は相変わらず何の苦も無く動いている。
 じーわ、じーわ。セミが鳴く。{{ namae }}は待ち合わせの駅から少し離れた所にある木の下に立っていた。熱されたアスファルトから発せられる熱気が{{ namae }}の肌を舐める。汗がじわりと浮かんで肌を滑り落ちる。手の甲で額に浮かんだ汗をぬぐった。
 {{ namae }}、と名前を呼ばれてそちらに意識を向ける。相変わらず暑そうな恰好をしたイライと、かなりラフな格好をしたナワーブがこちらに歩いて来る。

「君がエリスのお墓参りに僕たちと一緒に行くとは思わなかった」

 イライの言葉にまあね、と{{ namae }}は笑って見せた。
 三人で切符を買ってバスに乗り込む。ぬるい風が肌を舐める。他の乗客はいない。イライが降りる場所を教えてくれた。{{ namae }}は二人の後ろの席に座ってぼうっと外を眺める。山々の葉はすっかり濃い緑になっている。川で子供たちが網を持って何かを取っている。セミだろうか、ザリガニだろうか、。楽しそうだな、と薄っぺらい感想を抱いた。

「そう言えば前に現場にお参りに行ってたらしいじゃないか」

 イライが{{ namae }}に話題を投げた。何で真夜中なんかに、とナワーブが不審そうに眉を顰めさせる。{{ namae }}は解らないというように肩を竦めさせる。

「その時お酒を飲んでたし、僕はウィリアムと花火がしたかっただけ」

 あのワンカップにあった線香花火は君の仕業かぁとイライが腑に落ちたように言う。再び沈黙が支配する。バスはバス停をいくつも通り過ぎた。

「あのさ非科学的だと言われそうだと思って黙っていたんだけれど、あの時、エリスに呼ばれたような気がしてね」

 イライの言葉にあの時、と{{ namae }}は瞬きを落とす。恐らく飛び降り自殺未遂をしたときだろう。

「跳び起きて、無我夢中で他の皆にも呼び掛けて、ああいうことをしたんだ。……あながち夢じゃなかったのかもしれない、エリスは君のことを何かと気にかけていたから」

 イライの言葉を反芻させる。何かと気にかけてくれていたのだろうか。きっと自分自身のことが放っておけなかったのだろう。ウィリアムはこちらが寂しくなるほど誰にでも優しいから。

「……そうだと良いなぁ」

 窓から差し込む太陽の光が眩しい。{{ namae }}は少し目を閉じさせる。
 少しして目的の停留所にたどり着く。数枚の硬貨を渡して降りた。熱い湿り気のある空気がべたりと肌にへばりつく。ナワーブが無言で歩き出した。行こうか、とイライが言う。{{ namae }}はその後ろをついていく。セミの声がわんわん響く。木々が道の方まで伸びているせいでセミの声が空から直接降り注いでいる。煩いなと少しだけ思う。
 少し歩いているとウィリアムの墓前の前に立つ。白いユリを置いて祈りの言葉を口にする。
 {{ namae }}はあの時に現れたウィリアムのことを思う。あれはもしかしたら本当のウィリアムだったのかもしれない。そうだったら告白の返事くらいしてくれたって良かったのに、とちょっとだけつまらないような気持ちになる。
 行こうぜ、とナワーブに言われて{{ namae }}は二人の後を追いかけた。
 途中にあるファミレスに入って涼を取る。各々好きなものを注文して腹を満たすことにした。店員が運んでくれた水で乾いた喉を潤す。ふ、と息を吐いた。あれだけ掻いていた汗は何処かへ行ったようだ。

「僕さぁ、」

 ぽつり、{{ namae }}が呟く。

「ウィリアムにキスした事あるんだよね、素面のときに」

 イライが咳き込んだ。ナワーブが盛大に吹き出す。鼻からお茶でも出たの、と茶化すと無言で肩を拳で叩かれた。それはどう反応したら良いの、と咳き込んでいたイライが尋ねる。{{ namae }}は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。そうなんだで終わる話じゃないかと笑ってみせた。

2020/08/09
2022/06/07
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