作品ID:1594
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永遠の終わりを待ち続けてる
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
lamiaの花嫁
前の話 | 目次 | 次の話 |
スタジオのセットの上、いつもと同じく女性司会者がlamiaに向かってマイクを向ける。しかし、女性司会者の瞳はいつになく輝いていて、視線はルヴィスとエディルではない人物に向けられていた。
「lamiaの御二人、あ、いえ、『彼女』を含めて、御三方とお呼びするべきですね。それでは改めて、御紹介願えますでしょうか? 御二人の『花嫁』を!!」
いささか興奮気味に向けられたマイクに、ルヴィスとエディルが応じる。
「ええ、御紹介します。この数百年を探し続けたぼくの花嫁を。ですが、皆さんにご説明した通り、ぼくの花嫁はぼくの記憶を失くして生まれてきています。彼女にマイクを向けるのはご遠慮願いたい」
「ルヴィスの探し続けた恋人、『ポーザ』です。『フィーポーザ・イリア』というのが、本当の彼女の名前なんですけれどね。ルヴィスの言葉通り、ポーザは全ての記憶を失くしてしまっているので」
二人の言葉に、女性司会者が二人の隣に静かに立つ少女を見ながら、先に制されてしまったマイクを向けることは諦め、再び二人へと向ける。
「御二人がステージの上に彼女を連れ出されたのには、そうしたことと関係していらっしゃるんでしょうか? ポーザさんが記憶を失くされていることに?」
司会者の言葉に、ルヴィスが陰りの色を瞳に映す。
「ポーザはぼくに関する全ての記憶を失くしてしまった。ぼくに関する記憶をなにも持ち合わせずに生まれたポーザ。同時に、いつしか僕のポーザは、何処か人形のような子になってしまっていた。
ぼくはぼくのメロディーや色々な風景を見せることで、ポーザの心を取り戻したいのです。ですから、ポーザにとっては意味のないことかもしれないとも知りながら、一番近い場所でぼくの音を聞いて欲しい」
ルヴィスの言葉を、女性司会者はチャンスだと思ったのかもしれない。今なら、lamiaの特ダネを掴めるかもしれないと野心を覗かせ、エディルにマイクを向けた。
「あの、素朴な疑問なんですけれど、今、ルヴィスさんが仰ったことには少し矛盾があるかと……」
女性司会者の言葉に、エディルは黙って瞳で疑問を促す。そんなエディルの態度を、失態を犯したゆえのものと勘違いしたらしい。彼女はニコニコと笑いながら、獲物をみつけたような視線で言葉を続ける。
「lamiaの御二人は永遠を生きるヴァンパイアでいらっしゃるはずですよね? なのに、ポーザさんは御二人の記憶を持たずに生まれて来られたとルヴィスさんが仰っていましたけれど……。
永遠を生きてきたはずのポーザさんが、何故、二回も生まれていらっしゃることになるんでしょうか? lamiaの御二人が、自分達は永遠を生きると仰っていたことは…………」
「……黙れ。言わせておけば、人間風情が調子に乗るな。貴女は勘違いしていらっしゃるようだ。我々が本気になれば、貴女の喉笛など一噛みで食い千切ってしまえることをお忘れにならぬ方がいい」
調子付いた司会者は自分の持つマイクに向かって饒舌に続けようとしたが、それはエディルの言葉で遮られた。静かなはずのエディルの声は何処までも低く怒気をはらんで響き渡って……。
「貴方も御承知の通り、普段から貴女方をあんまり怖がらせるもんじゃないって、いつも苦言を呈するのはエディルの方なんだけどね。そのエディルをあまり怒らせない方がいいよ。
それから、貴女の言葉はぼくにとっても不愉快だ。ポーザがぼくらと同じくヴァンパイアだと、ぼくは一度でも言ったかい? 貴女はlamiaの何を聞いてこられたんだろうね。
遥か昔にぼくの愛した女の子は、正真正銘、人間の女の子だった。だからこそ、ぼくらは別離を体験しなければいけなかったし、ぼくは彼女が生まれ変わって来ることを待ち続けていたのだけれど?」
低い怒気をはらんだ声音に、それまでの調子を嘘のように崩した女性司会者は、ルヴィスから冷めきった蔑みの視線を送られ、身体を震わせた。
「す、すみませんでした」
「……無茶苦茶だわ」
控室で呟いたのは、『ポーザ』だ。
「そう? なにが?」
返された声に彼女は肩を震わせて大きく叫んだ。
「『そう? なにが?』じゃないわよっ!! 貴方達のやっていること全てが無茶苦茶よっ!! どうしてわたしがステージの上に立たされることになるのよっ!?」
漆黒の花嫁人形といった体の衣装に身を包んだままの綾袮が、信じられないと言った顔でヴィルフリートに詰め寄って来る。だが、ヴィルフリートの方は特に気にしていない。
独りで思い詰めて悩む時間は終わらせようと、綾袮が単身ヴィルフリートとウィリアムのところへ乗り込んできて、説明を求めた日に決めた。開き直ってしまえば、ヴィルフリートはそこまで弱くはない。
探し求めた少女は既にヴィルフリートの手の届くところにいる。ならば、ヴィルフリートに何を恐れる必要があるだろうか。
「だってこれが一番早いだろう? 僕らには時間が必要だって、それは綾袮、キミだって納得していたよね? だけど、僕らの最初の提案を退けたのはキミだよ?
