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作品ID:1589
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永遠の終わりを待ち続けてる

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


残酷な定め

前の話 目次 次の話

遠い昔、異変に最初に気付いたのは、四季が丁度、百週目を迎えようかという頃だった。シエルリーデは先ず、儀式によって与えられたはずの、ヴァンパイアとしての身体能力を徐々に失っていった。

 ヴィルフリートの城の建つ静かな森の木々の間を駆け巡り、他愛もない鬼ごっこをして大木の枝を飛び回る能力を。森に面して広がる美しい湖畔を自由自在に泳ぎ遊ぶ能力を。


 突然降り掛かった謎の現象は、やがて、ヴァンパイアとしての身体能力だけに留まらないものまで浸食していった。人が余裕で歩けるはずの速度で歩行することが困難になった。

 人が普通に聞き取れるような音を聞き取ることが、人が普通に生活するように生活を送ることが、人が普通に視界に映せる範囲の景色を見ることが……。

 突然の身体の変化に戸惑うヴィルフリートとウィリアム、そしてシエルリーデ。誰にも何も解らなかった。どうすることも出来ないまま、シエルリーデは自室で暮らす日々を確実に増やしていったのだ。





「それでは、lamiaのお二人で、『また一年が……』です!」

 テレビから聞こえた声に、何気なく視線を向けて、綾袮(あみ)はテレビの中に映る少年の姿に釘付けになった。
それは、とても綺麗な少年だった。まるで、西洋人形のような……。
 グランドピアノの前に腰掛ける、少年にしては珍しい切り揃え方をされたシルバーグレーの髪と、翡翠の瞳を持つ、綾袮と同じ年頃の少年。

 けれど、綾袮が心と視線を釘付けにされたのは、少年の瞳がまるで、『哀しい・寂しい』と訴えているように見えてしまったからだ。
そんな綾袮の心を他所に、テレビの中で少年が己のピアノとパートナーのヴァイオリンの音色に合わせて歌を紡ぎ出す。


『遥か昔に逝ったボクの可愛い子、ボクの声はもう聞こえない? ボクは君を待ち続けてるよ、君を待ち続けてここにいるんだよ。
 巡り行く時計の針が零してゆく砂の音が、どれだけボクを絶望させても。時間の砂がどれだけ流れても。
 キミが「もう一度生まれて来る」と言ったから、「何度だって生まれて来る」と言ったから……。ボクを一人にしてはいかないと、約束してキミは逝ったから…………』


 ステージからスタジオのセットへと移動して、姿を見せた少年と青年の二人組に、女性司会者がマイクを向け語りかけている。けれど、女性司会者の賛辞の言葉に対し、少年が返した言葉は冷えたもので……。


「人の生など一瞬の煌めきにすぎないと知ってしまっているぼく達からすれば、人々の歌を紡ごうとすればどうしてもそうなりますから。現に、ぼくのあの子も逝ってしまった。
 ぼくが紡ぐ歌はあの子に届くことを祈ってのものですから、大きな矛盾と言えば矛盾なんですけれどね。それにしたって、人間の命というものはあまりに儚くて、いっそ滑稽だ。なのに、眩くて堪らない……」



 喫茶店の一角で、カウンターに備え付けられたテレビに釘付けにされていた綾袮は、少し拗ねたような態度で自分を覗き込む瞳に思わず仰け反り返って、それからようやく自分が一人ではないことを思い出す。  

 やってしまった……と、反省した。初めての合コンだったのに……。といっても、綾袮は高校一年生だ。大学生のお姉さまお兄さま方がするような、アルコールを飲むような場では勿論ない。

 第一、綾袮の学校はそれなりに厳しいカトリック系ミッションスクール、いわゆる厳格な女子高だ。それも、それなりに良家の子女が集まる学校で、そんなことをするような子はいないと言っていい。

 このお昼間の健全な? 喫茶店での合コンでさえ、誘ってくれたのはクラスの変わり者というか、少し背伸びしたグループの友人で、友人の誘いを無下に断るわけにもいかず、ここにいるのだけれど……。

