「おかえりなさい、ご主人様♡」
事件の調査や分析、堅苦しい会議が粗方終わったは現在相澤の家の玄関で(無理矢理)退院した相澤の帰りを待っていた――ミニスカメイドの姿で。
両手が塞がっている相澤の代わりにドアを開けた山田は、の姿を見て固まる相澤の様子に笑いを噛み殺していた。山田との様子から、彼らはグルだとすぐに察知した相澤は近所迷惑も考えずにガンと足で蹴って乱暴に扉を閉めた。扉の向こうからなんで?!との声が聞こえたが、相澤の台詞である。それからがそっと扉を開けて言い放った言葉についに山田が声をあげて笑い出した。正直山田の声は公害以外のなにものでもない。
「やっぱりスク水の方がよかった……?」
どうもはこの間から相澤の性癖を履き違えている節がある。
No13
「はい、あ~ん♡」
相澤の眉間の皺は普段の3倍ほど深く刻まれていた。
いくら日常的に合理主義を極めた食事(という名のカロメとウイダー)を摂取している相澤でも、と山田で作った唐揚げとポテトサラダに味噌汁はどれもおいしそうに見える。そう――問題は献立ではなく、両腕を怪我している相澤の為にが代わりにご飯を食べさせるという行為にあった。
「いちいちこんな非合理な食い方してられん。ウイダーでも持ってこい」
「こんな献身的なメイドが食べさせてくれるのに文句言わない!」
「お前……献身的なんて難しい言葉わかるんだな……」
「っぷ……確かに!」
「消太くんもひざしくんもひどい! 犠牲なき献身こそ真の奉仕ってあのナイチンゲールが言ってるんだから!」
「おお、が賢そうなこと言ってやがる」
「えへっひざしくんもっと褒めていいよって、ちがーう!!」
「っち、いくらでも誤魔化されなかったか……」
「しっかりノリツッコミはしてるけどな」
結局に根負けした相澤は半ば無理くり口にねじ込まれて食事を終え、食後はとお揃いの(相澤が使うにしては大分ラブリーな)ネコちゃんマグカップでコーヒーを飲んでいた。相澤をお世話し隊のが口移しで飲ませてあげると提案したが、ストロー持ってこいと一蹴されるだけであった。
「じゃ、ご飯も食べたし……消太くん、脱いで♡」
「あ?」
頭のねじが緩いのは承知していたが、これほど重症だとは――相澤はの発言の意図が読み取れず、惜しげもなく怪訝な態度を露わにした。
「それじゃひとりでお風呂入れないでしょ? だから私が手伝ってア・ゲ・ル♡」
「よかったなー、現役女子高生にご奉仕してもらえて」
「その言い方やめろ変態……っぅお!」
まともに動けない相澤をひん剥いてやろうと馬乗りになると、目をランランにギラつかせたが妖しく笑う。
「うふふ、私にすべて委ねてれば天国に連れてったげるよ」
「おい、「だぁいじょーぶ、陰部洗浄までぜぇーんぶ丁寧にやるから安心して」
しかしと長い年月付き合いがあり、意外と他人の機微に敏感で鋭い観察眼持つ相澤は、わきわきと厭らしく動かすの手が震えているのに気がついた。
「落ち着け。俺はここにいる。ちゃんと生きてるから」
「っっ!!?」
はじめから気づくべきだったのだ。いつもよりも高いテンション、不自然なほどひっきりなしに浮かべる笑顔――それがの強がりだってことに。
「USJでっ、消太くん倒れてて……っ死んじゃったら、……ど、しよって、……っ!」
相澤の顔に生温い雫が落ちてきた。
「勝手に殺すな」
「また、っ私の前か、ら……ふっ、大事な人、がっ! いなくなっちゃう、って思ったらひっく……も、無茶なことっしないでよ、ねっ!?」
「……プロはいつだって命懸け。そんな約束できないのはお前もわかっているはずだ」
いつだったか似たような台詞を八木の口から聞いたことがある。相澤と八木はお互いウマが合わないと認識しているが、ふたりをよく知るはただの同族嫌悪なのではないかと踏んでいた。合理性を突き詰める相澤と、その合理性をぶち壊していくオールマイト――まったく真逆なふたりではあるが、根本的には自己犠牲精神を持つプロヒーローで、優しさを持っているのは共通している。ただ相澤の優しさはわかりづらいし、が涙を見せようとも甘い言葉は掛けずに現実を口にするが、それが相澤の優しさだとは理解していた。
「うぅ~……ちょっと顔洗ってくる!」
昨日も散々八木の胸で泣いたというのに一度出た涙は引っ込みがつかなかった。仕方なく洗面所で顔を洗うことにしたが相澤と山田のいる部屋を一旦離れると、相澤がぽつりと呟いた。
「お前……わかっててに好きにさせてたな……」
「、昨日久しぶりに過呼吸起こしたんだってよ。こうでもしねえと俺たちのプリンセスは素直に吐き出さないだろ」
「ったく、世話のかかる奴だ」
「そんな奴の世話焼くの嫌いじゃねーくせに! 素直じゃないなあ、ショータくんは!」
「……黙れ」
こうして健気な男たちはが目を腫らさぬよう、ホットタオルの準備に取り掛かるのであった。