僕らのマンションで共に過ごすことは出来ないって言うなら、ステージにいる時間を使えるように、lamiaの公式花嫁にしてしまうのが一番手っ取り早いし、それぐらいしかないじゃないか」
ヴィルフリートの言葉に、綾袮が噛み付くように叫んだ。
「とんでもないことをさらっと言ってのけるのはやめて頂きたいわっ!! 貴方、わたしに向かって最初に提案なさった言葉を覚えてらっしゃる? 『僕達のマンションで暫く暮らそう』って、そう仰ったのよ?
何処にそんな提案を受け入れられる余地があって!? 年頃の女の子が男性だけのマンションでなんて暮らせるわけがないでしょうって、わたしが言った後の次の提案はっ!?
『マンションが無理なら城ならいいの? キミがいいなら領地の城に連れて帰るけど……。それなら早速手配させるよ、使用人達も随分昔に解雇したからね。新たに雇い入れる必要もあるし』
どこをどうしたら、肯けてっ!? 殆んど人攫いの発想だわっ!! 第一、城って何よ、城って!! わたしは現代日本に生まれた、ちょっと裕福な御屋敷のお嬢様であって、中世時代のお姫様ではないのっ!」
綾袮の言葉を右から左に流したまま、昔の面影を残したままの少女を微笑ましく見つめていると、ウィリアムの疲れたような声が響く。
「悪いけどね、綾袮。その馬鹿、もう完全に開き直ってるし、きみがどれだけ噛み付いても無駄な労力使うだけだと忠告しとく」
ウィリアムの言葉に、綾袮は矛先をウィリアムに向ける。
「他人事のように言ってのけるのはやめて頂戴っ!! この人の暴走を止めてくださらなかったのは、貴方もですからね!? それから、市井の人々をむやみやたらに脅さないで!!