 今日のこの集まりが合コンという言葉に値するものであることは他言無用よ、と、誘ってくれた友人からも、グループ達からも、綾袮は固く口止めされている。シスターの耳に入ればどうなることか……。


「千年(ちとせ)さんさぁ、初顔合わせの最中に、オレが必死に話しかけてるのに、オレんことガン無視で、テレビの中って言えど他の男に夢中って、流石にキッツイよ? オレ、そんなにつまんない?」
 不貞腐れたような言葉を告げられて、綾袮は慌てて首を振った。


「ご、ごめんなさい!! そういうわけじゃないの! とっても綺麗なピアノとヴァイオリンの音色が聞こえてきたから……」
 慌てふためく綾袮に隣に座る友人が快活な笑い声を上げる。
「アハハ。出たわね、綾袮の音楽狂い! おかしな子でしょう? ピアノとかヴァイオリンとか聞こえちゃうと、シスターの授業中でもこれなのよ。そこにフルートなんかも聞こえちゃうと、もう大変!!
 でも、普段の綾袮が、大人しやかな優等生っていうのを体現したような、うちの学校の先生方の理想像みたいな子だったりするんだもの。
鬼教師って呼ばれてる先生やシスターでも、綾袮の音楽トリップに関しては、見逃して下さるのよね。まぁ、普段の行いって言われればそれまでなんだけれど」
 友人の言葉に、綾袮は真っ赤になって固まった。


「ちょ、ちょっと!! そこまで言わなくてもいいじゃない!」
「でも事実じゃない?」
「そうねぇ、綾袮の音楽トリップ、知らない人いないもの」
 他の友人たちにまで同調されて、綾袮はますます縮こまった。そこに、先程は不貞腐れたような声を出していた男子が面白そうな声を上げる。
「へぇ? 千年さんって、そんなに音楽好きなんだ」

 綾袮に面白そうな視線を向けているのは、先程の男子。勿論、厳格な女子校に通う綾袮とは違う学校に通う他校の男子生徒である。
 そんな男子生徒の様子を面白がったように、友人が要らぬことを吹き込んでくれるから、綾袮はもう恥ずかしさで顔が上げられなかった。


「そんなものじゃないわよ。綾袮の二つ名教えてあげましょうか? 綾袮ってヴァイオリンこそ弾かないけど、凄く綺麗な歌声の持ち主だし、ピアノの腕も相当だし、部活動ではフルートも演奏するのよね。
 それで、いつの間にか広まっちゃったあだ名と言ったら、傑作なんだから! 『聖母に愛された妙なる調べを紡ぐ音色の天使』!! まぁ、普段は『天使ちゃん』って呼ばれてるんだけどね」







 突然の身体の変化に戸惑うヴィルフリートとウィリアム、そしてシエルリーデ。誰にも何も解らないまま、どうすることも出来ないまま、シエルリーデは自室で暮らす日々を確実に増やしていく日々。

 そこに現れたのは、シエルリーデの腹違いの姉の孫を名乗る少年だった。シエルリーデの家は当時とても複雑で、シエルリーデにはルーシアという名の勝気な性格をした腹違いの姉がいた。

 シエルリーデがヴィルフリートの手を取ることに背中を押し、協力してくれた人物で、養子に出されていたルーシアの養親とルーシアだけが、突如と姿を消したシエルリーデの本当の消息を知る人物だった。


 エルフリッドと名乗る少年は、ヴィルフリートに向かって、ウィリアムに向かって、シエルリーデがヴァンパイアの身体能力を失くしてはいないか、と、そう問うた。

 もしや、それに留まらず、既に人としての身体能力でさえ失っていはしないだろうか、と。そう、告げた。何かを知っているのかと問い質したヴィルフリートとウィリアム、そしてシエルリーデに突き付けられた言葉は、とてもとても悲しみに満ちていて、とてもとても残酷なものだった。


