其之二十六
※色々すっ飛ばしていきなり本戦から
無事予選も終わり、たちは大会出場を決めた。
抽選の結果、第一試合はヤムチャと天津飯、第二試合はとジャッキー・チュン、第三試合はクリリンと餃子、そして最後に悟空とパンプットとなった。
「、またチュンさんと当たるなんてついてねえなあ」
「ははっそうでもないよクリリン。俺としては願ったり叶ったりだ」
トーナメント表を眺めるの表情は試合前にもかかわらずゆるゆると穏やかなものであったが、誰にも干渉されない底知れぬ強さを感じ、隣に並ぶクリリンの肌が粟立った。
は今までこんな空気を醸し出すような人間だったろうか――この三年で変わった様子がないと思っていたが、それはどうやらクリリンの思い違いだったようだ。
「さ、ヤムチャの試合を見に行こう」
トーナメント表から目を離したは、いつもの笑顔で武舞台へとクリリンを誘った。クリリンはぎこちなく返事をしながらも、についていくのだった。
ヤムチャの骨が折れた。天津飯がトドメを刺したのだ。
悟空とクリリンが武舞台で天津飯と言い合いをしている中、選手控え室を通って病院へ向かうプーアルを呼び止めた。
「プーアル。とりあえずヤムチャを救護室へ運んでくれないか?」
「えっでも、今すぐ病院に……!」
「大丈夫。俺がなんとかする。お願いだから信じてくれないか?」
有無を言わさない笑顔と安心させるような優しい声でプーアルを説得すると、少し逡巡してわかりましたと頷いてくれた。
そしては選手控え室へ戻ってきた悟空とクリリンに激励をもらい、ついに始まるチュンとの試合に歩みを進めた。
「さあ、次の第二試合も目が離せません! 選手対ジャッキー・チュン選手の対決です!! 前大会を観戦していた方はお気づきでしょうが、このおふたりがこの舞台で戦うのははじめてではありません! 惜しくも前回の試合で選手は負けてしまいましたが、あの華奢な体からは想像がつかないほどのパワーと大胆な攻撃は、今回の試合でも大いに実力を発揮してくれることでしょう!!」
アナウンサーがとチュンの熱い選手紹介を終えると、とチュンは互いに一礼し、試合がはじまった。
「……、決めたんじゃな」
「……はい、もう逃げません」
とチュンはそれ以上なにも言わず、地を蹴ってぶつかりあった。突きと蹴りを繰り出し合うが、のあまりの速さに正直チュンはついていくのがやっとであった。
チュンはなんとかの突きを出した片腕を拘束し、顔面と胸部に裏拳、最後に頸部に手刀を落としてを地に落とす。
「……ふふっ、本気になりましたね?」
素早く起き上がったは、先ほどのチュンの顔面の裏拳で切れてしまった口唇の血を拭いながら笑っていた。
「前回はあくまで俺の師匠として、俺のために戦っていました……でも今回は一武道家として真剣に俺と戦ってくれている。こんなに嬉しいことはありません」
目をギラつかせて笑うにチュンは肝を冷やした。
自分を受け入れ、戸惑いも、躊躇いも、焦燥さえも呑み込んでしまったがこれほどまでに脅威となるとは――もしかしたらチュンはとんでもない怪物を目覚めさせてしまったのかもしれない。
「やれやれ……若さとは希望、か……これからの未来は明るいのう」
チュンは人知れずぽつりとこぼした。
再びとチュンは対峙すると、常人の目にはとても追いつけないほどの突きと蹴りの攻防を繰り広げ、今度はがチュンの片腕を取り、気を込めた拳で渾身の一発をチュンの鳩尾にぶち込み、チュンが吹き飛ばされないように片腕を掴んだまま捻り上げ、背後に回って地面に叩きつけた。
ちょうどチュンの技を決められた先ほどののようなうつ伏せの体勢である。しかもの場合、チュンの腕を締め上げるというおまけ付きだ。やられたら倍にしてやり返す。
「おまえ……性格歪んどるのう……」
「師匠が師匠ですから」
にこっと清々しく笑う顔が可愛く見えるのだから、無駄に顔が良い奴は役得である。
「さあ、どうしますか……?」
「ほっほっほ、参った。今度こそわしの負けじゃ」
はチュンに勝ち、そして自分にも勝った。
これでこの姿で成すべきことは終わった。
「ありがとうございました」
アナウンサーがの勝利を叫ぶとはチュンに深々と礼をし、チュンはそんなの頭をぽんぽんと軽く叩いて武舞台から降りていく。
これでもう案ずることはなくなった。あのの決心した顔つき、振り切った強さ――もう大丈夫だ。
はプーアルとの約束通り、チュンとの試合を終えるとすぐにヤムチャの待つ救護室へ向かった。救護室の扉を開けると、ベッドに眠るヤムチャを心配そうに見つめるブルマたちの姿が在った。
「! あんたどういうつもりっ?! 病院に行かせないで無理矢理こんなとこで待ってろなんて……!!」
「ま、まあまあ落ち着けってブルマ……!」
を認識するや否や、ブルマはすごい勢いでに詰め寄るが、その顔は相変わらず余裕そうだ。
「これには訳があるから、とりあえずヤムチャを治療しよう」
「治療ったってあんた……どうやって?!」
「こうやってさ……!」
はヤムチャの折れた足を露出させると、手を当てた。一体なにが始まるというのだ。ブルマたちは不思議そうにの手元を覗き込むと、は目を閉じて集中し始めた。やがての手が淡く光り、変な方向に曲がった足はみるみる正常な位置へと戻り、ヤムチャも目を覚ました。
「あっあれ……? オレ……?」
ヤムチャを取り囲んでいたブルマたちは一斉に駆け寄り、涙を流しながらヤムチャに体の具合はどうか訊いていた。
「ありがとう。まったくおまえは本当にたいした奴だよ」
「同じ武道家としてそのまま見過ごすのは嫌だったんだ。固定してしまえば筋力低下と後遺症が待っているのは目に見えたし、まだまだヤムチャと戦いたいしな!」
ドキッ――の笑顔にヤムチャは思わず胸をときめかせるが、まてまて相手は男だぞと心臓を落ち着かせる。
挙動不審なヤムチャと笑顔のを見て察したのか、(どちらに嫉妬していいかわからない)ブルマは不機嫌そうにヤムチャをベッドから無理矢理立たせて足の具合を確かめるように言った。どうやらの治療で骨折したのが嘘みたいに綺麗さっぱり治り、もうなんともないようだ。
「それにしてもいつあんな技覚えたのよ!」
「んー気の応用でできるかなって思ってやってみたら、意外とうまくいったんだなこれが」
あははとあっけらかんと笑っているが、やろうと思って誰でもできることではない。
改めての凄さと才能にぽかんとする一同であった。
「ったらあまりにも孫くんと居過ぎてノリが似てきたわね……」
ブルマは呆れてこれ以上口を開けなかった。