番組の女性司会者、本気で怯えていらっしゃいましたからねっ!? 貴方達は本当ならとてもじゃないけれど堂々と名乗れるわけではないんですからっ!! ここが現代日本だからこそ許されているのっ!」
綾袮の言葉にヴィルフリートはクスクスと笑った。
「そんなに僕やウィルの身が心配?」
「人の話はきちんと聴いて!! とんでもなく自分にとって都合の良いものへ、人の言葉を勝手に変更させないで頂けるっ!?」
要らないと言い張る綾袮の言葉をサクッと流し、ヴィルフリートが綾袮の自宅へとウィリアムも引き連れて歩いている最中だった。綾袮が裕福な家のお嬢様だというのは、綾袮の自宅の門へと続く塀の広さで、ヴィルフリートもウィリアムも大いに納得した。
この角を曲がれば、門が見えると綾袮が言った、その瞬間、角の向かい側から一人の少女が現れた。少女の姿を見て、綾袮が顔色を変える。
少女は制服を纏っていて、クラスメートかと、当初、ヴィルフリートは考えた。学校を休学している身で、外を歩いて遊んでいるようにみられたかもしれないと、綾袮は顔を強張らせたのかと。
だが、表向き、綾袮は不幸な事故に遭遇し、事故の衝撃によって記憶を失っていて、自分自身の何もかもが解らなくなってショックを受けている綾袮に負荷を与えないためという理由で、綾袮は休学している。
療養の一環で、誰かが外を連れ出して歩かせていても、そこまで問題があるとは思えない。けれど、綾袮は強張ったままの表情を動かさない。
そんなに綾袮が表情を固くしている理由は何かと考えて、ヴィルフリートは少女の顔に見覚えがあることに気が付いた。
ヴィルフリートとウィリアムが本当に最初に綾袮に出逢った日。二人の演じるlamiaのライブ会場に現れた綾袮が、共に連れていた少女だ。確か、識婁と呼んでいた。
彼女に連れ出されて、彼女の言葉で、綾袮はlamiaのライブ会場へ足を運ぶことになったのだ、と。そこまで考えて、ヴィルフリートは同時に思い出す。あの日、識婁が自分達に向けた敵意に満ちた視線を。
どちらにせよ、ウィリアムの暗示によって彼女はその瞬間のことは忘れているのだから、そのこと自体は構わないのだが、lamiaが綾袮と共にいる場面を見られたことは少々厄介だなと、そう、考えていたときだった。固い声が響いた。あの日と同じ、固く強張った、敵意の込められた声が。
「離れなさい、綾袮。その二人は、いいえ、『彼』は、貴女を傷付ける。離れてこちらにいらっしゃい。
綾袮、事情なら、私は小母様から聞き出して、本当のことを知っているわ。どんな口調になっているのであっても貴女は貴女よ。いらっしゃい、綾袮」
「識婁ちゃ……」
思いがけぬ言葉に、ヴィルフリートは眉を寄せた。固まったまま、困惑している綾袮の前に立ちはだかるようにして、進み出たヴィルフリートを、識婁は睨み付けてきた。
あの日、綾袮が説得していたときと同じ、敵意と憎悪に満ちた瞳でヴィルフリートとウィリアムを睨み付ける少女は、暗示によって目覚めた後の少女の視線ではなかった。
「ご挨拶な女の子がいたもんだね。僕は彼女を傷付けることなど……」
「黙りなさい!! 貴方はその子を傷付けるわっ! いいえ、傷付けたっ!! 離れなさい、綾袮!! 姉さまの言うことをお聞きなさいっ!!」
激昂したように言葉を投げ付ける少女の姿に、ヴィルフリートの目に映る綾袮は完全に困惑していた。だが、ヴィルフリートも困惑した。どういうことだ? 彼女は何も知らないはずなのに?
ヴィルフリートが困惑している間に、ヴィルフリートが背中で隠していたはずの綾袮は、ヴィルフリートの前に進み出ていた。
「……ごめんなさい。わたしにとって、識婁ちゃんはとても特別なの。今日は帰って頂ける?」
「綾袮!?」
言葉にしてから、しまったと思ったが、識婁はlamiaのルヴィスが綾袮の名を呼んだことには何ら興味を示さなかった。ヴィルフリートが伸ばした手を振り返ることなく、綾袮は識婁の許へと歩み寄った。
そこには、絶対的な信頼という名の絆が、隠れることなく映し出されていた。識婁に連れられ角の向こうへと消えた綾袮を、ただ立ち尽くしたまま見ていたヴィルフリートの前。
綾袮を玄関の扉の中まで送り届けたと思しき少女が現れた。思わず睨み付けたヴィルフリートに、少女は先程と同じ色の瞳で、否、そこに更に怒りの色を燃やしてヴィルフリートを睨み返してきた。
「あれだけ絶望を与えておきながら、何事もなかったように済ませてもらえるなどとは思わないで。二度と傷付けることは許さない。私は信じてあの子を託したのにね」
「なんのはな……」
ヴィルフリートが続けようとした言葉を、識婁と綾袮が呼ぶ少女はピシャリと遮った。
「今この場でこれ以上話すことはないわ。自分で自分の罪を思い出せばいい。一つだけ言っておくわ、綾袮の両親は確かに多忙を極める二人よ。だけどね、心から綾袮を愛している。