 シエルリーデが家を捨てた後も、ルディエット家は聖なる家系として、ヴァンパイアハンターを生業としていた。その中で、ルディエットに通ずる情報の情報の内から、ここ数年前に亡くなった祖母が気付いてしまったことがある、と。そして、祖母はそれを孫のエルフリッドに託したのだと。


 ヴァンパイアハンターは、銀の弾丸を込めた特製の短銃と銀のナイフといった一般的な武器と共に、血清と呼ばれる特殊な武器を持ち歩く。それは最大の武器であり、また、自分自身を守るためのもの。

 祝福を受けた水と己の血をかけ合わせたそれは、万が一、襲撃、つまり血を狙われてしまったとき、応急手当として用いる。己の吸血鬼化を防ぐためのモノだ。

 本来、ただ単に血を吸われただけでは、吸血鬼化はしないとされていた。けれど、例外がある。それは、とても力の強いヴァンパイアが、暗示を込めた血を送り込んだときだ。その事態に備え、ルディエットの者は通常の武器と共に、血清を持ち歩く。

 当然、ルディエットの姫として育ったハンターであったシエルリーデも、ヴィルフリートに出逢う以前は欠かさず持ち歩いていて、ヴィルフリートの手を取ることを宣言したそのときに破棄していた。



 エルフリッドは告げた。祖母が気付いたのは、ルディエットのハンター達が、一定の回数を越えて血清を使ってしまったとき、血清が既に機能しなくなっていること。

 それを、ルディエットの家が必死で隠し通していること。一定の回数を越えて血清を使ってしまったとき、何らかの理由でそれは既に作用しなくなる。
 その事に気付いた祖母は、遥か昔に袂を別った妹の存在を思い出し、もしもの可能性に思い当って、嫌な胸騒ぎをどうしても抑えられず、孫のエルフリッドに宛てた遺書を残した。



 シエルリーデはヴィルフリートに出逢うまで、ルディエットの家の中でも一番に働きを求められた少女だ。当然、血清を使う機会とて幾度か持ち合わせたはず。

 そして、ルディエットの者達に血清が効かなくなってしまった原因が、もしも自分の思い描いたところにあるのならば……。シエルリーデの身体は既に、『死』に向かっているのではないか、と。



 ルーシアは聡明な女性で、養親亡きあと育った村で小さな診療所を開いて、人々の病を治すことを生業としていた。病と触れ合う内、ルーシアは気付いたのだ。

 一度かかった病に幾度も繰り返しかかる内に、人々はいつしか自然に自分の力で身体を癒すことを、身体で学び始める。まるで、病を跳ね除ける術を自然と覚えていくように……。



 ならば、ルディエットの者達が陥った状況は、同じものとは考えられないだろうか? 血清という、ある種の毒と同じものを身体に打つ内に、身体は血清を跳ね除けることを覚えてしまった。

 では逆に、全く同じで全く逆さまな事が、妹の身に降りかかってはいないだろうか? 幾度か繰り返された暗示の血を跳ね除けるために使われたはずの血清。
 
 けれど、ルディエットの者達とは逆に、暗示の血を幾度か跳ね除けることを、覚えさせてしまったがゆえに、シエルリーデの身体は既に普通にヴィルフリートの儀式と血を受け入れられる身体では無くなってしまってはいないだろうか? 



 エルフリッドの言葉に、ヴィルフリートもウィリアムも、そしてシエルリーデも。ただ、言葉を失くして聞き入ることしか出来なかった。その、あまりにも残酷なルーシアの予測を。

 シエルリーデの身体が示し始めた異変は、エルフリッドの言葉やルーシアの予想を否定するには、あまりにも、ルーシアの思い描いた通りの症状を指し示していて……。



 ――――けれど、何より残酷だったのは、既に『死』へと歩み始めたシエルリーデの身体の異変を止める術を、ヴィルフリートやウィリアムは勿論、ルーシアでさえ持ち合わせはしなかったことだった。

後書き


作者:未彩
投稿日:2015/11/18 22:17
更新日:2015/11/18 22:17
『永遠の終わりを待ち続けてる』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。

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作品ID:1589
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