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永遠の終わりを待ち続けてる
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
私に気付いて、売らないで
前の話 | 目次 | 次の話 |
綾袮が目覚めたとき、そこは自室のベッドだった。起き上がろうとして、優しい声に止められる。
「急に貧血を起こしたんだよ。もう少し寝ておいで、リーデ」
声の方向に視線をやると、シルバーグレーの髪に翡翠の瞳という神秘的な容姿の綺麗な少年が、優しげな微笑みを浮かべて、ベッドの横に置いたチェアーに腰掛けていた。その隣にも誰かがいる。
瞳を凝らすと、襟足で伸ばされたオレンジブラウンの髪とキャラメル色の瞳の、これまた特徴的な面立ちをした青年だ。ベッドの鈴を取ろうと起き上がろうとすると、少年が手を差し出したので、綾袮は怯えて大きく叫び声をあげた。
「いやっ!! 触らないでっ!? 誰か、誰か、来てっ!! 知らない人が入り込んでるっ!! いやっ、誰か、聞こえないのっ!!? 識婁ちゃん!! 誰かぁっ~!!」
優しげな少年だとは思うけれど、知らない少年と青年。見知らぬ男性二人にいきなりベッドの横に陣取られていて、何も思わずにいられるほどには綾袮は幼くはないのだ。
綾袮の言葉を聞いて、少年と青年が何故か顔色を変えた。変な人達だと綾袮は思う。唐突に見知らぬ人にベッド脇に立たれて、それも男性に立たれていて、女の子が怯えないはずがないと解らないのだろうか。綾袮の叫び声を聞き付けてくれたのか、識婁が乱暴に扉を開いて入って来た。
「綾袮、どうしたの!?」
「識婁ちゃん、変な人達が部屋に入り込んでるのっ!! いやっ、なに、っだれ!?」
混乱しきって叫ぶ綾袮に、識婁が優しく囁く。
「大丈夫だから落ち着いて綾袮。だいじょう……」
部屋の騒ぎに使用人達も駆け込んできて、綾袮はますます混乱した。中年の男性使用人の一人が、綾袮に向かって手を差し出そうとした。
「いやっ、いやよっ、いやぁっ!! その人達を遠ざけて!! いやっ、いやぁっ!! いやっ、イヤよっ、Saya menjual!! Saya memperhatikan!!」
「綾袮、大丈夫。綾袮、Hei, Semua kanan!! Menemukan Tara!?」
ヴィルフリートは茫然と立ち尽くしていることしか出来なかった。それは、ウィリアムも同じだったらしい。そんなヴィルフリートに、識婁が怒鳴り付けた。
「出てって!! 綾袮は今、普通じゃないってわかるでしょう!? 今直ぐ出ていってっ!!」
先程の騒ぎは……。綾袮の言葉はなんだったのだろうと……。ヴィルフリートは、綾袮の屋敷の塀にもたれて崩れていた。テレビ局の控室で気を失う前の綾袮は確かにシエルリーデの記憶を取り戻していた。
遠い昔のリーデの表情で、リーデの悪戯心で、リーデの言葉で。ヴィルフリートとウィリアムを驚かせ、自分の記憶は戻ったのだと告げていたのに…………。
目覚めた綾袮は、ヴィルフリートとウィリアムを指して、『知らない人が入り込んでいる』と言った。それは、綾袮はリーデの記憶を再び失い、それどころか、ライブ会場で出逢ったあの日から、今日までの記憶まで。その全てを一気に失くしてしまったということだろうか。
どうしてそんなことが起こった? それに、綾袮の台詞はなんだ? その人達を遠ざけてと叫んで混乱しきっていた綾袮が、使用人が差し出した手に叫んだ言葉はインドのものだった。
インドの言葉で、『あたしを売らないで、あたしに気付いて』と、そう、叫んでいた。そこまで考えて、ヴィルフリートは青褪めた。
綾袮が綾袮としてヴィルフリートやウィリアムと出逢った日、ウィリアムの暗示にかからなかった綾袮は単身乗り込んできて、その中で叫んだことがある。
ヴィルフリートを傷付けるなと何故言うのだっ!? あれは、綾袮の中に眠るリーデの声に対するものだったろう。けれど次に綾袮は叫んでいた。
『彼は気付かなかった』と。『貴女であるアナタの手を振り解いたのにっ!!』と。それは、先程の綾袮の言葉と態度に繋がりはしないだろうか?
――――綾袮は……シエルリーデは、『千年綾袮』として生まれてくる前に。他の場所で生まれてはいないだろうか?
それも、そのときの綾袮は、いや、シエルリーデは、何かがあって、ヴィルフリートの手を必要としていた。ヴィルフリートに助けを求めるようなことになっていた。
つまり、ヴィルフリートは綾袮ではないシエルリーデの生まれ変わりに出逢ったことがあるのだということにならないか? そして、助けを必要として伸ばされたシエルリーデの手に、気付けなかった?
