酸素計画

日記など雑多な文章

日記未満のことを書きます。

『ジェイコブス・ラダー』(1990)4Kレストアの感想です。
#鑑賞記録

【注意】
・作品の内容に触れています。
これは感想です。レビューではありません。




・軍隊という閉鎖的かつ性別に偏りがある集団のコミュニケーションに、「これはいいのか……?主人公は大丈夫なのか?(本当は嫌だけど、気を遣っているとかではないですか?)」と思いました。見方が陰キャすぎる。

・攻撃の場面がかなり怖かったです。もうここから悪夢は始まっていたのか、それとも……と見終わったあとで思いました。

・地下鉄の床が汚くて驚きました。
昭和〜平成初期の地下鉄や電車もこんな感じだったのかなと思いました。

・電車の場面が悪夢っぽい(話してくれない乗客、通常の人にはないと思われるものを持つ人の存在、こちらを見てくる乗客、出られない駅、なぜか向こうのホームに強引に渡ろうとしてしまう主人公、車両に見えた不気味な人影たちなど、理解できなくはないが、それぞれが微妙に現実に起こりがたく、混乱してしまいそうな事象が多発する。)ので、怖かったです。
それでも、小さい頃に見ていた夢みたいで懐かしかったです!(懐かしいのですが、夢そのものは別にいい思い出ではないです。ただ、あの夢を見ていた頃の自分が懐かしい気がします。)

・序盤の写真を燃やすところにも驚きましたが、ここで「子どもの名前は聖書にちなんでいる」「地獄では思い出が燃やされている」というセリフで、何となく実は主人公は冒頭の戦場で亡くなりかけていて、これは死の間際に見る夢や臨死体験ではないのか?と思いました。

・『野火』『ジョニーは戦場へ行った』のように、戦場とそこで「地獄のような現実」「極限化で生死に向き合い、宗教などへの救いを追求する」みたいなところ?が似ている気がしました。
この二つの映画と、チラシのウラさんの『彼らの実感としては今も』を読んでいたおかげで、「あ、こういう作品かな?」と自分なりに構えて見られたので、かなり見やすかったです。
先入観はスリラー要素強めだと思っていたので、こうやって見られてよかったのか、まっさらな状態で見た方がよかったのか、分かりませんが……

・ジェジーは地獄側というか、死の負の側面を象徴する人物だとしたら面白いと見終わったあとで思いましたが、さすがに考えすぎだと思いました。

・矯正してくれる人の施術の首ゴキ!で「えっ……死……?(首のマッサージか何かで有名人が亡くなったニュースがあった気がする。)」と思いました。
この施術で主人公は死にかけていて、死の間際の光景を思い出しているとかだったら嫌だな……と思いました。
(個人的には、体を正そうとする=現実にわずかに戻る、みたいな象徴?と思っています。)

・郵便局から帰るときに、色んな人から声をかけられるところで「これは……夢か幻ですよね?えっ……アメリカってこれが普通のことなんですか……?」となりました。海外の文化は分からない!!!を実感しました。(知識で知っていたとしても、やはり情報が足りなさすぎて実際その場に行って住過ごしてみないと分からないという感覚です。)

・病院で医師がいないところも、悪夢感があり好きです。
自分が通っていたはずなのにそれが通用しない、受付の人の頭に何かがあっても「ああ、できものか」にならずに異様に怯えてしまうなど、頭で恐怖を生成している感覚がすごかったです。

・パーティ会場での手相のあたりの会話で「たぶん、主人公は亡くなりかけていて、これは現実ではなさそうだ」とかなり思いました。

・パーティ会場でのパニックが、本当に現実で幻覚を見ているようでもありながら、悪夢を見ていてもおかしくはない絶妙なラインのリアリティとあり得ない恐怖のバランスの恐怖で本当に怖くて素晴らしかったです。
(私は、小さい頃に見た夢のような世界と似た恐怖を感じると、懐かしさと絶望を感じてとても落ち着くので好きです。自分でもよく分からない感覚ですが……)

・高熱が出ているところは、主人公が亡くなりかけているとかで現実の肉体の状態と呼応しているとかなのかなと思いましたが、現実であっても普通に怖い体験だと思いました。

・主人公がバスタブで目覚めて涙を流すところが、なぜかとても美しいと感じて好きです。

・子どもを寝かしつける場面や、事故で子どもが亡くなる直前の場面もですが、直接的ではないのに親から子どもへの愛や、子どもが親を慕う様子、家族の愛情、子どもを喪う前後の平穏な日常と悲しみの対比がものすごくてすごかったです。

・かつて軍隊が同じだった人たちが爆発で亡くなったり、同じことで悩んでいるらしいのを知ったり、弁護士に依頼したことが断られたりする一連の流れが、物語が進むことで報酬系が刺激されていて疑問に感じにくくも、冷静に考えるとおかしいのでは……?となるどこか不気味な雰囲気がぞわぞわします。
(ここで悪魔には十字架などが聞かないという苦悩に、恐怖などの負の側面=悪魔、生の側面=神などの神聖なもの、という単純な話ではなく、死の受け入れ方によって地獄にも天国にも行く=階段を下りるか、上るかは自らの心次第?なのかなと思いました。)(心次第というか、死への向き合い方とか、死の受容、諦念、許し、罪の意識……?の方が合っている気もしますが、頭が空っぽすぎて分かりません。)
(矯正してくれた方の言っていたセリフ通りかもしれません。)