綾袮はここできちんと愛されている。父親からも母親からも愛されている。心の底からね。綾袮の家は決して冷たい家庭でも何でもない。綾袮が幸せを望まれる家」
「lamiaの御二人、あ、いえ、『彼女』を含めて、御三方とお呼びするべきですね。それでは改めて、御紹介願えますでしょうか? 御二人の『花嫁』を!!」
いささか興奮気味に向けられたマイクに、ルヴィスとエディルが応じる。
「ええ、御紹介します。この数百年を探し続けたぼくの花嫁を。ですが、皆さんにご説明した通り、ぼくの花嫁はぼくの記憶を失くして生まれてきています。彼女にマイクを向けるのはご遠慮願いたい」
「ルヴィスの探し続けた恋人、『ポーザ』です。『フィーポーザ・イリア』というのが、本当の彼女の名前なんですけれどね。ルヴィスの言葉通り、ポーザは全ての記憶を失くしてしまっているので」
二人の言葉に、女性司会者が二人の隣に静かに立つ少女を見ながら、先に制されてしまったマイクを向けることは諦め、再び二人へと向ける。
「御二人がステージの上に彼女を連れ出されたのには、そうしたことと関係していらっしゃるんでしょうか? ポーザさんが記憶を失くされていることに?」
司会者の言葉に、ルヴィスが陰りの色を瞳に映す。
「ポーザはぼくに関する全ての記憶を失くしてしまった。ぼくに関する記憶をなにも持ち合わせずに生まれたポーザ。同時に、いつしか僕のポーザは、何処か人形のような子になってしまっていた。
ぼくはぼくのメロディーや色々な風景を見せることで、ポーザの心を取り戻したいのです。ですから、ポーザにとっては意味のないことかもしれないとも知りながら、一番近い場所でぼくの音を聞いて欲しい」
ルヴィスの言葉を、女性司会者はチャンスだと思ったのかもしれない。今なら、lamiaの特ダネを掴めるかもしれないと野心を覗かせ、エディルにマイクを向けた。
「あの、素朴な疑問なんですけれど、今、ルヴィスさんが仰ったことには少し矛盾があるかと……」
女性司会者の言葉に、エディルは黙って瞳で疑問を促す。そんなエディルの態度を、失態を犯したゆえのものと勘違いしたらしい。彼女はニコニコと笑いながら、獲物をみつけたような視線で言葉を続ける。
「lamiaの御二人は永遠を生きるヴァンパイアでいらっしゃるはずですよね? なのに、ポーザさんは御二人の記憶を持たずに生まれて来られたとルヴィスさんが仰っていましたけれど……。
永遠を生きてきたはずのポーザさんが、何故、二回も生まれていらっしゃることになるんでしょうか? lamiaの御二人が、自分達は永遠を生きると仰っていたことは…………」
「……黙れ。言わせておけば、人間風情が調子に乗るな。貴女は勘違いしていらっしゃるようだ。我々が本気になれば、貴女の喉笛など一噛みで食い千切ってしまえることをお忘れにならぬ方がいい」
調子付いた司会者は自分の持つマイクに向かって饒舌に続けようとしたが、それはエディルの言葉で遮られた。静かなはずのエディルの声は何処までも低く怒気をはらんで響き渡って……。
「貴方も御承知の通り、普段から貴女方をあんまり怖がらせるもんじゃないって、いつも苦言を呈するのはエディルの方なんだけどね。そのエディルをあまり怒らせない方がいいよ。
それから、貴女の言葉はぼくにとっても不愉快だ。ポーザがぼくらと同じくヴァンパイアだと、ぼくは一度でも言ったかい? 貴女はlamiaの何を聞いてこられたんだろうね。
遥か昔にぼくの愛した女の子は、正真正銘、人間の女の子だった。だからこそ、ぼくらは別離を体験しなければいけなかったし、ぼくは彼女が生まれ変わって来ることを待ち続けていたのだけれど?」
低い怒気をはらんだ声音に、それまでの調子を嘘のように崩した女性司会者は、ルヴィスから冷めきった蔑みの視線を送られ、身体を震わせた。
「す、すみませんでした」
「……無茶苦茶だわ」
控室で呟いたのは、『ポーザ』だ。
「そう? なにが?」
返された声に彼女は肩を震わせて大きく叫んだ。
「『そう? なにが?』じゃないわよっ!! 貴方達のやっていること全てが無茶苦茶よっ!! どうしてわたしがステージの上に立たされることになるのよっ!?」
漆黒の花嫁人形といった体の衣装に身を包んだままの綾袮が、信じられないと言った顔でヴィルフリートに詰め寄って来る。だが、ヴィルフリートの方は特に気にしていない。
独りで思い詰めて悩む時間は終わらせようと、綾袮が単身ヴィルフリートとウィリアムのところへ乗り込んできて、説明を求めた日に決めた。開き直ってしまえば、ヴィルフリートはそこまで弱くはない。
探し求めた少女は既にヴィルフリートの手の届くところにいる。ならば、ヴィルフリートに何を恐れる必要があるだろうか。
「だってこれが一番早いだろう? 僕らには時間が必要だって、それは綾袮、キミだって納得していたよね? だけど、僕らの最初の提案を退けたのはキミだよ?