青褪めた表情のまま、隣に立つウィリアムの顔を見上げたヴィルフリートは、従兄弟が既に己と同じ考えに行き着いていることに気付いた。
「綾袮が叫んだ言葉、インドのものだよな? 識婁が綾袮を落ちつけてたのもインドのものだ」
「ああ、インドの言葉で『あたしに気付いて、あたしを売らないで』だった……。識婁の言葉までは覚えてないけど……」
力無く答えたヴィルフリートの言葉に、思いがけぬ声が響いた。
「私が綾袮を落ちつけた言葉はね、インドの言葉で『おねえちゃんだいじょうぶよ、タラがわかる?』よ。今の言葉とその表情を見てると、ようやく気付いて頂けたようね。
私は何度も言ったわ。貴方はあの子を傷付ける、と。私の言葉の意味、ようやく解って頂けたのかしら?
私はこうも言ったわね。あの子をこれ以上傷付けることも、同じ絶望を味わわせることも許さない、と」
怒りに満ちた色を湛えて、姿を現したのは識婁。識婁はインドの言葉で泣き叫んだ綾袮を、インドの言葉で落ちつけた。
つまり、インドでの綾袮を知っていて、恐らくは、綾袮が、シエルリーデが、助けを求めた手に気付かなかったヴィルフリートのことも知っている。
「きみはいったいだれ? インドの言葉で綾袮を落ちつけたきみはなにもの? きみは本当はウィリアムの暗示にも最初から、綾袮と同じでかかっていないんじゃないのか?」
「識婁、きみは一体何者なんだ。そして、何をどこまで知って……」
ヴィルフリートとウィリアムの言葉に、識婁は綾袮とは正反対の色素の薄い緩くカールしたロングヘアーをかきあげた。
「まだ判らない? 随分なご挨拶なのね、あたし、妹の駆け落ちを手伝ったのは間違いだったようね。妹はあのままで何処かの貴族に嫁がせるべきだったかしら?
必死で探せば、本当は、あの子自身を愛してくれた相手もいたのかもしれないものね。それとも、孫のエルフリッドに持たせた言伝が間違っていたのかしらね。
義理とは言え家族になっていた人間をこうも簡単に忘れ去られた挙句、あたしの大事な妹をここまで貶めてくれるなんてね」
識婁の言葉に、ヴィルフリートは口元を震わせた。
「……ルー……シア?」
「ご明答。あたしの一つ昔の名前はタラ。タラの以前の名前は、ルーシア・ルディエット・ヴィーアル。シエルリーデ・セントカティルナ・ドゥ・ルディエットの、養子に出された腹違いの姉よ」
「急に貧血を起こしたんだよ。もう少し寝ておいで、リーデ」
声の方向に視線をやると、シルバーグレーの髪に翡翠の瞳という神秘的な容姿の綺麗な少年が、優しげな微笑みを浮かべて、ベッドの横に置いたチェアーに腰掛けていた。その隣にも誰かがいる。
瞳を凝らすと、襟足で伸ばされたオレンジブラウンの髪とキャラメル色の瞳の、これまた特徴的な面立ちをした青年だ。ベッドの鈴を取ろうと起き上がろうとすると、少年が手を差し出したので、綾袮は怯えて大きく叫び声をあげた。
「いやっ!! 触らないでっ!? 誰か、誰か、来てっ!! 知らない人が入り込んでるっ!! いやっ、誰か、聞こえないのっ!!? 識婁ちゃん!! 誰かぁっ~!!」
優しげな少年だとは思うけれど、知らない少年と青年。見知らぬ男性二人にいきなりベッドの横に陣取られていて、何も思わずにいられるほどには綾袮は幼くはないのだ。
綾袮の言葉を聞いて、少年と青年が何故か顔色を変えた。変な人達だと綾袮は思う。唐突に見知らぬ人にベッド脇に立たれて、それも男性に立たれていて、女の子が怯えないはずがないと解らないのだろうか。綾袮の叫び声を聞き付けてくれたのか、識婁が乱暴に扉を開いて入って来た。
「綾袮、どうしたの!?」
「識婁ちゃん、変な人達が部屋に入り込んでるのっ!! いやっ、なに、っだれ!?」
混乱しきって叫ぶ綾袮に、識婁が優しく囁く。
「大丈夫だから落ち着いて綾袮。だいじょう……」
部屋の騒ぎに使用人達も駆け込んできて、綾袮はますます混乱した。中年の男性使用人の一人が、綾袮に向かって手を差し出そうとした。
「いやっ、いやよっ、いやぁっ!! その人達を遠ざけて!! いやっ、いやぁっ!! いやっ、イヤよっ、Saya menjual!! Saya memperhatikan!!」
「綾袮、大丈夫。綾袮、Hei, Semua kanan!! Menemukan Tara!?」
ヴィルフリートは茫然と立ち尽くしていることしか出来なかった。それは、ウィリアムも同じだったらしい。そんなヴィルフリートに、識婁が怒鳴り付けた。
「出てって!! 綾袮は今、普通じゃないってわかるでしょう!? 今直ぐ出ていってっ!!」