・唐突な誘拐の仕方に「こんな白昼堂々とはしないだろ!」と思ってしまい、たぶん夢だなと思いました。
しかし、唐突に始まるアクションがかなり激しくてわくわくしました。アクション映画が好きすぎる弊害がここで出るとは……

・車から脱出してサンタクロース(の格好をした人)に財布を奪われるのは何……?!何かの比喩か、それとも「何だこれ……最悪すぎる……」と絶望する主人公を表しているのか分からなくて、未だによく分かっていません。

・ここで手術されるところで、手術室に行くまでが異様に長くて、拘束までされて動けない中で、廊下に倒れた人、血肉らしいもの、ガラス越しに頭をぶつける人、天井で這ったり、何かをしている人々、どんどん暗く、肉塊らしきものが増えていき、不気味な人に注射されるところまで、すべてが不気味で最高でした。
(特に天井の金網で、授乳している親子が怖くて凄まじかったです。自分でもなぜそう感じたのかはまったく分かりませんが……)
(『マッド・ゴッド』のように不気味で、吐き気がして、現実にもあるかもしれない光景なのに、あり得ないと思ってしまう歪さがあり、理解できそうで、何も理解できない嫌悪感を持った恐怖がすごくて、とても好きです。)

・家族が病室に来るところで、このあたりは主人公が死への恐怖から理想などを見ているとしたら辛いと思いました。

・病室を無理やり抜け出すところが、かなり正当(正当ではないが、怒りを表すと病院の人々や患者が訝しんで、距離を取るところは、理解できるため、悪夢感が薄れている。)で、「何?!ここはどこ、なんできてくれたんですか?怒りすぎでは?!」と思いつつ、やっとこの悪夢から抜けられるのか……?となって好きです。

・主人公が所属していた舞台が薬物の実験台になったことが判明する(しかし、実際この作中の現実世界はどうなっているのか不明。)ところですが、この作品が謎解きやサスペンス要素を持ちつつも、死の間際の幻覚・悪夢の世界を描いた世界であるため、主人公の治療中に誰かが「この実験は失敗だった〜」とか話しているのを、負傷した主人公が受け取って解釈した場面だったのかもしれないと想像しています。

・人の攻撃性を高めるのはいいが、そのあととか、後遺症とかはかなり危険ではないのですか……?になってしまいました。
『虐殺器官』みたいに、良心や抵抗みたいな感覚を抑える、痛みを紛らわせるの方が運用がしやすそうだと思いました。(攻撃性を高めるだと、極端な場面だと『哭悲』みたいになりそうだな……と思ったりしました。)
(あと個人同士の肉弾戦や情報が限られた地上戦などは、理性を外した方が強くて勝つのは分かりますが、軍隊規模だと、作戦、情報戦、物資が滞りなく供給できる、みたいなところの連携が重要なのでどうなんだろう……などと考えたりなど。どうなんですか?)
(しかし、戦時中はかなり変わった兵器も限界の環境下で作り出されており、あり得るでしょう……と思いました。)

・主人公がドッグタグをつけ始めたことも、死を恐れて遠ざけるばかりではなく、受け入れる準備をするみたいな比喩だったのかなと思いますが、考えすぎだと思います。

・家に帰って(迎えてくれる人が顔見知りで、主人公も慣れている場所に来たように見えるため、私はここがかつての家と判断しましたが、現実世界の家というよりも、人が亡くなるときに来る場所なのかもしれないと思いました。階段もあることから、天国と地獄の分かれ目なのかもと思いましたが、さすがに飛躍しすぎだと考えています。)、不穏な音楽が流れつつも、階段に座る亡くなった息子さんがいるところで、「救われた」と思いました。
(救われたというよりか、息子の死に向き合って、死を受容できた、という方が合っているかもしれませんが、見ていたときは「救われた」としか思えない不思議な感覚がありました。)

・階段を上がっていきながら、現実の主人公は亡くなっていて、主人公の死は膨大な感情や物語を伴うのに、現実では戦争で起こる莫大な死のうちの一つであり、ドッグタグもひょいと投げられて処理されてしまうものなのだという、個人と集団(集団は、国家、社会と言い換えられそうです。)の対比が無情で好きです。

・見終わってから、作中で「生きている」「死んでいる」といったセリフが各場面で印象的に使われていて、緩急となると同時に、この物語は現実か悪夢なのかみたいな境目が曖昧になっていく感覚があって好きだと思いました。
(現実のような幸せな光景と地獄のような悪夢めいた出来事を繰り返すことで、様々なことが曖昧になっていって、どちらでも構わない気もしてきて、最後に残った大切なものや心残りにどう向き合うのかという感情が残って、その感情の純粋さが際立っていて好きなのかもしれません。)

・最後の文章が出てくるあたりで、主人公の部隊に薬物が使われたのはほぼ確実(そうではなければ、あの情報は出さずに、死の間際の人間の思考に焦点をあてたまま終わる方が作品として余計なものが少ない気がするため。)と私は考えています。
そのため、戦争という無情で残酷な状況下で、凄惨な死を遂げようが、主人公のように階段を下りるか、上るかは、その人に与えられた最後の自由である=人間の尊厳や美しさ、みたいなことを表現している作品だと私は思いました。
そのため、サイコスリラーというよりも、反戦の側面を持たせながらも、宗教や哲学的な救いや尊厳みたいなところを追求した作品だと考えています。
恐怖の表現もすごいですが、そのおかげで救いに向かうところもまたすごく安堵する、すごい映画でした。

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