僕らのマンションで共に過ごすことは出来ないって言うなら、ステージにいる時間を使えるように、lamiaの公式花嫁にしてしまうのが一番手っ取り早いし、それぐらいしかないじゃないか」
ヴィルフリートの言葉に、綾袮が噛み付くように叫んだ。
「とんでもないことをさらっと言ってのけるのはやめて頂きたいわっ!! 貴方、わたしに向かって最初に提案なさった言葉を覚えてらっしゃる? 『僕達のマンションで暫く暮らそう』って、そう仰ったのよ?
何処にそんな提案を受け入れられる余地があって!? 年頃の女の子が男性だけのマンションでなんて暮らせるわけがないでしょうって、わたしが言った後の次の提案はっ!?
『マンションが無理なら城ならいいの? キミがいいなら領地の城に連れて帰るけど……。それなら早速手配させるよ、使用人達も随分昔に解雇したからね。新たに雇い入れる必要もあるし』
どこをどうしたら、肯けてっ!? 殆んど人攫いの発想だわっ!! 第一、城って何よ、城って!! わたしは現代日本に生まれた、ちょっと裕福な御屋敷のお嬢様であって、中世時代のお姫様ではないのっ!」
綾袮の言葉を右から左に流したまま、昔の面影を残したままの少女を微笑ましく見つめていると、ウィリアムの疲れたような声が響く。
「悪いけどね、綾袮。その馬鹿、もう完全に開き直ってるし、きみがどれだけ噛み付いても無駄な労力使うだけだと忠告しとく」
ウィリアムの言葉に、綾袮は矛先をウィリアムに向ける。
「他人事のように言ってのけるのはやめて頂戴っ!! この人の暴走を止めてくださらなかったのは、貴方もですからね!? それから、市井の人々をむやみやたらに脅さないで!!
番組の女性司会者、本気で怯えていらっしゃいましたからねっ!? 貴方達は本当ならとてもじゃないけれど堂々と名乗れるわけではないんですからっ!! ここが現代日本だからこそ許されているのっ!」
綾袮の言葉にヴィルフリートはクスクスと笑った。
「そんなに僕やウィルの身が心配?」
「人の話はきちんと聴いて!! とんでもなく自分にとって都合の良いものへ、人の言葉を勝手に変更させないで頂けるっ!?」
要らないと言い張る綾袮の言葉をサクッと流し、ヴィルフリートが綾袮の自宅へとウィリアムも引き連れて歩いている最中だった。綾袮が裕福な家のお嬢様だというのは、綾袮の自宅の門へと続く塀の広さで、ヴィルフリートもウィリアムも大いに納得した。
この角を曲がれば、門が見えると綾袮が言った、その瞬間、角の向かい側から一人の少女が現れた。少女の姿を見て、綾袮が顔色を変える。
少女は制服を纏っていて、クラスメートかと、当初、ヴィルフリートは考えた。学校を休学している身で、外を歩いて遊んでいるようにみられたかもしれないと、綾袮は顔を強張らせたのかと。
だが、表向き、綾袮は不幸な事故に遭遇し、事故の衝撃によって記憶を失っていて、自分自身の何もかもが解らなくなってショックを受けている綾袮に負荷を与えないためという理由で、綾袮は休学している。
療養の一環で、誰かが外を連れ出して歩かせていても、そこまで問題があるとは思えない。けれど、綾袮は強張ったままの表情を動かさない。
そんなに綾袮が表情を固くしている理由は何かと考えて、ヴィルフリートは少女の顔に見覚えがあることに気が付いた。
ヴィルフリートとウィリアムが本当に最初に綾袮に出逢った日。二人の演じるlamiaのライブ会場に現れた綾袮が、共に連れていた少女だ。確か、識婁と呼んでいた。
彼女に連れ出されて、彼女の言葉で、綾袮はlamiaのライブ会場へ足を運ぶことになったのだ、と。そこまで考えて、ヴィルフリートは同時に思い出す。あの日、識婁が自分達に向けた敵意に満ちた視線を。