先程の騒ぎは……。綾袮の言葉はなんだったのだろうと……。ヴィルフリートは、綾袮の屋敷の塀にもたれて崩れていた。テレビ局の控室で気を失う前の綾袮は確かにシエルリーデの記憶を取り戻していた。
遠い昔のリーデの表情で、リーデの悪戯心で、リーデの言葉で。ヴィルフリートとウィリアムを驚かせ、自分の記憶は戻ったのだと告げていたのに…………。
目覚めた綾袮は、ヴィルフリートとウィリアムを指して、『知らない人が入り込んでいる』と言った。それは、綾袮はリーデの記憶を再び失い、それどころか、ライブ会場で出逢ったあの日から、今日までの記憶まで。その全てを一気に失くしてしまったということだろうか。
どうしてそんなことが起こった? それに、綾袮の台詞はなんだ? その人達を遠ざけてと叫んで混乱しきっていた綾袮が、使用人が差し出した手に叫んだ言葉はインドのものだった。
インドの言葉で、『あたしを売らないで、あたしに気付いて』と、そう、叫んでいた。そこまで考えて、ヴィルフリートは青褪めた。
綾袮が綾袮としてヴィルフリートやウィリアムと出逢った日、ウィリアムの暗示にかからなかった綾袮は単身乗り込んできて、その中で叫んだことがある。
ヴィルフリートを傷付けるなと何故言うのだっ!? あれは、綾袮の中に眠るリーデの声に対するものだったろう。けれど次に綾袮は叫んでいた。
『彼は気付かなかった』と。『貴女であるアナタの手を振り解いたのにっ!!』と。それは、先程の綾袮の言葉と態度に繋がりはしないだろうか?
――――綾袮は……シエルリーデは、『千年綾袮』として生まれてくる前に。他の場所で生まれてはいないだろうか?
それも、そのときの綾袮は、いや、シエルリーデは、何かがあって、ヴィルフリートの手を必要としていた。ヴィルフリートに助けを求めるようなことになっていた。
つまり、ヴィルフリートは綾袮ではないシエルリーデの生まれ変わりに出逢ったことがあるのだということにならないか? そして、助けを必要として伸ばされたシエルリーデの手に、気付けなかった?
青褪めた表情のまま、隣に立つウィリアムの顔を見上げたヴィルフリートは、従兄弟が既に己と同じ考えに行き着いていることに気付いた。
「綾袮が叫んだ言葉、インドのものだよな? 識婁が綾袮を落ちつけてたのもインドのものだ」
「ああ、インドの言葉で『あたしに気付いて、あたしを売らないで』だった……。識婁の言葉までは覚えてないけど……」
力無く答えたヴィルフリートの言葉に、思いがけぬ声が響いた。
「私が綾袮を落ちつけた言葉はね、インドの言葉で『おねえちゃんだいじょうぶよ、タラがわかる?』よ。今の言葉とその表情を見てると、ようやく気付いて頂けたようね。
私は何度も言ったわ。貴方はあの子を傷付ける、と。私の言葉の意味、ようやく解って頂けたのかしら?
私はこうも言ったわね。あの子をこれ以上傷付けることも、同じ絶望を味わわせることも許さない、と」
怒りに満ちた色を湛えて、姿を現したのは識婁。識婁はインドの言葉で泣き叫んだ綾袮を、インドの言葉で落ちつけた。
つまり、インドでの綾袮を知っていて、恐らくは、綾袮が、シエルリーデが、助けを求めた手に気付かなかったヴィルフリートのことも知っている。
「きみはいったいだれ? インドの言葉で綾袮を落ちつけたきみはなにもの? きみは本当はウィリアムの暗示にも最初から、綾袮と同じでかかっていないんじゃないのか?」
「識婁、きみは一体何者なんだ。そして、何をどこまで知って……」
ヴィルフリートとウィリアムの言葉に、識婁は綾袮とは正反対の色素の薄い緩くカールしたロングヘアーをかきあげた。
「まだ判らない? 随分なご挨拶なのね、あたし、妹の駆け落ちを手伝ったのは間違いだったようね。妹はあのままで何処かの貴族に嫁がせるべきだったかしら?
必死で探せば、本当は、あの子自身を愛してくれた相手もいたのかもしれないものね。それとも、孫のエルフリッドに持たせた言伝が間違っていたのかしらね。
義理とは言え家族になっていた人間をこうも簡単に忘れ去られた挙句、あたしの大事な妹をここまで貶めてくれるなんてね」
識婁の言葉に、ヴィルフリートは口元を震わせた。
「……ルー……シア?」
「ご明答。あたしの一つ昔の名前はタラ。タラの以前の名前は、ルーシア・ルディエット・ヴィーアル。シエルリーデ・セントカティルナ・ドゥ・ルディエットの、養子に出された腹違いの姉よ」
後書き
作者:未彩 |
投稿日:2015/11/18 22:34 更新日:2015/11/24 15:03 『永遠の終わりを待ち続けてる』の著作権は、すべて作者 未彩様に属します。 |
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