蜜雨

其之五十四

※結婚式終了後の会話多めな小話(ただ師匠たちがわちゃわちゃしてるだけ)



「ほっほっほ! こんな別嬪さんを嫁にもらうなんて、さすが我が弟子じゃ!」
「まったく、まさかあの約束が果たされる日が来るとはな……」

 意気揚々と笑う悟飯とは対照的に、沙門は渋い顔で頭を抱えていた。

「約束?」
「前に悟空とが小さいころに会ったことがあるといったじゃろう?」

 首を傾げるに、悟飯は以前試合した際に話してくれた話を掘り返してくれた。



 十数年前――沙門に拾われたが歩いたり言葉を喋ったりする頃合いに、悟飯もパオズ山で悟空を見つけた。亀仙人の元では同時期に共に修行に明け暮れたふたりだが、子育てに関しては先輩の沙門に悟飯は教えを請いに行ったことがあった。

「どうにも手がつけられんきかん坊でなあ……いててっ」

 抱っこを嫌がるように暴れ回る悟空の蹴りが見事悟飯の頬に入る。

「単に抱き方が下手なのではないか? どれ、私が……ぐわっ!」

 先輩風を吹かす沙門の顎に悟空の蹴りが決まった。

もだっこすりゅだっこすりゅ!!」
、自分のことを名前で呼ぶと育ちが悪いと思われると言っただろう」
「わたちもだっこすゆ!」
「お主そんなことをこんな幼子に言いつけてるのか……?」

 早速教育に対する価値観が大きく違うことに悟飯は若干の不安を覚えていた。

「わあ~赤ちゃんかあいいねえ」

 沙門や悟飯からしてみたらだって悟空と似たようなものだが、はすっかり悟空のお姉ちゃん気分だ。

「「……なんと?!」」

 のほのぼのとした空気に呑まれそうになったが、沙門と悟飯は目の前の光景に同時に声を上げた。信じられないことに今までと打って変わり、悟空は暴れるどころかそのままの腕の中で寝てしまっていたのだ。

「ふうむ……やはり悟空も男じゃな……」
「お前と一緒にするな!!」

 どこか納得した表情を浮かべてうんうんと頷く悟飯にすかさず沙門がツッコミを入れた。さすが長年苦楽を共にした弟子同士、漫才もお手のものである。

「うちの暴れん坊を一瞬で手懐けるとは……どうじゃ、将来悟空の嫁になってみんか?」

 今日うちで晩ご飯食べてく?みたいなノリで親友の愛娘であり弟子を嫁に誘うあたり、さすが亀仙人の弟子である。

「なにを馬鹿な「およめしゃ! なゆなゆ! 誓いのちすすりゅ!」

 そんな冗談を堅物の沙門が許すはずがないのだが、その前にが沙門の言葉を遮り、あまつさえ悟空の唇にキスを落とした。それを見た悟飯はニコニコとピースを決め、一方沙門は砂と化したのだった。後に沙門がどこでそんなふしだらのことを覚えたのだとを問いただせば、本で読んだと無邪気に返され、本を読むのは想像力を育むのに大いに役立つという教育方針も考えものだと痛感した。



「――とまあ、このようにわしは悟空の許嫁をげっとしたわけぢゃ」
「いいな漬け? じいちゃんそれうまいんか?」
「ふぉっふぉっふぉっ! そりゃ今の今まで寝かせてたのじゃからたいそう美味であろう」
「そんなうまいんだったら今すぐ食わせてくれよ! オラ腹減っちまった! なあ、そのいいな漬けどこにあんだ?」
「どこってそこにおるじゃ「悟飯さんも悟空も口を慎んでください!!」

 耳まで真っ赤にして怒るを相手に下世話な話も笑ってできるのだから、やはり亀仙人の弟子である。

「やれやれ馬鹿な弟子を持ったものだ……」
「おぬしもおぬしじゃろ。あないに幼い時に交わした約束なぞ、いつでも反故にできたものの……相も変わらずおぬしは律儀な奴だのう」
「それじゃ師匠が遺言で悟飯さんの所を訪ねてみろって言ったのは……」
「あの時の約束だけでを悟飯の元へ向かわせた訳ではない。悟飯はこの通りスケベじじいだが、腕は確かだ。だからまだまだ未熟者のお前を鍛えてもらおうと思ったんだが、こいつ私より先に死におった」
「いやはや、面目ない。じゃが、悟空には女には優しくしろという教えはしっかり叩き込んでおいたぞい」
「ああ! ちゃんとじいちゃんの言いつけ覚えてたぞ!」
「うんまあ、女を知らな過ぎてブルマのこと妖術使いだと思ってたけどね」
「お前は男装していたしな」

 今振り返れば、悟空とはよく結婚できたものだと師匠ふたりは感慨深げに唸った。

「悟空、をしあわせにするのじゃぞ」
「ああ!」
「ふふ、安心してください。もうこれ以上ないくらいしあわせですから」
のじいちゃん! オラ、これからもをまもっかんな!」
「当たり前だ! そもそも私はまだ貴様のことを認めてはおらんし、私の墓の前でに手を出したことにも腹を立てているのだぞ! 大体武道家としてもう少し礼儀をだな「わかったわかった! 話の長い老人は嫌われるぞ。説教はそれくらいにして、もうちいっとお前は素直になれんのか」
「………………しあわせにならんと化けて出るからな」

 いつもより眉間の皺は酷いし、しかめっ面ではあるが、も悟飯もそれが沙門の照れ隠しだというのは長年の付き合いでわかった。だが、ただひとり沙門と付き合いが浅く、空気を吸うものだと思っている悟空は隣にいるに小さく問い掛ける。

「なあ……あれがツンデレってやつなんか?」
「え」

 世俗的な知識など一切持ち合わせていない悟空の口から信じられない言葉が発せられ、も目が点になる。

「やはり貴様にはやれん!!!!」
「おっ落ち着け沙門!!」

 もちろん耳に届いていた沙門は悟空に飛び掛かろうとするが、すかさず悟飯が羽交い絞めにしてなんとか事なきを得た。

「そっか! ツンデレじゃなくてツンギレの方か!」
「もう勘弁して!!」

 こんな取り乱す師匠を見ていると、なぜかキレた自分もこんな感じなのかとひとつ学んだなのであった。



※ヤムチャとクリリンがはツンデレだと話していたのを聞いて知識を吸収した悟空さ
※許嫁って響きにときめくのは完全にらんまの影響。ついでにいいな漬けネタも引用






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