どちらにせよ、ウィリアムの暗示によって彼女はその瞬間のことは忘れているのだから、そのこと自体は構わないのだが、lamiaが綾袮と共にいる場面を見られたことは少々厄介だなと、そう、考えていたときだった。固い声が響いた。あの日と同じ、固く強張った、敵意の込められた声が。
「離れなさい、綾袮。その二人は、いいえ、『彼』は、貴女を傷付ける。離れてこちらにいらっしゃい。
綾袮、事情なら、私は小母様から聞き出して、本当のことを知っているわ。どんな口調になっているのであっても貴女は貴女よ。いらっしゃい、綾袮」
「識婁ちゃ……」
思いがけぬ言葉に、ヴィルフリートは眉を寄せた。固まったまま、困惑している綾袮の前に立ちはだかるようにして、進み出たヴィルフリートを、識婁は睨み付けてきた。
あの日、綾袮が説得していたときと同じ、敵意と憎悪に満ちた瞳でヴィルフリートとウィリアムを睨み付ける少女は、暗示によって目覚めた後の少女の視線ではなかった。
「ご挨拶な女の子がいたもんだね。僕は彼女を傷付けることなど……」
「黙りなさい!! 貴方はその子を傷付けるわっ! いいえ、傷付けたっ!! 離れなさい、綾袮!! 姉さまの言うことをお聞きなさいっ!!」
激昂したように言葉を投げ付ける少女の姿に、ヴィルフリートの目に映る綾袮は完全に困惑していた。だが、ヴィルフリートも困惑した。どういうことだ? 彼女は何も知らないはずなのに?
ヴィルフリートが困惑している間に、ヴィルフリートが背中で隠していたはずの綾袮は、ヴィルフリートの前に進み出ていた。
「……ごめんなさい。わたしにとって、識婁ちゃんはとても特別なの。今日は帰って頂ける?」
「綾袮!?」
言葉にしてから、しまったと思ったが、識婁はlamiaのルヴィスが綾袮の名を呼んだことには何ら興味を示さなかった。ヴィルフリートが伸ばした手を振り返ることなく、綾袮は識婁の許へと歩み寄った。
そこには、絶対的な信頼という名の絆が、隠れることなく映し出されていた。識婁に連れられ角の向こうへと消えた綾袮を、ただ立ち尽くしたまま見ていたヴィルフリートの前。
綾袮を玄関の扉の中まで送り届けたと思しき少女が現れた。思わず睨み付けたヴィルフリートに、少女は先程と同じ色の瞳で、否、そこに更に怒りの色を燃やしてヴィルフリートを睨み返してきた。
「あれだけ絶望を与えておきながら、何事もなかったように済ませてもらえるなどとは思わないで。二度と傷付けることは許さない。私は信じてあの子を託したのにね」
「なんのはな……」
ヴィルフリートが続けようとした言葉を、識婁と綾袮が呼ぶ少女はピシャリと遮った。
「今この場でこれ以上話すことはないわ。自分で自分の罪を思い出せばいい。一つだけ言っておくわ、綾袮の両親は確かに多忙を極める二人よ。だけどね、心から綾袮を愛している。
綾袮はここできちんと愛されている。父親からも母親からも愛されている。心の底からね。綾袮の家は決して冷たい家庭でも何でもない。綾袮が幸せを望まれる家」
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2015/11/18 22:31 更新日:2015/11/18 22:31 『永遠の終わりを待ち続けてる』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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