其之四十四
悟空とピッコロの白熱した試合により、ピッコロの正体がかつてのピッコロ大魔王の生まれかわりとバレてしまって仲間とアナウンサー以外の観戦者は一目散に会場から逃げていった。会場は閑散としてしまったが、これで被害の心配は無用となった。
より戦いやすくなった会場で、ピッコロは不思議な技を使って自身を何倍もの大きさに変貌させた。悟空は負けじと応戦するが、掌で弾き飛ばされてしまって思わず天津飯が身を乗り出した。
「悟空っ!! 助太刀するぞっ!!!」
「天津飯っ!!!」
が厳しい表情で天津飯の前を遮るように手を差し出した。
「悟空なら大丈夫……!」
「そういうこと……! て、手助けしてもらっちゃ優勝できなくなっちまうよ」
は悟空の背中を見つめて厳しい表情を少しだけ崩して笑うと、たちからは見えないが、同じく笑いながらもまだ全然目が死んでいない悟空がゆっくりと起き上がった。
天津飯は口を噤む。こんなにも心から信頼しきっているふたりを見たら、なにも言えなかったのだ。
それから悟空は機転をきかせてピッコロをより大きくさせると、体内に入って魔封波の小瓶を手にして吐き出された。
「っ!!」
悟空に投げられた小瓶を受け取ったがフタをあけると、神がパッと現れた。
「神様ーっっ!!」
が感激して神に抱きつく姿に悟空はちょっと嫉妬してしまった。たとえ試合中であっても抑えようのない感情であったのだ。
熾烈を極める空中戦は悟空が武舞台に叩きつけられたことで終わりを告げた。
ピッコロから受けたダメージで動けない悟空に追い討ちしてやろうとすかさず飛び掛かると、神がピッコロの拳を受け止めて悟空にふたりでピッコロを倒そうと提案する。
「ジョーダンじゃねえよ神様っ!!」
もちろん悟空がそんな提案を素直に受けるはずもなく、激しく突っ撥ねる。あくまで一対一の試合にこだわり、勝敗を決めたいと訴える悟空に神は戸惑いを隠せないでいた。しかしだけは桃白白の時や以前のピッコロ大魔王の時も同じようなことを言っていた悟空を思い出していた。結局両方とも手を貸してしまったからこそ、今度はどんな状況になっても悟空を信じて見守っていたいと思うのだ。
「神様、私たちが今出来ることは悟空が勝つのを信じるだけです」
はいつの間にか武舞台に上がり、神の腕を引っ張った。の顔を見れば、悟空と同じように強い意志を宿した瞳とぶつかる。
悟空はの言葉に小さく笑った後に顔を引き締めてピッコロと対峙し、これでチャラだと神が庇った分を殴らせた。
「ふっふっふ……さすがのきさまも疲れがみえはじめてきたな……」
息が乱れ始めた悟空だが、ピッコロの顔にも疲労の色が見える。両者とも苛烈な争いで消耗しているからこそ神は今この場で悟空と結託してピッコロを倒したいのだが、悟空は決して頷かない。
「わりいけどわがままきいてくれ。武道家の意地なんだ」
「神様も同じ武道家ならわかるはずですよね、悟空の気持ち」
「ぬぬう……」
これ以上有無を言わせない悟空とに、神は苦渋の決断を迫られていた。
「神様……オレからもお願いします。悟空ひとりに戦わせてやってください……」
「い、いざとなればオレたち全員が束になってかかればなんとかなりますよ!」
天津飯は静かに訴えた。今のこの世があるのは悟空、そしてのおかげなのだ。そのふたりが望むのなら誰も文句は言えない。
だが、クリリンの言葉にピッコロは嘲り笑う。
「笑わせるな! きさまたちなど神のやつも含めて敵ではない。孫悟空を殺し、じっくりとそいつを嬲り殺しにしたらこの世はオレさまのものだ!!」
「はんっ! あんたに私を殺すことなんて出来ないわ!! 絶対に悟空が勝つんだから!!」
売り言葉に買い言葉。恐怖のピッコロ大魔王に脅されたところで、負けず嫌いなが怯むはずもなく、それどころが鼻で笑い飛ばした。
「おめえには殺させねえよ……!! オラ、勝てる自信があるんだ!」
と悟空に揺り動かされ、神はこの世と自分の命を悟空に託してやっと武舞台から降りる決意をした。
「神様……神様が自分の死を望まないでください。悟空が勝てると言ったら、勝てると信じてください」
神と共に武舞台から降りてとなりに並んだが、この激戦を映すには少々穏やかすぎるほどの瞳で悟空を見つめながら婉然と微笑んでいた。
本当に不思議なふたりだ――悟空とがいれば、この世はなんとかなるかもしれないと根拠のない自信が湧いてくる。それほどは悟空を一途に信じ、そして悟空もまた信じてくれるに応えるように戦いの中でさらに強くなっていくのだった。